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2012.09.29 (土)

問題を妥協で収めることは日本の敗北の一歩となる 櫻井よしこ

 問題を妥協で収めることは日本の敗北の一歩となる

 櫻井よしこ  

尖閣諸島問題で、中国政府は反日デモを抑制しており、それ故に日本政府が尖閣防衛で積極的に動かず、「冷静に対処」するのが正しい道だという政府や多くのメディアの主張や説明は根本から間違っている。

胡錦濤国家主席も、習近平副主席もいま全力を挙げて、尖閣諸島を中国領として確定する道筋をつけている。漁船1000隻が尖閣諸島に押し寄せるとの情報を流し、国家海洋局所属の大型艦船など12隻を尖閣諸島の周辺に集結させ、12隻を輪にして島の周囲を巡回させ続けた。梁光烈国防相は18日、米国のパネッタ国防長官との会談で「平和的な交渉による解決を望むが、われわれはさらなる措置を取る権利を有している」と述べた。

中国側は、大漁船団の派遣を示唆し、実際に大型艦船群に島を取り囲ませ野田政権に心理的動揺を与え、国防相自ら強硬な軍事手段の行使を示唆して米国の中立化を担保する構えをつくってみせた。中国共産党の狙いは大枠において達成されつつあるのではないか。パネッタ長官は第三国の領土問題に関して一方に肩入れすることはないと繰り返し、以下に述べるように野田佳彦首相ら民主党の動きをピタッと封じ込めてしまった。

首相は「大局に立って冷静に対処する」「毅然として万全の対策を取る」などと言うばかりだ。中国側が国防相まで出して「さらなる措置を取る権利」を宣言しているときに、日本国政府は18日に開いた尖閣諸島についての関係省庁次官会議から肝心要の防衛省を排除した。複数回の関係閣僚会議にも森本敏防衛相は呼ばれていない。領土問題が切迫しているいま、対応策会議の一切に防衛省を入れないことは、日本は軍事力を用いてまでも島を守ることはしないと言うに等しい。

この異常なまでの事なかれ主義こそ、間違いの根本である。中国に間違った印象を与えるにとどまらず、米国を含む国際社会に日本は主権の基本である国土防衛にも立ち上がらない国だという印象を与える。これではロシアや韓国が大いに喜ぶであろう。民主党政権の外交が自ら敗北を招いているのだ。

野田首相および玄葉光一郎外相らの今回の対応で、尖閣諸島問題が国際的な領土問題とされたことも深刻な国益の毀損である。

そもそも領土問題は存在しなかった。歴代の政権は民主党を含めてそう明言し続けた。それは日本の主権と管理が明確になっていて初めて意味を持つ表現である。ところが今回、米国のさまざまな形の“助言”や“要請”で、日中間に深刻な対立を生じさせない政策が促された。無論、これは年来の日本の対中妥協外交の基調と一致する路線でもあっただろう。結果として日本が領有権を明確にし、積極的に島を守る手立ても施されていない。自国領土の所管の仕方を他国に支配されたのである。主権はすでに奪われているのだ。

17日、パネッタ長官に玄葉外相は「冷静に対処する」と強調したが、本来なら、「いまこそ、日本は防衛力を強化充実させ、自国領土を基本的に自力で守る体制を目指す。日米同盟を実質的に強化し、日米両大国の力でアジア・太平洋地域の安定と秩序に貢献する」と言うべき局面である。

尖閣諸島の日本領有は1945年から72年までの27年間、米占領下の沖縄で久場島を米軍が射撃訓練場として使用していたことからも明らかだ。自国の領土を守るのは当然のことで、同盟国から支援の声こそ上がっても、牽制の声が上がること自体理不尽だ。

日本政府はこのように米国側に「冷静」かつ正式に伝えるべきなのだ。尖閣諸島も守れず、原発問題も米国に言われ急遽方針を変えるとしたら、民主党は精神的に米国の占領下にあると言わざるを得ない。問題を日本の妥協で収めることは、尖閣諸島のみならず、日本の敗北の一歩となるだろう。

『週刊ダイヤモンド』 2012年9月29日号
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