竹島で経済問題のリンク考えよ 西岡力
竹島で経済問題のリンク考えよ
東京基督教大学教授・西岡力
韓国の李明博大統領が10日、竹島(韓国名・独島)への上陸を強行した。日韓の友好関係を壊す暴挙であり、強く抗議したい。
≪日韓友好の精神踏みにじった≫
韓国大統領府(青瓦台)高官は10日、「日本政府は防衛大綱および防衛白書、外交青書を通じて独島に対する領有権を継続的に主張しており、小・中・高校用検定教科書での領有権の主張も徐々に強化している。これ以上、穏やかな対処を続けてはいられない」と竹島上陸の狙いを語っている。
大統領自身は13日、「(慰安婦問題について)日本のような大国が心を決めれば解決できるのに国内の政治問題のせいで(政府が)消極的な態度を取っており、行動で(我々の不満を)見せる必要がある」と考えたことが竹島訪問の動機になった、と説明した。
日本政府が竹島を日本領だと主張し慰安婦問題で補償をしないから、大統領が竹島に上陸したというのである。領土や歴史に関する認識は、国が異なれば絶対に一致できない。日本の認識が韓国のそれと違うことを容認せず、大統領が日本人の感情を踏みにじる行動を取ることは、日韓友好の精神に反するもので放置できない。
1965年、日韓国交正常化の際に、竹島問題は最後まで懸案として残った。
「両国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとし、これにより解決できなかった場合には、両国政府が合意する手続きに従い、調停によって解決を図るものとする」という内容の外相同士の「紛争解決に関する交換公文」を確認し、両国の主張の違いを事実上、認め合って国交正常化に踏み切った。
≪領土主張弱めた事なかれ外交≫
日本としては、領土を不法に占拠されていながらも、同じく米国と同盟を結んでいる韓国との国交が冷戦下の国益にかなうという判断を優先して譲歩したのだ。
その時以来、日本の竹島政策は一貫してはいる。すなわち、日本の領土であると主張し続ける一方で、そのことを経済や安全保障など他の分野の日韓間の問題に連関づけない-という政策である。そうした立場から、経済面で韓国に対し様々な支援を行ってきたし、安全保障面でも在日米軍基地が朝鮮有事に使われることを容認することなどで、韓国を間接的に支援してきた。ただし、事なかれ外交の結果、領有権主張の部分がかなり弱体化してしまったことは真剣に反省しなければならない。
≪上陸は愚かなオウンゴール≫
韓国も日本のそのような譲歩と支援を多として、朴正煕政権、全斗煥政権、盧泰愚政権までは竹島の警備や施設を増やすことをせず現状を維持してきた。ところが、金泳三政権になって、国内での人気取りのために竹島問題を利用する政策が採用され、次々に施設が造られ警備隊も増強された。そればかりか、日本が竹島領有を主張することに対してさえいちいち抗議をしてくることになった。
その果ての李大統領による竹島上陸である。日韓関係が悪化することを喜ぶのは、北朝鮮と中国という東アジアの二大全体主義政権である。北の金正恩体制が不安定な中、韓国の安全保障と南北自由統一のためには、自由民主主義・市場経済という同じ価値観に立つ日本の協力がいつになく必要になっている時期である。李大統領の行動は、「オウンゴール」にも似た愚挙と言わざるを得ない。
日本はこれに対して3つのレベルで対抗措置を取るべきだ。
第一に、認識のレベルでは、今回のことを逆利用して日本国内と国際社会に向けて竹島は歴史的にも国際法上も日本領土であり、韓国の占拠は不法なものだというキャンペーンを官民が協力して展開すべきだろう。国際司法裁判所への提訴も65年の交換公文に基づく形で堂々と行うべきだし、領土問題を専門に担当する政府組織も早急に立ち上げるべきである。
李大統領が慰安婦問題を竹島上陸の理由に挙げている以上、歴史認識の問題でも、セックススレーブなどという事実無根の誹謗(ひぼう)に対しては、国際的に反対の論陣を張っていくことが肝要で、そのための専門部署も新設すべきだ。
第二に、これまで竹島問題と経済問題は一切リンクさせてこなかったが、今後も韓国側が認識の一致を求めて暴挙を続けるなら、経済のレベルでも例えば、スワップ枠の供与などに際して一定の検討をすることも必要かもしれない。慎重にしかし韓国側に分かるような形でそれを進めるべきだ。
第三が、安全保障のレベルである。北朝鮮と中国という日本にとっても最大の脅威に対して、韓国が韓米同盟の枠の中で対抗しているうちは、竹島問題を安全保障に絡ませてはなるまい。沖縄の米海兵隊が有事に朝鮮半島で戦闘に入れるように、これまでと同様に、日米同盟を維持し強化していくべきだろう。ただし、万々が一、韓国で従北勢力が政権を取って韓米同盟が解消されるような事態になって、竹島に北朝鮮のレーダー基地ができでもしたら、それを阻止するために、自衛隊の活用も考えるべき課題となってこよう。(にしおか つとむ)
8月17日付産経新聞 朝刊「正論」