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2010.06.18 (金) 印刷する

【詳報】 月例研究会 「日本再生の道を探る― 保守は危機を克服できるか」

国家基本問題研究所は5月28日、東京・星陵会館で月例研究会「日本再生の道を探る―保守は危機を克服できるか」を開催しました。研究会には、自民党を中心とする保守派議員グループ「創生『日本』」会長の安倍晋三元首相、新党「たちあがれ日本」代表の平沼赳夫元経済産業相、新党「日本創新党」党首の山田宏杉並区長(当時)がパネリストとして参加し、安全保障、教育、経済の3分野について基本理念を明らかにするとともに、7月の参院選における協力の可能性について語り合いました。国基研の櫻井よしこ理事長と遠藤浩一理事(企画委員)が問題提起を行いました。会場には423人(会員300人、一般107人ほか)が集まり、立ち見の方も出るほどの大盛況となりました。詳報は以下の通りです。


左より 安倍晋三元首相、平沼赳夫元経済産業相、山田宏杉並区長(当時)

櫻井 現在の日本は大変な危機に陥っています。国難と言ってもよい状況です。日本国が国家として機能しない中で、7月に参院選を迎えます。衆院では民主党が圧倒的多数ですが、選挙後の参院の構成によっては、政治状況はがらりと変わります。日本再生は成るのか、保守勢力は再結集できるのか、をテーマに議論したい。日本の現状をどのようにとらえ、どのような国づくりを国民に訴えたいかについて、お話し願いたい。

山田 11年間、東京都杉並区長を務めました。(杉並区の財政はよくなっても)国家が破綻したら終わりだとひしひしと感じます。今年、杉並区には子ども手当で67億円が入ります。しかし、杉並区は景気の悪化で60億円の減収となり、その減収分を、積み立ててきた貯金で補います。つまり、われわれの貯金で子ども手当を配るのと同じことが起きているのです。そんな馬鹿な。日本は自立心や競争心を通じて再生しなければ駄目だ。国がこんなバラマキをしていたら駄目だ。ということで、地方自治体の経営に携わってきた者たちがその経験を国の中で生かそうという思いで(日本創新党を作って)立ち上がりました。

私は外国人参政権の付与にも反対してきました。夫婦別姓、人権侵害救済法案の問題も、放っておけば地方政治も危機になる。日本国が沈没したら杉並区もどこもない。そう思い、同じような志を持った自治体の経営者の皆さんと立ち上がったわけです。

平沼 昨年8月の総選挙で、民主党のマニフェストにはバラマキ政策が羅列されていました。同時に、政策集(INDEX2009)を見てびっくりしました。マニフェストには書かれていない亡国的な左翼政策が羅列されているのです。これは恐ろしいことだと思いました。民主党は政権を取ると、政策集に書いてある法案を小出しにしてきました。こんなことを放っておいては、日本は大変なことになる。7月の参院選で民主党に単独過半数を取らせては駄目だ。

忘れてならないのは、民主的なワイマール憲法の下で、ドイツがナチスの言うままになり破滅していったことです。日本がドイツと同じようになることを阻止しなければならない。そのためには新党を作り、保守の人たちと協力して、行動を起こさないといけない。そういう考えで「たちあがれ日本」を立ち上げました。石にかじりついてでも、この国の役に立ちたい。

安倍 1996年に米国のペリー北朝鮮政策調整官(元国防長官)とシャーマン北朝鮮担当大使が来日しました。核問題で、北朝鮮へのコメ支援を日本に要請するためでした。対北朝鮮支援に反対だった私は、米国で13歳の少女が北朝鮮に拉致されたら、コメ支援をしますかと尋ねた。すると、ペリーさんは「そんなことがあったら平壌に海兵隊が行っていますよ」と言った。それを受けてシャーマンさんは「日本にそれができますか。できないなら日本はコメを出すしかないでしょう」と言った。極めて不愉快な話ですが、一面の真理があります。残念ながら、自衛隊を拉致被害者救出のために送ることは、憲法上も法律上もできない。それが「戦後レジーム」です。「諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」(憲法前文)結果であり、そういうマインドコントロールから脱しなければならないのです。

民主党政権は戦後レジームの象徴と言ってよいでしょう。鳩山さん(由紀夫首相=当時)には、国家、領土、領海という意識がありません。彼には領土を寸土たりとも譲らないという気概がない。日本に生まれたことを誇りに思える日本にしたいと思っています。


櫻井よしこ理事長、遠藤浩一企画委員

櫻井 お三方とも、日本をまともな国家に仕立て上げなければならないと言われたと思います。7月の参院選では、民主党の暴走を止めるためにも、保守の団結が必要になってきます。

遠藤 (鳩山政権の末期に)民主党の支持率が急落したのには理由があります。昨年の総選挙で民主党が勝ったのは、民主党がよかったからではなく、自民党がだらしなかったからです。保守・中道層が自民党に見切りをつけて民主党に投票したのです。ところが民主党は自民党よりもっとひどいことがばれてしまった。だから支持率が急落したのです。鳩山政権は戦後の政権の中でも、最も愚劣で、卑怯で、鈍感な政権だと思います。こんな政権を継続させることは、国家と国民の不利益以外の何物でもない。

民主党は平成15年以降、比例区でコンスタントに2100万票以上を取り、昨年の総選挙では2900万票を取りました。しかし、政権を1回やらせてみたらこの体たらくで、7月の参院選では、昨年の2900万票を基準にすれば、最低でも1000万票が逃げ出す可能性があります。現時点では、この票のかなりを「みんなの党」が吸収しかねない。しかし、みんなの党は政策思想的に民主党に近く、民主党の暴走をストップさせることになるのか疑問です。すると、本当に志のある、伸びなければならない政党が、期待するほど議席を獲得できない危険性が出てきます。その場合、最後に高笑いするのは民主党です。この危険性を打破することが、壇上の3人の先生方に突き付けられた課題です。

櫻井 お三方には、本日の討論会に参加しなかったみんなの党について意見を聞きたい。また、中国の大艦隊が日本周辺に出没し、海上自衛隊に異常接近するという状況下で、日本の安全保障をどう確保するのか、普天間の問題もあるので、具体的に論じてほしい。

山田 (日本の安全保障には)大変な危惧を抱いています。国家の自立の基本は、自分の国は自分で守ることです。国際社会の現状は、沖縄の軍事的価値を高めこそすれ、低めることはないのです。主権を喪失した日本を子どもに渡してはなりません。日本の防衛にとって、沖縄の価値は高いとはっきり述べた政治家はどれだけいるでしょうか。日本国を国民の力で守るということを決意した上で、当面は日米同盟関係強化のために、日本は集団的自衛権行使を容認すべきです。そこまでやらなければ、大変なツケを子どもたちに回すことになります。

平沼 みんなの党は公務員制度改革しか言わないシングルイッシュー政党です。この国の問題はシングルイッシュー政党では解決できません。

昨年、長崎県の対馬へ行ってきました。かつて7万人いた人口は3万6000人に減り、韓国から年間9万人の観光客が来ます。島を挙げてのお祭りは「アリラン祭り」に名前が変わりました。韓国の国会議員がそろいのTシャツを着て、そこには「対馬は韓国領」と書いてある。対馬には自衛隊が配置されていますが、航空自衛隊のレーダーサイトのある離島に防衛隊は一人もおらず、鍛えられた外国工作員が来たらひとたまりもない。戦後65年間、日本は辺境の島で防御を一切してこなかった。外国人に地方参政権を与え、5000~6000人の永住外国人が住民票を移せば、対馬は現実に韓国の領土になってしまう恐れがある。独立国日本は、この国の安全と平和を自力で担保する状況を作らないと、めちゃくちゃになってしまう。日本の安全と平和を確立するためには、自主憲法を制定しなければならないと思っています。

安倍 みんなの党代表の渡辺喜美さんは突破力がある。その能力、情熱に期待したい。しかし、みんなの党の他の人が何を考えているのかは分からない。公務員制度改革以外の政策も、しっかりしたものを出してほしい。

1960年の日米安保条約改定後、残念ながら憲法改正は行われず、経済優先になってしまいました。民主党は対等な日米関係を主張していますが、対等になるために集団的自衛権の行使を容認すれば、米国に海兵隊を減らすよう言えるようになります。その次が憲法改正です。

差し迫った問題は尖閣諸島です。上陸されてしまったら大変なことになる。いったん取られたものを取り返すことは、戦争を決意しないとできない。自衛隊が上陸阻止訓練や、上陸された場合に取り返す再上陸訓練をマスコミにも公開し、取られたら取り返すというサインを送ることが大切です。

櫻井 集団的自衛権の行使や自主憲法の制定で、3人の意見に差はないと思いました。中国によこしまな思いを抱かせないため抑止力を蓄えないといけないという点で、完璧に合意したと思います。山田さん、平沼さん、安倍さんがどうして一つの党になっていないのか不思議です。次に、国民教育について、何を実現したいと考えているかお聞きしたい。

山田 義務教育は人格を高めることに重点を置くべきで、知識偏重はよくないと考えています。人格を高める上で大切なのは道徳教育と歴史教育です。どの国でも歴史教育は、子どもが「自分はいい国に生まれた」「この国のため自分がやれることはないだろうか」と思って、背中が伸びるものでなければなりません。先祖の悪いことばかり教えると、子どもは確実に曲がります。よい先祖がいたと教えれば、子どもは手本にしようと必ず思います。

国家の役割は、国民の生命・財産を守ること、国を豊かにすることに加え、国のよき伝統・文化を継承することです。高校を無償化する前に、義務教育をちゃんとすべきです。日本人はよい歴史を持つ国だから、先祖に恥じない生き方をしようと訴えていく教育をしなければ、日本は住みやすい国にならないし、他国に手を差し伸べる国にもなりません。

平沼 私は東京都世田谷区の小学校で授業参観をしたことがあります。世田谷区は「特区」制度を利用して、新しい国語教育をしています。授業では孟浩然の詩「春暁」を2年生に教えていました。「春眠、暁を覚えず……」の意味を先生が説明しながら、この漢詩を素読で教えると、2年生が1時間で全部暗記した。この授業を参観して、昔の日本の教育はよかったなと思いました。江戸時代、町民を対象に寺小屋が4万ほどあり、読み書き算盤と漢詩の素読を教えたのです。日本が明治維新で近代化できたのは、こういう教育が原点にあったのです。寺子屋教育はマナーも教えました。傘を持って擦れ違うときの「傘かしげ」などです。日本は天皇を戴く国ですから、天皇様を大事にしながら、日本の歴史や伝統のよい面をしっかり押さえて、日本人らしい教育を取り戻さないといけない。

安倍 日本をおとしめる歴史教育をしていると、どういう結果になるか。数年前の内閣府の意識調査によると、国のために貢献したいと思っている子どもは日本では49%に過ぎず、米国や中国では7割、8割を超えます。自分に自信のある子も、米中が8割以上、日本ではやはり5割以下となっています。だからこそ、私は(首相時代に)教育を再生しなければならないと考え、教育基本法を変え、愛国心を涵養することを書き加えました。学習指導要領も変わり、子どもたちが「君が代」を歌えるように指導することになりました。ただ、民主党政権になって、道徳の教材が「仕分け」されてしまった。また、日教組の親分が力を持つ政党が政権を取っているので心配です。全国学力調査は民主党政権になって、(日教組の反対で)全校調査がやめになり、サンプル調査になりました。これでは意味がありません。

櫻井 国民教育では、どこの国もやっているように、自国の歴史のいいところを教え、子どもに自信を持たせるところから始めなければならないという点についても、お三方の意見は一致したと思います。次に、社会主義の残滓のような、民主党のバラマキの経済政策について発言をお願いします。

山田 (子ども手当、高校無償化などの)バラマキは国民精神を堕落させる悪の政治だと思っています。子ども手当の原資は、ほとんどが税金でなく(国の)借金ですよ。子どもが大きくなってから、汗水たらして返すことになる。子どもにツケを回して自分の生活を維持しようなんて、親のやることではない。子育ての応援をするなら、杉並区が3年前にやったように、他の用途に使えないクーポン券を配るなどの方法を考えるべきで、民主党政権のように現金を配っては駄目です。カネは自立心が高まるように使わないといけない。

平沼 たちあがれ日本共同代表の与謝野馨代議士は消費税引き上げ論者、平沼は経済活性化論者で相反するという批判があります。しかし、与謝野氏は、中長期・短期の経済運営ビジョンを国民に示し景気を回復させた後で消費税を福祉に充当するという考えで、私とそう違わない。民主党は経済をどう運営するかが見えてこず、あるのはバラマキ政策だけです。明確なビジョンを示し、国民の協力を得ながら税制を考えていく政治にしなければならない。カネをあげるから票をくれ、という政治は日本を駄目にする。

安倍 昨年の総選挙で民主党は空前のバラマキをした。普通は人が鳩に豆をまくのですが、鳩が豆をまいた。しかも、豆の一部には毒が入っていた。まず給付ありき、という社会主義国の誤りを民主党は繰り返そうとしています。子ども手当は天下の愚策です。子育ては社会や国でなく、家族が行うのが基本です。子ども手当は財政をゆがめるだけでなく、家族を崩壊させ、社会や国を崩壊させる。そういう毒が入っています。少子高齢化の中での福祉と財政再建という二つの課題に取り組むためには、経済を成長させないといけない。


満員の会場

櫻井 安保、教育、経済の3分野でお三方の間には何の違和感もありません。参院選へ向けて、何らかの協力があった方がいいと思いますが。

遠藤 これだけ基本理念が一致している皆さんが分裂しているのは如何なものか。短期的な課題は「反民主救国戦線」的なものをどう作るか、です。お山の大将ごっこをしている余裕はありません。新党が吸収する票を議席に結び付ける努力をしないといけません。「民・みん」連立をさせないための工夫も必要になります。自民党の刷新も必要です。民主党政権にピリオドを打つため、安倍さんにぜひ立ち上がってほしい。

安倍 民主党政権が続くことは、日本の国益が失われることにつながります。民主党を支援する勢力はまだまだ強力で、この左翼的な政権を倒すにはわれわれもしたたかでないといけません。われわれのグループ(創生「日本」)が平沼さんや山田さんたちと連携することが民主党を倒すことにつながるなら、さまざまな形で連携すべきだと思います。参院選後の民主党の連立の動きにも、今から備える必要があります。

平沼 (たちあがれ日本の)いい候補がいない1人区で、自民党や山田さんの党と選挙協力をすることはやぶさかでないと思っています。また5人区の東京で候補者を立てないと鼎の軽重を問われますが、それ以外の複数区では協力できる状況があります。選挙で票が分散しないように、そして民主党単独政権ができないように協力することを考えなければならない。参院選後は政界再編を目指し、山田さんの党とも、あるいは自民党かもしれないが、例えば共同会派を組んで保守の力を結集し、この国を間違った方向から引き戻さないといけない。そういう覚悟でやっていきたい。

櫻井 保守の議席を増やすには小異を捨てて大同につくことが必要です。例えば、東京で平沼さんと山田さんが同じ選挙カーに乗って演説をする。そこに安倍さんが乗れば自民党を除名されるかもしれませんが、いずれにしても、それくらいの協力をすれば(保守は)勝てるのではと思うのですが。

平沼 櫻井さんの御心配は理解できるので、留意させていただきたい。ただ、東京では政党の独自性を出すことも必要だと思っています。

山田 われわれは作ったばかりの政党だから、失うものはありません。今回の参院選でいちばん大事なのは、民主党にいかに鉄槌を下し、新しい日本の姿を提示するかです。こういう日本を作るという旗が三つぐらい立てば、われわれは党にはこだわりません。救国戦線ができれば、参加します。平沼さんと積極的に話し合いを進めていきたい。安倍さんの創生「日本」にも大変期待しています。象徴的な1人区、2人区で協力できれば、と思っています。今回の参院選で、できるだけ戦友になりたい。参院選後、次の衆院選へ向けた政界再編に必ずなります。

櫻井 自民党の中で創生「日本」は何を目指すのですか。

安倍 まずは亡国政権を倒すことに全力を傾けたい。同時に、自民党の中で健全な保守的な考え方を持つ議員が主流派になっていくことが求められています。われわれのグループが党を引っ張っていくようにしたい。

櫻井 7月の参院選で保守が共闘できる象徴的な選挙区はどこでしょうか。

遠藤 山梨が面白い。(日教組出身の民主党大物)輿石(こしいし)東(あずま)さんの選挙区です。今までの話を整理すると、参院選で(野党が過半数を握る)逆ねじれ現象を起こし、次の総選挙で政権交代につなげ、それから政界再編をきっちりやるという3段階になるのではないでしょうか。

櫻井 山梨で戦友になれるのでしょうか。

平沼 それは大丈夫だと思います。

山田 いいアイデアだと思います。きちんとした旗を立て、共同で現職を倒すのは象徴的な選挙協力になるので、十分に検討したい。

平沼 千葉景子法相が出ている神奈川選挙区も、協力してしっかりした選挙戦をしなければなりません。

山田 平沼さんのご提案ですので、(神奈川での協力へ向けて)話し合いをしていきたい。

櫻井 象徴的な選挙区で価値観を共有する人たちが戦友になり、将来の可能性につなげることを有権者も望んでいるのではないかと思います。三つのグループが同じ国家像を描き、協力し合ってこの国をよくしていくことが大事だと思います。

(文責編集部)

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