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2009.05.22 (金) 印刷する

【詳報】 月例研究会 「北朝鮮の瀬戸際外交~日本の圧力外交は正しかった~」

国基研は平成21年5月18日、衆議院第二議員会館で月例研究会を開きました。「北朝鮮の瀬戸際外交~日本の圧力外交は正しかった~」と題した研究会では、企画委員(評議員兼務)の西岡力東京基督教大学教授と島田洋一福井県立大学教授、評議員で軍事評論家の佐藤守・元空将が報告しました。司会者は櫻井よしこ理事長が務めました。参加者は国会議員が平沼赳夫元経済産業相ら11人、議員秘書が27人、会員・ゲストなど36人でした。詳報は以下の通りです。

島田 4~5月に2回ワシントンを訪問した。オバマ大統領は(北朝鮮問題で)深い戦略がないので、大胆な政策転換がない代わりに、ブッシュ前政権末期のライス国務長官やヒル国務次官補(いずれも当時)のようにあせって事を進めることもないだろうというのが大方の意見だった。

米国から動きがあるとすれば、クリントン国務長官とその側近からではないか。国務次官補に就任するキャンベル氏は前任のヒルよりはるかに良く、日米関係にも配慮するだろうという専門家が多かった。有力な北朝鮮専門家は、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)のベーダー上級アジア部長も実際的判断ができる人物なので、キャンベル氏ともどもヒル流の宥和政策に反対するだろうと言っていた。

気になるのは、北朝鮮政策担当特別代表のボズワース氏だ。同氏に会い、北朝鮮に対するテロ支援国再指定と金融制裁を要望したところ、「解除した制裁を元に戻す考えはない。圧力で北朝鮮の行動を変えられると思わない」という答えだった。

問題はこのボズワース氏がオバマ政権内でどこまで影響力を持つかだ。北朝鮮強硬派のボルトン元国連大使は、ボズワース氏はヒル氏ほど北朝鮮に入れ込んでいないので、あまり実害はないだろうと言っていた。また、大学院長との兼務で非常勤のボズワース氏が常勤のベーダー氏やキャンベル氏を押しのけて政策を動かすことはあり得ないという専門家が多かった。

つまり、ベーダー氏やキャンベル氏が中心となって北朝鮮政策を動かしそうだ。ベーダー氏は基本的に親中派だから、日本が主張しなければ中国の主張に消されてしまう恐れがある。

北朝鮮を支える中国共産党へのムチになるのは日本の軍拡だという意見も多く聞いた。日本の核開発には政治的敷居が高いとしても、敵基地攻撃力の開発・配備だけでも状況は変わる。国会で議論してもらえないか。また、国連の北朝鮮制裁決議を実行しない中国に対して、日本は政府開発援助(ODA)を止めるべきだ。

北朝鮮への締め付けで過去に最も効果があったのは金融制裁だ。北朝鮮の裏金のマネーロンダリングをしていたマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)などへの制裁で、金正日直属の労働党39号室が仕切るいわゆる「宮廷経済」の血流がとどこおった。金融制裁を復活させれば北朝鮮を追い詰められる。政治家の皆さんには、日米共同の金融制裁を話し合ってもらいたい。スイスの銀行にあるといわれる北朝鮮の秘密資金の締め上げも政治主導でやってほしい。

北朝鮮に対するテロ支援国再指定に関して、ブッシュ政権のNSCで日本・朝鮮部長だった大学教授は、支援国リストは「政治的」なものなので、政治的判断で再びリストに載せることは可能と言っていた。日本と韓国が手を結んで再指定を主張する必要がある。

西岡 北朝鮮の国家目標は、米国まで届く核ミサイルを持ち、米国を脅して朝鮮半島から引き揚げさせ、韓国を赤化することだ。それが分からない人は、北朝鮮は変わると思ってほうびをやってしまう。しかし、北朝鮮は「話せば分かる」ような相手ではない。重油などのほうびをもらいながら核ミサイルを開発している。こちらが覚悟を決めて圧力をかけなければ、北朝鮮を動かすことはできない。北朝鮮に対するには「圧力外交」しかない。

北朝鮮に効くのは、犯罪国家の違法行為を取り締まる「法執行制裁」だ。北朝鮮には国家経済とは別に、金正日の個人経済(別名「宮廷経済」)がある。そのため、国家経済が破たんしても、金正日はぜいたくができるし核ミサイルも開発できる。制裁をするなら、宮廷経済を標的にする必要がある。宮廷経済の財源は朝鮮総連からの送金だったから、1993〜94年の第一次核危機の時に日本政府は送金を止めようと動いた。脱税でつくった違法資金だから、警察と国税庁が動けば止められるという判断であり、法執行制裁だった。

2005年になると、日本政府の拉致問題対策として「厳格な法執行」が入った。米国も、北朝鮮がマカオの銀行を窓口に裏金を回していることを見つけ、その銀行を「法執行」のターゲットにした。北朝鮮は朝鮮総連の脱税や、(当局公認の)偽札づくりと麻薬取引など違法行為で外貨を稼いでいる犯罪国家だから、法執行制裁は効く。

法執行制裁で締め上げなければ、北朝鮮の国是である米国まで届く核ミサイルの開発をやめさせることはできない。また、金正日が命令した拉致の被害者を全員取り戻すこともできない。北朝鮮には絶対的な弱みがある。宮廷経済が犯罪資金を原資とし、しかもその資金の大部分が海外にあることだ。それを押さえれば、金正日政権は倒れる。

佐藤 防衛省の『防衛白書』は中国軍の航空機を2000機と書いていたが、実際に飛べるのはせいぜい100機程度だったと思っている。旧型機の交換部品はロシアでも製造しておらず、可動率は限られているからだ。同様に白書には、北朝鮮の航空機が590機とあるが、われわれ(専門家)は歯牙にもかけていない。日本の航空自衛隊の弱点は、せいぜい実戦を経験していないということだけだが、これは周辺諸国も同様だ。

脅威となり得るのはノドン・ミサイルだが、4月のテポドン発射では、自衛隊の作戦計画を、メディアが刻々と報道したため、相手に手の内が丸見えだった点はお粗末だった。これではとても戦争はできない。ノドンに関しては、核を積んでいるかいないかが問題で、通常弾頭なら恐れるに足りない。核弾頭が付いたら、それだけで政治的効果がある。

第二の脅威は間接侵略だ。今や200万人の外国人が日本に住んでいる。これに対応できるのは自衛隊の24万人、警察の25万人、海保の1万2300人しかいない。こうした状況で敵性分子と対抗できるのか非常に心配だ。

テポドン発射を機会に、日本は集団的自衛権の問題を一歩進めるべきだった。また、北朝鮮が核兵器を持つなら日本も持つという意思表示を(実際に持つか持たないかは別にして)すべきであった。

質問 「ポスト金正日」にどう備えるか。

西岡 金正日は昨年8月に脳卒中で倒れた後、リハビリである程度回復し、今、(重要案件の)決済をしていることは間違いない。しかし、西側情報筋は3~4年後に再発する可能性が高いとみている。

金正日が死んで大混乱になった場合、米韓軍は北朝鮮への進軍を内容とする「5029計画」を持っている。米軍は核兵器を確保し、韓国軍が治安を維持する。韓国が負担をかぶる覚悟をすれば、中国軍の介入を阻止できる可能性はある。

日本は韓国による朝鮮半島の「自由統一」を戦略目標にすべきだ。日本は集団的自衛権の問題をクリアして5029計画を日米韓3国合同計画にし、全体の計画の中に拉致被害者救出を位置づけるべきだ。

島田 金正日の脳卒中をいかに早く再発させるかを考えるべきだ。昨年8月の卒中は、米国のテロ支援国指定解除が(金正日の希望に反して)延期されたために起きた可能性がある。第二の卒中を起こさせるため、北朝鮮への再度の金融制裁、テロ支援国再指定のほか、ミサイル発射を失敗させる工作なども考えたらどうか。

恵谷治(ジャーナリスト=会場より発言) 金正日の後継者問題では、三男の正雲が有力視されている。次男の正哲は肉体的、精神的な問題があり、指名されることはまずあり得ない。長男の正男は北京にいて、平壌に帰りそうにない。2012年が金日成生誕100年、金正日70歳の節目なので、そのあたりに後継者指名があるかもしれないが、その場合でも秘密決定なので、正式発表はされないだろう。

質問 田母神前空幕長が提案しているように、日本が米国と核兵器をシェアすることはできるのか。

佐藤 政治家が決断すればできる。非核3原則を修正して米軍の核兵器の持ち込みを許した上で、自衛隊と共同で訓練すればよい。それによって、抑止力は格段に向上する。米欧間でもやっている。日本が核を持つと言っただけで、金正日は心臓まひを起こすかもしれない。

質問 拉致問題に関し、①日本の代議士が米当局者に奇妙なことを言った②ジャーナリストの田原総一郎も奇妙なことを言った―と報道されたが、真相を聞きたい。

島田 民主党の岡田克也、前原誠司両氏がワシントンへ来て「日本は拉致問題にこだわりすぎ、核問題解決の障害になっている」と発言していると米側関係者に聞いたので、記者会見で公表した。岡田氏からは早速説明があり、「テロ支援国指定解除は米国の国益のため必要なら仕方ない。それで日米関係が悪くなるとは思わない」と発言したことを認めた。そして、自分の発言は指定解除の正当化に利用されたかもしれないと弁明していた。

しかし、この発言は軽率だ。岡田氏は自分の発言が米国にどういう影響を与えるかを意識して発言しないといけない。

前原氏からは何の反応もない。確信犯だと思う。以前、国会質問でも似たような発言をしている。もう少し勉強してほしい。

西岡 田原氏はテレビ朝日の番組で「横田めぐみさんと有本恵子さんが生きていないことは外務省も分かっている」と発言した。死亡を証明するものが何もないから生存を前提に交渉する、というのが日本政府の立場だ。そこで、田原氏とテレ朝に抗議文を出し、死亡の根拠を示すように求めた。テレ朝からは「根拠を確認していない」との回答がきた。田原氏からはまだ返事がない。(了)