7月25日、経済専門家の田村秀男・産経新聞特別記者が、定例の国基研企画委員会にて「トランプ関税の虚と実」と題して、今週7月22日に合意した日米関税交渉などについて解説し、その後企画委員と意見を交換した。その概要は以下のとおり。
【概要】
〇対日トランプ関税の流れ
まず、アメリカの対日関税の流れを概観する。
2月10日に、鉄鋼・アルミ関税を25%と発表し、続く3月26日に、自動車関税を25%と発表すると、4月3日、自動車関税25%が発動した。6月4日に、鉄鋼・アルミ関税を50%に引き上げ、7月7日に、相互関税を25~40%と日本を含む14か国に通告。
今週の7月22日になり、自動車と相互関税は、各15%ということで日米が合意した。
〇米高関税の意味
米国の関税率は自由貿易の観点から従来、低く抑えられてきた。第1期トランプ政権で国内産業を復活させるために関税を徐々に上げ、直近で平均すると15%となり太平洋戦争以前の時代に逆戻りした形である。
米国では大型減税法が今月初めに可決されたことにより、10年間で3兆ドルの税収の減額が予想される。すると、どこからか補填しなければならないが、それを高関税により1.7兆ドルの増額を見込んでおり、関税率を下げるわけにはいかない懐事情がある。
〇日米関税合意の含意
自動車関税については、当初25%と言われていたものが15%まで引き下げられたと見るか、もともと2.5%の関税が15%に引き上げられたと見るか、その評価は分かれる。
米ブルームバーグの記事によれば、合意には米国への投資を目的とした5500億ドル(約80兆4000億円)規模のファンド設立も盛り込まれたというが、日本政府からの発表はまだない。ラトニック商務長官は、日本は「銀行家であり、運営事業者ではない」との認識を示し、プロジェクトからの「利益は米国の納税者に90%、日本側に10%が分配される」とも述べた。ベッセント財務長官も「革新的な資金供給スキーム」と強調する。
今後、日本からのカネが米国へ大量に流れるのであれば、日本の国内投資が細くなり、産業の空洞化が進むことが懸念され、例えばすでに日本車の輸出単価は2割下がっており企業に負荷がかかり始めていることは見過ごせない。
〇実は米経済を支える日本のカネ
米国の金融市場は海外の米国債保有により支えられているが、近年は保有比率が下がりつつある。その弱みを補填するのが日本のカネという構造で、今回の関税合意はその流れに沿ったものと考えることができる。
米経済を支える日本経済は、時代遅れの輸出依存により内需後退を招いている。つまり日本の対米投資が増え続けると、その反動で国内投資が伸びず企業の収益があがらないという悪循環となって返ってくるのである。
〇トランプ関税の実相は米中覇権争い
主要産業の世界シェアを見ると、米国は半導体、生成AI、兵器製造で、中国は重厚長大部門で多くを占める。他方、中国は独占するレアアースなどの輸出制限や、鉄鋼、電池で安売り攻勢をかけ、トランプ関税に対抗し、覇権争いの様相を呈している。
米国は4月10日に、対中追加関税145%を発表し、中国は対米追加関税125%を発表した。5月11日の米中高官協議の結果、対中追加関税は30%、対米追加関税は10%というところまできた。
ただし、中国経済は徐々に息切れしつつある。今後トランプ関税の影響が出そうだが、現に起きている中国の新卒人材の就職難という状況にも注目したい。 (文責 国基研)