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2022.10.18 (火) 印刷する

【詳報】 月例研究会「日米の絆と日本の針路」

月例研究会/令和4年9月5日/東京・内幸町イイノホール

日米の絆と日本の針路

国家基本問題研究所は、9月5日、定例の月例研究会を東京・内幸町のイイノホールで開催しました。講演の一部をご紹介します。

登壇者略歴

西村 康稔(にしむら やすとし)

経済産業大臣
1962年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁石油計画課・流通課、経済企画庁物価局物価政策課、石川県商工業課長環境立地局立地政策課調査官などを歴任。在職中、米国メリーランド大学公共政策大学院卒業。2003年、第43回衆議院総選挙にて初当選(現在当選7回)。2008年に外務大臣政務官。その後自民党政調副会長兼事務局長、選対事務局長などを経て、2012年に内閣府副大臣、2017年に内閣官房副長官。2019年、第4次安倍第2次改造内閣において経済再生担当大臣・TPP担当大臣、全世代型社会保障改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)に就任。2020年には新型コロナウイルス感染症対策担当大臣も兼任。2022年8月に経済産業大臣、原子力経済被害担当、GX実行推進担当、産業競争力担当、ロシア経済分野協力担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)(現職)

安倍総理のゴルフ

安倍晋三元総理が七月八日にご逝去されました。私は当時、安倍派の事務総長で、伊丹空港に東京から着いたあと、直ちに奈良の病院に向かいました。医師団の本当に懸命な輸血をはじめとした治療を見守りながら、昭恵夫人とともに塩谷立(安倍派)会長代理も来られて三人で最期をみとらせていただきました。

本当に残念で残念でならない。大きな穴があいたような、柱を失ったような状態、状況がずっと続いております。けれども、まさに世界はものすごいスピードで動いており、立ち止まっているわけにはいきません。とても安倍総理のその代わりは務まりませんが、みんなで力を合わせて、そのご遺志をしっかりと引き継いで日本の未来のためにがんばらなければならない。その決意をしているところです。

官房副長官のときに安倍総理とトランプ大統領との首脳会談に十回ぐらい同席しました。安倍総理はカートの運転手のようだと批判されたこともありましたが、アメリカではホスト国のトランプ大統領がカートの運転をし安倍総理が横に乗っていましたし、当然、ホスト側が運転するわけです。

安倍総理が口癖のように仰ったのは「日米同盟のために、抑止力のために自分はゴルフをしているんだ」ということです。私も千葉での安倍総理とトランプ大統領のゴルフでは、二組目で回らせてもらいました。一組目は安倍総理とトランプ大統領と青木功さん、二組目が私と当時のマルバニー米首席補佐官代行、それから日米両国のハガティ大使と杉山大使で、後ろから追いかけていきました。朝も昼も一緒に食事をして、安倍総理とトランプ大統領、二人の話をずっと聞きながら、様子を見ながらゴルフをしたわけです。

そのとき通訳の人はカートの後ろのゴルフバックにしがみついて横から通訳するんです。日本で安倍総理が運転するときは大丈夫なんですが、アメリカでの場合はトランプ大統領は自分のゴルフ場なので道も全部、目をつぶっても運転できるぐらい知っています。だからすごいスピードを出す。カーブを曲がるときも倒れるんじゃないかと思うぐらいにスピードを出すんです。それでも通訳の二人は後ろのバッグにしがみついて横から顔を出して振り落とされそうになりながらも必死で通訳をする。安倍総理と相談をして、そのときの写真を私が撮ってSNSに出したこともあります。

日米の絆

安倍総理はゴルフの間、北朝鮮、中国、東アジアの情勢について、ずっと大統領に話し続けておられました。トランプ大統領は、時に例えば「日本はクルマをものすごく輸出してアメリカは赤字なんだ、何とかしてくれ」というような話もされます。でも安倍総理は「いや、そうは言うけれどもトヨタも日産も、みんなアメリカに工場をつくって、雇用もこれだけ増やしているんですよ」と。特に強調していたのは「アメリカから部品を七割ぐらい買っているんですよ。GMやクライスラーを見てください。アメリカから買っていないじゃないですか。それこそ日本から輸入しているんですよ。でも日本の会社はみんなアメリカの企業からもたくさん買っているんですよ」ということでした。トランプ大統領は「うーん」となるわけですが、安倍総理は数字も含めて政策のいろんな説明をされていました。

そして口癖のように言われたのは「日米の首脳が朝から晩まで一緒にいる。ゴルフをする。ずっと二人で話している。この姿を中国や北朝鮮の首脳がどう見るか。日米の絆は深い。大統領はゴルフが好きだし、自分も好きだからやるけれども日米同盟のために、日米の絆のために、抑止力のためにゴルフをしているんだ」ということです。

また、安倍総理は日米首脳会談で何度も安保法制の説明をされました。トランプ大統領が横須賀で安倍総理の案内のもと護衛艦「かが」に乗ったことがあります。トランプ大統領はパッと見て「日本は何ていい船を持っているんだ。日本はこんないい船を持っているのか」としみじみと言われました。安倍総理は「日本は安保法制でアメリカと一緒にしっかりと責任を果たすことができるようになっているんですよ」と説明をされて、トランプ大統領も「そうなのか」と何度も頷いておられました。

もちろん在日米軍の話も時には出たりしますが、トランプ大統領とは腹を割って話せる仲ですから、そのたびに安倍総理は日米の絆を何度も何度も確認をしてきたわけです。

日米の半導体協力

安倍総理はこう主張されていました。「日米同盟を基軸としながら日本の安全保障を確固たるものにしていく。防衛費二%も、もう当たり前だ。自分の国だけを守る時代じゃない。どの国もお互いに守りあう。そのためにNATOは防衛費二%を基準にしている。日本も当然、国際標準的な防衛費を出さなければいけない」と。われわれはしっかりとそれを引き継いでいかなければなりません。

その一つが日米の新たな半導体の協力だと思います。

その安倍総理が安保法制を作ったから、いま日米が一緒にいろんなことができます。私が当時の通産省にいたころとは様変わりしています。

私が通産省に入ったころ、一九八五 年は日米の貿易摩擦の只中でした。日本がアメリカを凌駕しようとしている、日本の輸出や半導体のシェアがどんどん増えると貿易摩擦があり、その議論をしているときでした。

私は通産省時代の九一年、九二年に留学(米国メリーランド大学院)をしたのですが、そのときのクラスメイトとの議論では「半導体はどうなっているんだ。なぜ日本はこんなに輸出をアメリカにどんどんしてくるんだ」という意見があった。ちょうど湾岸戦争のときで「なぜ日本はお金だけ出して人的な貢献がないんだ」という意見もありました。

でも、いまは様変わりし、日米で一緒に半導体を開発をして次に備えていく時代です。中国に依存せず日米で最先端の協力をしていこう、という状況なのです。日本はアメリカの企業、ウエスタンデジタルに補助金を出します。三重県の半導体製造工場、キオクシアとウエスタンデジタルとの共同計画に支援をする。また、日本企業がアメリカで行うことに対してもアメリカが支援をする。

こういった枠組みをいま、つくっています。日米で次世代の半導体を一緒に開発しようということです。日本側は東大をはじめとした大学、産業技術総合研究所や理化学研究所で日本の英知を結集する組織をつくっていき、その中でアメリカと一緒に新たな半導体を開発していこうと進めています。

TPPのメリット

もう一つ、IPEF(インド太平洋経済枠組み)があります(注/西村大臣は九月八、九日に開かれたIPEFに出席した)。

私は安倍政権の甘利明大臣のもとでTPP(環太平洋パートナーシップ)の交渉を行い、また、前職は経済再生・コロナ対策担当大臣でTPPも担当し、イギリスを交渉に入れる取り組みを行ってきました。イギリスがTPPに入ることによって、その枠組みはグッと広がっていきます。アジアだけではなく、太平洋地域だけではなく、さらに広がりを持つ可能性を秘めたイギリスのTPP加盟交渉が進められています。

本来はアメリカもTPPに残ってほしかったのですが、残念ながら自動車などの関税を下げたりするのは国内のいろんな事情で無理だということで、いまTPPを離脱しています。しかしアメリカがインド太平洋地域に一定の関与をしていく。その一つの枠組みがIPEFです。

では、アジアの国々にとってIPEFのメリットは何なのか。

例えばTPPであれば、アメリカが関税を大きく下げてくれればアジアの国々はアメリカ市場に輸出ができる魅力があります。だからベトナムにしてもマレーシアにしても、例えば知的財産のルールを守ってくれという条件を飲んだわけです。ベトナムではかつてホンダ(HONDA)のバイクによく似たハンダ(HANDA)というものがあった。「O」を「A」に変えたものです。でも知的財産を守ると約束をして、それを取り締まることになっています。また、公共事業や政府調達の入札も国有企業を日本企業や米国企業と対等の条件で競争させるようにしました。本当は自国企業を優遇したいけれども、米市場にアクセスできる、あるいは日米の企業が投資をしてくれると改革して乗り越えたのです。ベトナム、マレーシアはこの決断をして、インドネシアやフィリピンやタイよりも一歩、先んじてアメリカや日本の市場と一緒に経済圏をつくっていこうとしたのがTPPでした。

IPEFのメリット

ところがアメリカがTPPから抜けたわけです。そして今回のIPEFでもアメリカは関税の議論はしない。ですから、アジアの国々にとってのIPEFのメリットは何なのかが一番のポイントで、今回の議論の中心になると思います。

一つはサプライチェーン、部品供給のネットワークを再構築していくということです。これまでのように何かあったらすぐに部品供給が止められるような中国との依存関係から脱して、有志国、同志国でサプライチェーンを強靭で柔軟なものにする取り組みを進めていく。中国はレアアースを止めたことがあります。また、コロナ禍では、中国に生産を依存するマスクや医薬品がなかったこともありました。それだけ中国との依存関係がある。今回のロシアによるウクライナ侵略でもサプライチェーンの問題が明らかになりました。

よく「チャイナ・プラスワン」と言われます。中国に加えて、もう一つ、ベトナムなどに工場をつくるということです。一方、日米でつくっていくこの枠組みでサプライチェーンを強靱化していく。先に半導体のことを申し上げましたが、有志国で新しい枠組みをつくればいろんなものがどんどん進化していく中で投資が進みます。これがアジアの国々にとっての一つの大きなメリットになります。

二つ目がカーボンニュートラルに向けて、技術的な支援、経済的な支援をしていくということです。安く技術的に平易な石炭に依存している国が多いのですが、石炭火力はやはり今後、難しくなっていきます。それに対して日本は技術で協力できる。クリーンエネルギーに向けての大きな協力になります。高効率な技術、CO2を捕まえるCCS(二酸化炭素回収・貯留)、それを再利用するCCUS、あるいはアンモニアを混焼してCO2の排出を下げる技術。こういった技術を持つ日本が協力するのは、アジアの国にメリットがあります。また、日本はデジタルや人材育成などの協力もします。

日本の役割

さらに、中国は「一帯一路」でアジアでインフラ整備をしてきましたが、一方で、「債務の罠」とも呼ばれるスリランカのハンバントタ港のような事例も見られます。日米は、アジアの国々に安倍総理が推進した「質高インフラ(質の高いインフラ)」、デジタルやクリーンエネルギーも含めたインフラで協力していくことができます。こういったメリットもあります。

このようなメリットをインドも含めたアジアの国々が感じてくれることで、IPEFの枠組みに入っていこうとなるわけです。

アメリカは、いわゆる公正な経済、例えば税や腐敗、労働、人権問題について主張しますが、いきなりここから入るとアジアの国々はみんな身構えます。アジアの国々はそれぞれいろいろな事情があります。もちろん、われわれも人権は大事ですから、それは守ってもらわなければならないのですが、そればかりを言うと身構えるのです。何かアメリカから言われることの方がメリットより大きいんじゃないかと心配します。

ここは日本がアジアとアメリカのいわば橋渡し的な役割も果たしながら、それぞれの国の事情に応じた方法で進めていく。例えばエネルギーで言えば、石炭が多い国と少ない国とがありますが、各国ともエネルギー危機を回避しながら、しかしカーボンニュートラルを目指すことが重要です。頂上を目指して山を登るにしても、いろんな登り方がある。グルッと回って登る国もあれば、一直線に登れる国もあるということです。TPPでも、すぐにできる国もあれば、五年かかる国もあるので、例外項目、経過措置を置きました。

それぞれの国の事情にも配慮しながらインド太平洋の枠組みの中で、同志国のサプライチェーンネットワーク、強靱な経済圏をつくっていくということです。

経済安全保障は四本柱の法律に沿って重要な技術を定め、インフラも事前にチェックします。さらには研究開発を進めて特許を非公開にしていく。特許の非公開も、システムを変えたり、仕組みをしっかりつくっていくため少し時間がかかります。まずは重要技術を定め、そして支援、研究開発をしていく。サプライチェーンを強化していく。こういう枠組みを先にスタートをしていくということで進んでいるところです。

原発の重要な役割

エネルギーについては、一つは福島の廃炉を着実に進めなければいけない。そしてALPS処理水の放出は、地元のみなさんに理解を得なければいけません。経産相に就任して一カ月弱ですが、三回、福島に行き、地元のみなさんと話をしました。福島第一原発の廃炉の状況も二、三年おきに私もずっと見てきていますので、着実に進んできている状況を確認しながら、放出のための工事もいま進めています。

漁協のみなさんにも理解をいただけるように丁寧に説明をしています。また、全国の漁業者が風評被害に遭わないように、継続して漁業を行えるよう、枠組みも構築をしていこうと新たな基金をつくることも目指しています。これから政府内で財務省とも調整をしていかねばならない。そうした方向性も表明させていただいたところです。

その上で大きな事故を経験したわけですから、福島のみなさんをはじめ国民の理解を得ながら進めなければなりませんが、原発の再稼働をしっかりと進めていく。岸田文雄総理も年末に九基は確保すると表明されました。実は十基はもう動いているのですが、定期点検などで休んだりしています。

この年末までに運転期間の延長や、あるいはより安全性を確保した革新的な次世代炉の開発も進んでいますので、そうした取り組みを進めていく。これは日米で協力してやっていく部分もあります。

エネルギー安全保障をしっかり確保していきながらカーボンニュートラルを進めていく。原発はその中で大きな役割を果たしていくものと思っています。長い目で見れば原発への依存度は減らしていきますが、福島の事故の前は三割ぐらい原発に依存していました。いまは四%弱です。これを二〇三〇年は二〇%~二二%にし、長い目で見れば依存度は減らしていきます。

日本のエネルギー安全保障の観点から、原子力は非常に重要な役割を果たすので、まさに年末に向けて議論を加速していきます。総合エネルギー調査会で議論を進めているんですが、これはフルオープンで議論をすることになっています。すべて公開し、みなさんに議論を見ていただきながら進めていくことになっています。(講演より抜粋)

 

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