4月から開始した総合安全保障プロジェクトは前回の序章に続き4月26日、中国安全保障動向を中川真紀研究員が報告。総合安全保障プロジェクトの成果は、逐次、国基研チャンネルやホームページ上にも掲載していきます。
【概要】
総合安全保障プロジェクトは月に1回の割合で定期報告する。今回は衛星写真を含めたオシント情報から、中国人民解放軍の戦力整備の方向性と情報支援部隊が新編された模様を紹介する。
〇画像から見る中国人民解放軍・軍改革後の戦力整備の方向性
・軍改革と台湾統一に向けた戦力整備
軍隊の組織が改編され、訓練できる環境の部隊をもって、台湾統一に向けた部隊運用の面でさらなる改革を実行中。運用改革の目標は建軍100年となる2027年。
台湾統一に向けた戦力整備の方向は、速戦即決(渡海侵攻能力強化、部隊の平時前方展開能力強化)、日米の領域使用拒否(BMD突破能力強化)、米軍の接近阻止(対艦弾道ミサイル精度向上)、相互確証破壊保証(警報即発射態勢、ICBM残存性)を重視。
・画像から見る具体的な整備状況
まず、速戦即決のうち渡海侵攻能力は、強襲揚陸艦(Yushen級、Yuzhao級)を増強し、戦力化している。揚陸艦に搭載する海軍陸戦隊は、2017年に2個旅団から6個旅団増強し、2022年からさらに3個旅団が新編された。また陸軍の内陸部隊(中・北部戦区)でさえ渡海訓練を通じて渡海能力を強化中である。さらに民間船(RORO船)への軍用車両搭載訓練、港湾以外でも接岸できる応急埠頭の造成など、より実際に近い環境に対応できるような訓練を繰り返している。
加えて平時の前方展開の状況であるが、水陸両用部隊では着上陸訓練場近くに駐屯地を建設し、訓練場から直接揚陸艦への搭載も可能。砲兵部隊では、台湾正面に新駐屯地を建設し、常に台湾を狙える態勢を構築。ヘリ部隊では台湾正面にヘリ駐機可能な飛行場を新設。
次に、日米の領域使用拒否のため、BMD突破能力を向上させている。第1列島線を射程内に収めるHGV(極超音速滑空兵器)搭載のDF-17を配備。米軍の接近阻止のための対艦弾道ミサイルは、新疆地区で移動標的に対する試験などで精度を向上させる。加えてHGVの長射程化も進めている模様である。
最後に核抑止であるが、警報即発射の態勢として固体燃料ICBMサイロ群を甘粛省、新疆、内蒙古に建設。また、相互確証破壊を補完する液体燃料式ICBMのDF-5サイロも建設を続けている。
資料PDF 画像から見る中国人民解放軍軍の戦力整備の方向性
〇人民解放軍情報支援部隊の新編
2024年4月19日、北京で中国人民解放軍情報支援部隊の編制完結式が行われた。2015年の軍改革で新設された戦略支援部隊を解組し、新たに情報支援部隊を編成した。その狙いは、肥大化した戦略支援部隊を情報・宇宙・サイバーの3個部隊に分割し、専門性及び技術対応の速度を向上すること、汚職腐敗を防止するため中央軍事委員会直轄として監視を強化すること、新領域へ本格的に対応すること、などである。
軍改革の目玉事業だった戦略支援部隊を、僅か8年余りで解組し新編したということは、新領域への対応を強化したい習近平氏の強い意思の発露と読み取れる。
資料PDF 中国安全保障動向「人民解放軍情報支援部隊の新編」
(文責 国基研)
衛星画像から分析 中国人民解放軍の戦力整備状況(前編)
今月から始まった総合安全保障プロジェクトが本格化、衛星画像分析の専門家による中国人民解放軍の戦力整備状況を前後2回に分けて送る前編です。台湾侵攻を前提にした戦力整備は、速戦即決、A2AD、核抑止に集中。そのうち速戦即決は、着上陸を想定し渡海侵攻能力を強化中。例えば揚陸艦の建造と訓練、海軍陸戦隊旅団新編、内陸部隊の渡海訓練、民間船舶(RORO船)活用などを実施。他に平時の前方展開能力も強化中。画像を示してご説明します。ご視聴ください。チャンネル登録も是非お願いします。