公益財団法人 国家基本問題研究所
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役員論文

2011.07.22 (金)

最高の原子炉開発し世界に売れ 屋山太郎

最高の原子炉開発し世界に売れ

評論家・屋山太郎  

 菅直人首相が7月13日に突然、記者会見を求めて「将来的に原発に依存しない社会を目指す」と明言した。この首相発言は、福島第1原発事故に驚愕(きょうがく)している国民の受けを狙ったものに違いない。支持率が10%台まで落ちた首相が、起死回生の策と信じて打ち出したものだろう。しかし、国家の浮沈にかかわるこのような問題を首相が一存で発表すること自体、正気の沙汰ではない。果たして、翌日の閣僚懇談会では閣僚から強く文句をつけられ、首相は「私個人の考え」と釈明したという。

脱原発で日本企業生き残れず

 首相の言う「脱原発」に国民は大きく心を動かされたろう。20~30年がかりで原発を廃止に持っていく。その間に風力、太陽光、地熱、石炭・石油火力発電を充実させるといえば、一見可能と錯覚させるが、果たしてそうか。

 北欧の風力発電を見学に行ったことがあるが、洋々たる大地が広がり、そこに穏やかな偏西風が常時吹いている。見た瞬間、「台風常襲国の日本では無理だ」と実感したものである。太陽光発電パネルも良いが、孫正義氏によると、全国の休耕田に設置するという。休耕田を全部潰すつもりなのか。田畑はパネルなどよりも、もっと貴重な農業用財産なのだ。

 いずれにせよ、再生エネルギーが仮にものになるにしても、ここ何十年かはコストの高い電力になる。現在、韓国の電気料金は日本の4割で、法人税も日本の40%に対して24%である。日本の企業が国際競争で生き残れなくなり、海外に出ていけば、日本人は高い電気料金を払えなくなるだろう。

 戦時中に米軍機の空襲で夜毎(よごと)、灯火管制を余儀なくされた。いま「でんき予報」を聞かされるたびに、灯火管制の不愉快さを思い出す。当時は、いつか戦争が終われば、明るい電気の下で家族そろってご飯が食べられると我慢できたが、今回の「でんき予報」には永久に続く恐怖感、不快感を覚える。国全体をこんな縮み志向に陥れて繁栄するわけがない。

ドイツの選択は駝鳥の平和

 地球を守るために全世界が一体となって原子力発電を止めようというなら話は別だが、地球のエコのためには原発がいいという国もある。世界は原発設置派と脱原発派で二分されている。フランスは全電力の80%を原子炉で生み出し近隣諸国に売電もしている。隣のドイツ、イタリア、スイスは福島の事故を見て脱原発を決めたが、実は、フランスの原発で生まれた電気を買っている。この夏、フランスに行ったが、フランス人は笑っていた。原発は事故の危険があるから造らないと、ドイツ人は言っているが、われわれの原発はドイツとの国境近くに並んでいる。原子炉さえなければ安全だと思うのは、駝鳥(だちょう)の平和だ、と。

 英国は1970年代に設置した原子炉の寿命が来て建て替え期に入っている。福島の事故は英国にも衝撃を与えたが、英政府は「大地震や大津波の心配はなく、建造中の新原子炉の安全性は福島の旧式のものより進歩している」と判断、新設計画を進めている。石炭火力発電所を欧州連合(EU)の環境規制で2015年までに閉鎖せざるを得ない事情もある。

 中国は原発建設方針を変えていない。中国で事故があれば日本は黄砂被害どころではない。

 世界の原発設置派と脱原発派が調和する方法がひとつある。どの国のどこの原発も事故が起こらないものにすることである。

福島の事故はミスによる人災

 福島の事故を考えてみると、これはどうみても人災としかいえない。第一に、貞観地震による14~15メートルの津波の記録を無視して建てられた。交流電源喪失でも大丈夫だという原子力安全・保安院の指針も大間違いだった。なぜ、こんな初歩的ミスを犯したのか憤りを覚えるが、その背景が事故後に露(あら)わになってきた。東京電力とそれを規制する経済産業省、監督する同省の保安院が天下りを通じてずぶずぶの関係になっていたのだ。さらに、東電から流れる研究費という名のカネによって、学者までが一体となり、「原子力ムラ」を形成し、安全神話を広めてきた。これを可能にしたのは、地域独占という電力会社の体質だ。

 東電の官僚体質はかつての国鉄と運輸省の関係そっくりだ。国鉄は毎年2兆円の国費を食っていたが、分割民営されてJRになってからは補助金なしで、逆に7000億円の税金を納めるようになった。福島の事故は東電の官僚体質がもたらした人災と断じてよい。東電はすべからく破産させ、発送電分離を進めるべきだ。東京を除き、各ブロックの経済団体会長は電力会社トップで占められている。親方日の丸の会社が経済団体の長を務めることは、経済活動の活性化を損なうと知るべきだ。

 さて、日本は原発をどうすべきか。日本の技術力を結集して、世界最高の原子炉を開発することである。地震にも津波にも耐え、事故も起きない炉をつくり、世界の原子炉を日本製にすることを目指せ。これは夢物語ではない。日本にしかできない業だろう。(ややま たろう)
7月21日付産経新聞朝刊「正論」