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2012.10.20 (土)

有事の真っ只中のいま なぜ防衛予算の削減か 櫻井よしこ

 有事の真っ只中のいま なぜ防衛予算の削減か

 櫻井よしこ  

  

野田佳彦首相の頬がぷっくり膨らんでいる。元々丸い体形ではあったが、他の国家指導者の就任1年或いは2年後の体形や外見と比べると、そこには大きな違いがある。小泉純一郎氏は就任1年もすると髪の白さが目立ち始めた。痩せ型の人がさらに痩せたことは、頬の肉がこそげ落ち、頬骨がさらに高くなったことからも見て取れた。宰相の日々は激務なのだと思ったことだ。

海の向こうのオバマ米大統領も同様である。就任した年、彼は47歳、長身でスリム、髪は黒々としていた。痩せてはいても顔の皮膚はピンと張っており若々しかった。その大統領の髪は私の記憶では就任2年を過ぎた頃から目立って白くなった。今は胡麻塩を超えて白髪といってよいだろう。今や、小泉首相同様、こけた頬に疲労がにじむ。オバマ大統領の日々もまた激務の連続であることが見て取れる。

では野田首相はなぜはち切れそうな頬をしているのか。一にも二にも、仕事をしないからではないのか。民主、自民両党が新しい党首を選んですでに2週間、この間民主党政権は何もしていない。特例公債法案など首相自身がその成立を自らの政治課題と位置付けているにもかかわらず、同法案を審議して可決成立させる場としての臨時国会を開く様子がまったくない。

国会を開かずして、いかにして法案を通すつもりなのか。また、これまでの日本の政治史上、臨時国会を開かなかったことなどなかったことを考えれば、野田首相のダンマリ作戦は異常である。責任放棄のスキャンダルだ。

野田首相を支える強い柱が官房長官の藤村修氏であるが、藤村氏自身が機能しているとは思えない。むしろ、氏こそ民主党政権機能停止の象徴である。

野田首相がまったく働かなくとも、世の中は動いていく。中国の尖閣諸島への侵入活動は、絶対に中国領にするという固い国家意志を反映させて、尖閣諸島の海に中国の公船を常駐させるまでになった。

早急な対策を打たなければならず、それには予算措置が必要だ。進行中の予算編成を見ると、政治の機能停止の影響がいかに大きいかを痛感する。財務省は予算の一律削減を防衛省にも当てはめているのだ。財務省主導で作成された概算要求を見ると、驚くことに要求段階で4兆6,360億円、前年度の実績4兆7,135億円を下回っている。要求段階から前年度より少ない額を出すのは、日本を取り巻く状況を考えれば非常識であり、中国の侵入を手招きするようなものだ。今、大幅に防衛予算を増やすときにマイナス方向の予算編成では日本の国家としての常識が疑われる。これらすべて、官僚レベルの判断で行われている。財務官僚は国家の安全保障や中国の領土への野心などを念頭に予算編成をするわけではない。彼らは一定の財政規律の中で、平時の感覚で予算を組もうとする。

しかしいま、日本は有事の真っ只中だ。尖閣諸島周辺海域に昼夜連続で中国の大型公船が張り付いて、日本は領土を奪われる寸前に追い詰められている。有事の予算編成をしなければならないのが、いまなのだ。

唯一の希望は防衛大臣、副大臣共に日本の国防力の重要性を認識する森本敏、長島昭久両氏が就いていることだ。だが両氏が大幅な防衛予算増額に向けて努力するとしても、やはり財務省を動かすのは首相の意思である。野田首相はそこまで踏み込むだろうか。国会を開かないのは、政治の力で問題解決を進めていく姿勢に欠けているとみられても仕方がない。

それにしても野田首相は何をしているのか。夜毎、行き詰まった局面の打開策と自身の政権の生き残り策を考えているのか。じっと座って、動かないことが丸い頬を作っているのではないか。だとすれば、それが政治の機能停止を示すのであり、やはり野田首相は早く退陣するのがよいと思うのだ。
『週刊ダイヤモンド』   2012年10月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 957