公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

最近の活動

  • HOME
  • ニュース
  • ベトナムのシンクタンクと意見交換 中国にどう対峙する?
2012.08.13 (月) 印刷する

ベトナムのシンクタンクと意見交換 中国にどう対峙する?

国家基本問題研究所の櫻井よしこ理事長ら一行6人は、5月2日から8日までベトナム社会主義共和国の首都ハノイを訪問、ホー・スアン・ソン筆頭外務次官ら政府首脳や外交関係者と会談、ベトナム外交学院及び社会科学院中国研究所と意見交換を行った。これらの会談を通して焦点となったのは日越両国が直面している中国の脅威に如何に対処するかだった。

ベトナム外交学院は外務省系のシンクタンクで、ホアン・アン・トウアン所長のほかグエン・フン・ソン副所長らが出席した。政府直属の社会科学院中国研究所ではホアン・テ・アン副所長やドン・ミン・カオ元所長らが参加した。

国基研一行には、櫻井理事長、田久保忠衛副理事長、斉藤禎理事のほか、大岩雄次郎、冨山泰、石川弘修の各企画委員が参加した。なお、櫻井理事長はハノイ生まれ、久しぶりのふるさと訪問となった。

両シンクタンクとの主なやり取りは下記の通り。


ホー・スアン・ソン筆頭外務次官と櫻井理事長

ベトナム「シンクタンク」との対話中国とどう対峙したらいいのか

またもや中国が暴挙に出た。6月21日、中国は「海南省に三沙市を新設し」、ベトナム、フィリピンが領有権を主張している「南シナ海の西沙、中沙、南沙の諸島と周辺海域を三沙市が管轄する」と発表したのだ。ベトナム生まれの櫻井理事長、田久保副理事長はじめとする国基研メンバーが、5月にハノイを訪れ、ベトナム外交学院、社会科学院中国研究所の主要メンバーと意見交換をしたばかりのことだった。

国基研 南シナ海、インド洋、東シナ海、すべての海において、私たちは大きな挑戦に直面しています。そのなかで、これから五年、十年、二十年を見据えて、日本とベトナムがどのような協力関係を築くことができるのか、また、ベトナムがどのような戦略でこの問題に臨もうとしているのか、ご意見をうかがいたいと思います。

外交学院 南シナ海はベトナムの存続に欠かせない空間です。そこで、ベトナムは海に対して明確な戦略を持っています。2020年までに海による貢献度をGNPの60%にするという目標を立てています。

目標を達成するための具体的な対策は、「海に対して投資を拡大すること」と「海の資源を効率的に開発するために国際協力を高めること」の二つです。

海の資源を守るための対策としては、「外交策を講じること」と「ベトナムの実質的な能力を高めること」があります。

外交策については、まず、海上の国際協力、海に関する国際協力の取組みを強化することが一つ目。二つ目が、海に関する多国間協力の仕組みを強化することです。

ベトナムの実質的能力を高めるというのは、海軍を含めた海上の戦力を強化することです。以上のような領域において、日本と協力する潜在性は非常に高いと考えています。今後ぜひ、日本とベトナムの協力関係を深めていきたいと考えています。

海軍など実質的戦力を高めながら「国民戦争」を進めている

外交学院 南シナ海の安全保障は、シーレーンの確保という点で、日本にとって大変重要です。中国が南シナ海を統治することになったら、日本には大変なリスクになると考えています。また、日本の各企業はアジアの国に多く投資しています。南シナ海の安全保障がうまくいかないと、アジア諸国に投資している国には、大変不利益なことになります。

中国は、南シナ海の争議は、あくまで二国間の争議であり、争議があっても、海上の自由運航にはまったく影響しないと広報しています。その目的は、第三国の干渉を防ぐことです。中国は、争議を二国間の問題にしたうえで、力を誇示しながら弱い国を抑え込もうと企んでいます。

海上の自由運航というのは、自由に通行するだけではなく、合法的な貿易取引、経済取引が行われることが重要です。しかし、実際には、中国が、日本を含む各国の船舶の貿易取引を妨害しています。たとえば、石油を開発し、発掘している会社は、非常に損害を受けています。

ベトナムは、南シナ海の安全保障及び海上の自由運航を重視しています。ですから、直接的にせよ、間接的にせよ、南シナ海に関係している国々との協力は重要だと考えています。これは南シナ海の問題を国際化するということではなく、実質的なやり方に沿って問題を解決するということです。

国基研 東シナ海の問題は外交と実質の問題が重要だという意見に100%賛成です。また、南シナ海の問題で、中国が二国間の問題にしようとしているのを「国際的に解決する」ということですから、強制力を持った行動規範の作成が当面の大きな目標になるのではないでしょうか。中国は海洋法を基準にせず、孫子の兵法に基づいて、分割統治(Divide and Rule)をひたすら求めています。

これは、中国が日米間に楔を打ち込もうとして、日本に対してずっと適用してきたことです。現代の国際法と、向こうの古い戦略的思考がぶつかっているのが、日本の悩みであり、おそらく皆さんの悩みでもあり、アメリカも頭を悩ましているのではないかと思います。

実質的な強化には、軍事力の強化、同盟国の強化、そして友好国を増やす。この三つがあると思います。それプラス日米同盟を背景にして中国と対応するという考え方についてはどうお考えでしょうか。

外交学院 南シナ海の安全保障問題は、火山のような状態で、いつか爆発する可能性があります。中国の統治戦略が原因となって起こる可能性が非常に高いリスクです。それへの対抗策は、四つあると思います。

一つは、日本とベトナム両国の共通利益と共通リスクに対して共通認識を持つことです。そして、共通認識を持つために、常に意見交換する必要があると思います。

二つ目は、日本とベトナム二国間の協力とともに、アジア地域各国との協力を強化することです。とくに海の資源開発について日本と協力していきたいと思っていますが、海上の取り締まり制度、海軍を含めた能力の強化についても協力したいと考えています。

日本はベトナムに対して円借款、ODA(政府開発援助)を提供しています。これまでは、基本的に交通やインフラ関係への協力が対象です。今後は、ぜひ海の分野に対して円借款の融資を検討してほしいと思います。それによって、ベトナムの監視力が強くなり、南シナ海の安全保障ができるようになったら、日本にとっても大変意義のあることになります。これが三つ目です。

四つ目は、日米同盟との協力です。海の安全保障は一、二ヵ国で達成できるものではありません。国際的な力を活用して、東アジアの安全を守るという共通の目標を達成したいと思っています。

今進めていることは、まず、ベトナムの主権、領土の安全、裁判権の保障を確保すること。そして、海産物、水産物の養殖など海の経済を促進することです。

さらには、海軍を含む軍事力の強化です。ベトナムは「国民戦争」という非常に特徴のある概念を持っています。つまり、戦争は、軍人だけによって行われるのではなく、国民も参加して行うという政策です。今、ベトナム政府は国民をできるだけ動員して、沖にある島に移動させて、生活できるようにサポートしています。たとえば、ベトナム中部にある島には人的防衛線をつくりました。これは、国民一人一人がその防衛線の一部であるという考え方です。

また、南沙では、島にお寺をつくって、僧侶を六人派遣し、生活してもらっています。学校や診療所も建てました。台風のときに避難する場所もつくりました。漁民が必要に応じて、接岸して生活をしたり、学校に行ったり、あるいは健康診断を行ったりできるようにしています。

国基研 二年ほど前、ズン首相が、「カムラン湾を世界の船に開放するので、軍艦も含めてどんどん使ってください」という発表をしました。実際、メンテナンスのためにアメリカの軍艦がカムラン湾に行ったこともあります。それは南シナ海の安全保障に関して、アメリカ海軍が重要な役割を果たすことをベトナムは歓迎するという意思表示でしょうか。

外交学院 ベトナムの方針は、地域内の平和及び安全を促進する目的でベトナムに来る船であれば、どの国の船も大歓迎します。しかし、平和及び安全に悪影響を与えるような目的であれば、大反対するということです。

国基研 昨年、ベトナムの海軍司令官が、「インド海軍の船をニャチャンに駐留してほしい」とインド側に頼んだという報道がありました。それは事実ですか。

外交学院 インドとは軍事的に協力関係があります。インドからはミサイルを買いました。また、インド海軍からさまざまな訓練を受けています。その目的は、ベトナム海軍の力を強化して、戦争が起こったら、自力でただちに対抗できるようにしたいからです。

相手国によって政策や主張を使い分ける中国に対抗するための二つの方策

国基研 中国をどのように分析していますか。

社会科学院 中国の政策は相手国によって変わります。たとえば、日本に対しては「歴史を見ながら将来に向かう」という政策ですが、ベトナムに対しては「歴史を忘れて将来を迎えよう」という政策をとっています。そこで、ベトナムも友好関係を保つため、慎重な対応をとっています。

中国は、大国です。ベトナムは小さくて弱い国です。だから、ベトナムは中国に対して慎重な対抗政策をとっているのです。中国に対する外交策について、わが国は二千年以上の経験を持っています。特に千年の間は、中国がさまざまな圧力をかけてきました。それでも、屈することなく、ベトナムは独立を保って存続し、発展しています。

国基研 1945年から現在まで大きな戦争を中国は十回やりました。これは脅威じゃないでしょうか。ベトナムと日本、両国は平和を愛する国です。日本にとって脅威である中国は、ベトナムにとっても脅威だと思いますが。

社会科学院 日本とベトナムは、かなり違います。日本はベトナムと比べて非常に発展しています。また、アメリカと軍事同盟も持っています。それは強力な要素だと思います。中国は経済の発展にともない、軍事力強化のためかなり予算を使っていますので、ベトナムにとって本当に脅威です。

国基研 2011年11月以降、アメリカは本格的にアジアに復帰してきました。ASEAN諸国のほとんどはこの大きな流れに乗ると思っていますが、ベトナムはどうですか。

社会科学院 アメリカとインドだけでなく、世界中の各国とも協力関係(軍事協力)を強化していきたいと思っています。ロシア、オーストラリア、日本ももちろん入ります。

国基研 冒頭に指摘されたように、中国は、交渉のやり方を国によって明らかに違えています。たとえば、南シナ海では、ベトナムが「大陸棚の延長線上は自国の領海である」と主張しましたが、中国は、「いや、両国の中間線だ」という主張をしていました。

ところが、東シナ海では、「中国との中間線」という日本の主張に対して、「大陸棚の延長線上がわが国の領海である」と、南シナ海とはまったく逆のことを言っています。中間線に同意すれば、油田は日本に属するので、反対しているのです。

私たちは、南シナ海でのベトナムの権益を守るためにも、東シナ海での日本の権益を守るためにも、二つのことをしなければいけないと思います。

一つは、中国を抑止するのに十分な強さのある軍事力を持つことです。軍事力を持ったからといって、それを使うわけではありません。中国は常に言ってきました。「わが国の強大な軍事力は、それを相手側に見せつけることによって、相手を圧倒し、戦う意志をなくして屈服させることだ」と。

外交交渉で平和的に勝つためには、大きな軍事力がいるのです。われわれの側も、中国を抑止するための十分な軍事力を持つべき時代になってきたのだと思います。

二つ目は、中国に対して21世紀の人類が何を目指すべきかという価値観を突きつけることです。南シナ海の紛争は、中国の一方的な横暴が原因です。国連海洋法をはじめとする国際社会のルールを踏みにじることは許されないということを中国に対しても、国際社会に対しても訴えつづけることが大事だと思います。

社会科学院 ベトナムはあらゆる側面で、中国の圧力を受けています。WTO(世界貿易機関)加盟のときもそうでした。現在、TPP(環太平洋戦略的連携構想)の交渉をベトナムは積極的に進めていますが、中国からの反対がとても大きいのです。ところで、TPPを武器にして、南シナ海の紛争を解決することができるものでしょうか。

国基研 結論から言えばイエスです。TPPは、その国の経済貿易を通して、国際社会を民主主義や国際法など普遍的なルールに近づけていこうとするものです。世界の知的財産権違反事件の80%が中国です。彼らの技術は盗んできたものです。日本の技術も、アメリカの技術も、大変多く盗まれてきました。しかし、TPPをやれば、知的財産権も透明なルールのなかで、お互いに対価を支払わなければならなくなります。

中国がここに入ってくれば、知的財産権の勝手な使用は難しくなります。それだけでも、中国の経済成長はスローダウンします。TPPにいくか、中国とのFTA(自由貿易協定)にいくかは、二つの異なる価値観のどちらを選ぶかということで、中国のルールを否定するのか、中国のルールに従うのかという問題です。

ベトナムは、フランス、アメリカ、中国と戦って勝った国です。決して「小さくて弱い国」などと思わないでください。

(文責 国基研)

PDFは、こちらよりダウンロードしてください。