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2010.03.09 (火) 印刷する

【詳報】 第2回 会員の集い シンポジウム 「民主党政権半年の総括と日本の未来」

国家基本問題研究所は平成22年2月25日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで第2回の「会員の集い」を開きました。第1部のシンポジウム「民主党政権半年の総括と日本の未来」には会員と一般参加者の合計874人が集まり、パネリストの櫻井よしこ理事長、田久保忠衛副理事長と、潮匡人、遠藤浩一、大岩雄次郎、西岡力各企画委員の発言に耳を傾けました。第2部の懇親会には530人が参加し、国基研役員、会員、一般参加者の間で歓談の輪が広がりました。シンポジウムの詳報は以下の通りです。

櫻井 鳩山政権になって顕著になったのは、日本という国家の基盤が月ごとに液状化していることです。外交力と軍事力をバランスよく整備しなければ、まともな国家ではあり得ません。しかし、わが国は、友愛を唱える総理大臣と国連至上主義の幹事長がいて、国家とは何かということを忘れている。国内をみると、日本人らしい生き方や、日本国としての基盤がないがしろにされている。それは歴史教育ができていないからです。つまり、国家が国家でなく、日本人が日本人でない。この二つの要素がさまざまな問題をわたしたちに突き付けています。それを増幅しているのが現政権ではないかと思います。日本を立て直すには、現状認識を正しく持つことから始めなければならないと思います。

田久保 21世紀の国際情勢で、すべての問題は1点に収れんする。それは中国の軍事的脅威をどう見るかという点だ。2005年に民主党の前原誠司議員(現国交相)は中国を「現実の脅威」と呼んで党内から批判された。脅威は軍事的な能力と意図で構成されるが、中国の意図は平和的だから、脅威でないと批判されたのだ。しかし、意図は確かめようがない。確かめたにしても、独裁者の意図は一朝にして変わる。そして、軍事と外交は切っても切れない関係にある。
 21世紀に大きな覇権争いの場となるのはインド洋だ。中国のインド洋進出は著しい。インドシナ半島のクラ地峡に運河を造ろうとし、ミャンマーやスリランカに基地を、パキスタンに大港湾施設を建設した。進出点をつないだものは「真珠の首飾り」と呼ばれ、インドは非常に警戒している。日本は太平洋だけ見ていては駄目だ。インド洋における中国の脅威に対して、米国海軍、インド海軍、日本の海上自衛隊は力を合わせるべきではないか。しかし、鳩山政権は逆のことをやっている。沖縄の普天間飛行場の問題が典型だが、米国とはうまくいっていない。中国とは接近する。(鳩山首相の外交指南役といわれる)寺島実郎さんは60年安保の(反米の)時代に時計の針を戻そうとしているのではないか。大変な危機になってしまったというのがわたしの認識だ。

櫻井 中国はその気になれば東シナ海をコントロールできると、考えている。太平洋でも、必要ならば、米国の介入を阻止できる軍事力を備えたと、考えている。その意味で東シナ海も太平洋も片付いたと考えがちです。中国は、次の目標として、インド洋に焦点を移してきた。すでに日本周辺の海は中国のコントロール下に入ってしまうという瀬戸際です。

西岡 国基研は昨年9月に鳩山政権に対して、「北朝鮮の急変事態に備え、韓国による自由統一推進を日本の目標とし、中国の朝鮮半島支配を防げ」という政策提言を出した。12月には訪韓し、その提言について韓国側と突っ込んだ話をした。北朝鮮の急変事態における協力こそ日韓が話し合うべきことがらだと韓国側は言っていた。
 焦点は中国の出方だ。歴史的にみても、朝鮮半島全体が反日勢力に取られると日本は危機に陥る。金正日の死後、後継者が政権を安定的に維持できない場合、中国は進出してくる準備をしている。しかし、中国より先に韓国が出ていく正統性があるという議論が韓国では高まっている。急変事態の時、日本はどうするのか。拉致被害者をどう救うのか。中国の影響力を排して半島全体を自由民主主義化することができるのか。米国は金正日死後の事態収拾で中国を頼りにするのか。それとも、自由民主主義の拡大という観点から日米同盟が機能し、韓国による自由統一が実現するのか。まさに岐路に立っている。

 鳩山政権はインド洋での海上自衛隊の給油活動を終了させるという暴挙に出た。マニフェストでうたった「自由闊達(かったつ)な憲法論議」も行われていない。集団的自衛権の行使についてはどんな検討が行われているのだろうか。朝鮮半島で米韓の作戦計画が発動されたときに、日本のできることは「非戦闘地域」で米軍に給油活動をするぐらいだ。このような状態をこのまま続けてよいのかという問題意識すら現政権にない。政権は交代したが、国家の基本問題は何も変わっていない。
 最近、自衛隊で「第2の田母神事件」が起きた。陸上自衛隊の連隊長が訓示で「同盟関係は外交や政治的な美辞麗句だけで成り立つものではない」という話の中で、「『信頼してくれ』という言葉で成り立つものではない」と付け加えたことが問題視され、処分を受けた。当たり前のことを言って処分が下されたことについて、現役幹部を中心に、全く容認できないという怨嗟(えんさ)の声が渦巻いている。
 政権交代しても何一つ変わらないのでは、少なくとも安保・防衛分野で、政権交代にメリットはなく、デメリットだけ残っている、と言うしかない。しかもそのデメリットは、インド洋給油活動にしても普天間の問題にしても、取り返しのつかない問題を残しているのではないかと憂慮を深めている。

大岩 外交・安保でつぶれるのが先か、経済でつぶれるのが先か、という問い掛けにあえて答えるなら、「経済は既に死んだ」となる。鳩山政権は(国家の)方向性を明確に示さず、(経済の先行きは)これまで以上に不透明になっている。
 冷戦終了で東西の壁がなくなり、地球規模で熾烈(しれつ)な競争経済になることは避けられない。鳩山政権にそういう認識はあるだろうか。今の日本には20年にも及ぶ経済危機の克服へ向けた方向性やビジョンが見えない。政権の担い手には、的確なメッセージを出す責任がある。政府が方向性を明確に示せない限り、経済は右往左往してしまう。

遠藤 民主党には、ビジョンを示すことはできない。なぜなら、民主党は過去20年間失敗を重ねてきた自民党のクローン政党でしかないからだ。さらに言えば、もっとたちの悪いクローン政党だ。自由民主党から「自由」を取った政党名がその本質を表している。
 鳩山首相は衆院本会議で小沢民主党幹事長の政治資金問題に関連して、「小沢氏は、自分は潔白である、したがって戦う、と言われました」「小沢氏も、説明をされるのが当然の権利である」と答弁したが、この敬語の使い方はおかしい。首相が部下である幹事長に敬語を使うのは、議院内閣制ではあり得ない。鳩山氏や小沢氏の感覚では、国家の上に党があるということだ。全体主義の特徴だ。中国、北朝鮮、旧ソ連、ナチス・ドイツはすべてそうだ。日本はいま、与党の幹事長が支配している。何年か後に、あの時から自由ではない民主をうたう政党が全体主義化を進めた、と気づく時がくるかもしれない。20世紀の全体主義は、いずれも民主主義を看板にした。小沢さんも、強制捜査を受けた翌日、「民主主義の危機である」と言っていた。
 全体主義のもう一つの特徴は、政治、経済からライフスタイルに至るまで、すべてがイデオロギーによって規定されることだ。そして、それを是とする法律を着々と準備し、法の名の下に統制を進めることだ。「日本解体3法案」といわれる夫婦別姓法案、人権侵害救済法案、外国人地方参政権法案の準備は、全体主義の定石通りに進んでいるといえる。
 その意味で7月の参院選は極めて重要な意味を持つ。昨年の総選挙では、分散した保守票を民主党が一時的に吸収した。参院選では民主党への集中を食い止めなければならない。そのためには、当面保守票を分散させなければならない。7月までが、日本国の将来を決める決定的に大事な時期になる。

櫻井 鳩山政権の半年間は、プラスのものは何もなく、すべてマイナスだったといえます。鳩山政権を事実上支配する小沢幹事長の足跡をたどるなら、終始一貫しているのは権力を手にする手法と執念です。権力を手にして実現する理念は180度変わった。つまり、小沢幹事長の政治の目的は権力の奪取にあるのです。
 しかし、小沢幹事長には変わらないものがもう一つある。日本国に対する考え方です。小沢幹事長の思想は、米国から与えられた現行憲法の前文とそっくりな国連至上主義です。国際社会の信義を信頼して、自衛隊とは別の軍隊組織を作って国連に差し出すことを一貫して唱えている。中国やロシアが拒否権を持つ国連、日本への敵国条項を持つ国連に軍隊を差し出すというのは、信じ難い防衛論です。

田久保 先日、国基研へ来た米ジョージタウン大学のドーク教授が、人を軽蔑する「HOHO」という英語があると教えてくれた。「ハトヤマ、オザワ、ヒラノ、オカダ」の頭文字だという。これほど日本は馬鹿にされてしまった。
 インド洋の重要性を補足すると、21世紀にインドと中国が成長し、エネルギーと資源の需要が跳ね上がる時、アフリカと中東から持ってくる通り道となるのがインド洋だ。間もなく米英を含む三十数カ国がインドの主催でアブダビに集まり、中国の脅威に対する作戦会議を開く。中国は以前からインド洋に目を凝らし、一昨年、ソマリア沖の海賊対策で待ってましたとばかり艦艇を派遣した。日本は艦艇派遣で後手に回っただけでなく、インド洋の給油活動から手を引いた。これでは(インド洋情勢の)情報は一切入ってこない。これで21世紀に日本はどうするのか。
 そういう国際情勢の中で、普天間問題に関する鳩山政権の動きは明らかに反米的だ。また、核密約を追及することは非武装中立政策ではないか。反米、反基地、護憲、非武装中立が通用する世界ではない。鳩山さんや小沢さんは国際情勢の論理から遊離している。日本の論理が破たんする重大な危険が迫っている。これを乗り切るビジョンを示してくれる政治家は極めて少ない。

 防衛問題に関して、日本はまさに「異形の国家」だ。政府が支給しようとしている子供手当は防衛費を上回る。防衛費に回すなら、空母機動部隊を持てる。空母を持って米軍の空白を埋めるのが「緊密で対等な日米関係」ではないか。普天間移転先をゼロベースで考えるなら、個人的には海上(メガフロート)案に魅力を感ずる。海上に空母のようなものを造れば、日米同盟は緊密で対等になり、普天間問題も解決する。子供手当をやめればいろいろなことが可能になる。

櫻井 子供手当は額が多すぎる。フルに配れば年間5兆3000億円で、農林水産予算の倍以上となる。有権者に支持されると考えているのでしょうが、有権者はそれほどの馬鹿ではない。

大岩 子供手当の財源は扶養控除の廃止でつくるというが、こういう話は税制全体の論議の中で行うべきだ。子供手当を含め民主党のかなりの政策は、正当性をきちんと説明できない限り、バラマキと言われても仕方ない。
 日本は過去の蓄えで食べている。その蓄えも長くはもたない。マネーゲームではなく、製造業を立て直すことに日本の活路がある。生産性を上げるお金の使い方をしないと、あらゆる政策がバラマキに終わる。民主党は政策論議をする場を復活させ、隠ぺい体質を改めないと、方向性は出てこない。

櫻井 民主党は政権を取った途端に党内で議論できなくなった。かつては清新なイメージのあった政党が、旧ソ連のような民主集中制のような独裁的なシステムの中にどっぷりつかっている。日本の経済が行き詰っているのは民主党だけの責任ではないが、民主党は自民党の負の遺産を倍増し、日本の衰退を決定的にするのではないかと恐れています。

西岡 民主党が政策を議論しなくなった時に、拉致対策本部もなくなった。党の中に、与党として拉致問題をどうするか議論する場がない。拉致担当の大臣はいるが、副大臣や政務官は専任ではない。民主党は自民党政権の拉致問題政策方針を引き継がないことを決めただけで、新しい方針は出していない。仕組みとして自由な議論ができない中で、どうなるか不安だ。

遠藤 民主党には綱領がない。綱領について議論を始めるととんでもないことになるから、政党としての基本理念さえまとめることができない。理念のない民主党が「成長なき再分配」をやるのは、ある意味では平仄(ひょうそく)が合っている。だが、スターリンや毛沢東でさえ、成長ある再分配を目指した。そんな民主党を政権につけたのは、国民も悪いかもしれないが、自民党がだらしなかったからだ。
 今年は日米安保条約改定50周年だが、最初の30年間は冷戦下で、日本は安全保障の枢要な部分は昨日まで敵だった米国に任せて、ひたすら金もうけにエネルギーを集中できた。20年前に我が国を取り巻く環境が変わったのに、自民党はかじ取りを根本的に変えることができず、今日の結果を招いた。しかし、民主党は駄目な自民党をもっと醜悪にしたクローン政党で、田久保さんの言葉を借りれば「(1塁ではなく)確信をもって3塁方向へ走っている」。
 民主党は吸収した保守層を裏切る政策を一所懸命やっている。親の働く背中を見ないでもお金が入ってくるような醜悪な国家にする政策が着々と進められている。どこかからお金が降ってくるような政策は、あってはならない。これは日本の崩壊であり、モラルハザードだ。このままでは、中国の方を向いた全体主義体制の衛星国家になり果てる危険がある。

櫻井 日本はあらゆる意味で存亡の危機にあります。今の危機は、日本が大東亜戦争に負けた時や、明治維新の時よりもっと深刻です。日本人の質が落ちているからです。鳩山首相や小沢幹事長を見れば、どれほど政治家の質が劣化しているか分かります。そして、このような人々を選んだ国民の質も劣化しているということを、国基研のメンバーは肝に銘じなければならないと思います。わたしたちは日本の立て直しに邁進したい。会員として、また友人として、皆さんも一緒に歩んでくだされば、と思います。(了)