公益財団法人 国家基本問題研究所
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役員論文

2012.11.20 (火)

選挙で問うべきは統治機構改革 屋山太郎

選挙で問うべきは統治機構改革

評論家・屋山太郎  

 野党からは「ウソつき」呼ばわり、与党内からは「解散反対」の声で、「正直者」を自任する野田佳彦首相はいきなり「16日解散」という挙に出た。これだけ党内から足を引っ張られ、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)もできない、解散も封じられるというのでは、政権を維持する意味もない。まさに局面大転換の良策だ。

 ≪「官僚内閣制」に飽いた国民≫

 政治の混乱がなぜ起こったのかを分析すれば、自ずと、その混乱を収拾すべき方向も見えてくる。私なりに分析をしてみたい。

 3年3カ月前、半世紀余にわたりほぼ一貫して政権を維持してきた自民党が、なぜ壊滅的敗北を蒙(こうむ)ったか。なぜ308もの議席を民主党に与えたか。国民は、自民党政治が実は官僚政治であることに飽き飽きしたのである。国会は国権の最高機関であるはずなのに、法律の大半は政府提案である。官僚がこしらえて議員が国会を通すというのが政治の実態だった。官僚内閣制は戦後の新憲法で廃止されたはずだったが、その実、依然として続いていたのである。

 野田氏が政権を取る前に書いた「民主の敵」は、官僚主導政治の実態を暴き、4600の天下り法人に2万8千人が天下りし、そこに12兆円が流れていると指摘している。民主党の主要なマニフェスト(政権公約)は、「天下りの根絶」「公務員制度の改革」「地域主権の確立」「コンクリートから人へ」などだ。政治改革はこの一手だ、と思ったものだ。民主党は政治主導を確立するための手段として、外交、財政の基本政策を決める「国家戦略局」の創設を打ち出した。「政治主導確立法」と名付けられたこの法案の肝は、首相に財務省主計局を指揮する権限を与えるというものだった。

 ≪“トンカチ行政”脱皮できず≫

 この構想は、渡辺喜美氏が自民党の行革担当相時代に生まれた。これが党内からたたかれて潰されたため、渡辺氏は脱党して、みんなの党をつくったのである。

 古川元久官房副長官(当時)によると、政治主導確立法案は、小沢一郎民主党幹事長(同)と調整が付かず、日の目を見なかった(週刊朝日11月9日号)。民主党政権は日本郵政の社長に元大蔵事務次官を据えることで「天下り根絶」の看板をぶっ飛ばし、八ツ場(やんば)ダムの工事続行で「コンクリートから人へ」の看板も壊した。この政策こそ、自民党の“トンカチ行政”からの脱皮の象徴だった。

 「地域主権」の先駆けとなる国の「出先機関廃止」では、民主党政権は3回も閣議決定しながら官僚に作業をサボられている。

 公約を一つも実行していない段階で野田首相が乗り出したのは、「社会保障と税の一体改革」である。「任期中は消費税を上げない」と公約したのに、である。一体改革の姿は、誰の目にも、財務官僚が与野党の党首を呼び出して「やれ」と号令をかけてやらせたに等しいと映っている。官僚内閣制が今に至るまで140年にわたり続いている証左そのものだ。

 小沢氏は改革壊しの張本人とされ、その人物が「野田は公約を果たしていない」と離党した。支離滅裂である。野田氏は、消費税増税で歴史に名を残そうとしたのだろうが、官僚に服従した最後の指導者と位置づけられるかもしれない。鳩山由紀夫、菅直人の両政権は思い出すだにおぞましい。国際情勢に無知すぎ、危うく日本を潰しかねないところだった。

 ≪第三極が反自民・民主を吸収≫

 だが、民主党に期待した国民の思いが消えたわけではない。国民はその思いを誰に託すべきか。政治要求を受け入れようという政党が出現するのは当然で、それが第三極といわれる諸勢力だ。

 自民党の官僚主導政治はあまりに長かった。このため、国民は民主党に失望したからといって、自民党にそっくり回帰する気持ちになっていない。現に、自民党議員の半分ほどは、自党の病弊に気付いていない鈍感な人たちだ。

 官僚制度の改革を叫び続けてきたみんなの党が2度の選挙をくぐり抜けて伸びてきたのは、党の理念が揺るがなかったからだ。

 新星のように現れた日本維新の会には遠慮すべきタブーがない。連合を支持母体とする民主党議員の入党を断っている。TPP参加から憲法改正まで包含した維新八策で、その思想傾向はかなりはっきりした。率いる橋下徹氏は大阪府知事になった瞬間から、教師と職員の規律回復・強化に取り組んだ。この姿勢を高く評価する。自民党も民主党もこの政治の基本を全くわきまえなかった。橋下氏は大阪市長にとどまり、地域主権の一つのモデルを完成した後に国会に出てくるのだろう。これは統治機構改革への重要な手順だ。

 呼応して東の横綱、石原慎太郎氏が「太陽の党」を結成し、「統治機構のぶっ壊し」に加わった。17日、太陽の党は解党して日本維新の会に合流した。石原代表、橋下代表代行のコンビである。

 総選挙後に登場するであろう安倍晋三内閣の使命も統治機構の改革だ。参院で過半数を得るためにみんなの党などと組んで進めよ。(ややま たろう)
11月19日付産経新聞朝刊「正論」