国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)は、11月3日、通算15回目となる会員の集いを、都内のホテルニューオータニで開催。今回もコロナ対策でセミナーの入場者を若干制限したが、懇親会は通常通りに行われた。
シンポジウムはTVクルーの取材が入る中、『安倍以降の国際秩序』のテーマで午後2時の定刻に開始。冒頭1時間はゲストスピーカーであるフランス人歴史人口・家族人類学者エマニュエル・トッド氏による基調講演。その後、櫻井よしこ理事長が司会、パネリストはトッド氏に加え田久保忠衛副理事長が登壇して討論が行われた。
まず基調講演でトッド氏は、自身の新著『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』を背景に最近の世界情勢を概観。現実の国際社会では、すでに世界戦争が始まっている状況だと言う。ウクライナ戦争は国境争いという枠組みだけで捉えることはできず、世界を巻き込んだ総力戦の様相で、西側諸国に対するロシアと、それを支える中国という構図が見える。
この戦争が嘗ての世界大戦と違うところは、勢力を拡大する大国同士の戦いではなく、衰退する国同士が戦いつつ、消耗戦化しているところである。軍事大国で経済が弱いと考えられてきたロシアだが、実際には軍事的には期待外れ。しかし西側による経済制裁には殆ど影響されない強さを示した。一方、米国経済は脆弱で、製造現場では技術者や熟練労働者が不足し、人口動態では総人口の減少は回避するものの、エンジニアの半数を外国出身者が占め、米国の産業は根本的に再生可能なのか疑問だという。結局、米国の最大のリスクはロシアであって、このような状況下、米国が中国に積極的に仕掛けることはないという。
日本への提言としては、感情に流されるのではなく、西欧社会が不安定であるということを前提に、パワーバランスを計算する必要がある。ウクライナ戦争の教訓として核保有という選択肢も重要な点だと強調した。
続く討論では、田久保副理事長はトッド氏が講演の中で中露の接近を語ったが、便宜上の結婚をしているに過ぎないという。時が経てば中露は離反するのは歴史が物語っている。他方、日本の核武装は正しい選択だが、現実は国内政治上不可能に近いだろう。また中国は日本にとって眼前の脅威であり、西欧諸国から見る中国観とは違いがある、とトッド氏の認識とは異なる点を指摘した。
その後フロアーで待機する国基研役員などから鋭い意見・質問が出され、熱い議論が展開され、終了時間を超過しても続いた。櫻井理事長は最後に、安倍以降の世界秩序形成に果たす日本の役割に大いに期待する。特に自由で開かれたインド太平洋を始め、新たな秩序形成に積極的に貢献しつつ、一丸となって改憲に向け声を上げなければならない、と締めくくった。
この模様の詳報は、後日配信しますので、ご期待ください。
(文責 国基研)