ドイツで先進7か国(G7)貿易相会合が開かれた。注目すべきは、中国を念頭に「経済的威圧」への深刻な懸念を初めて取り上げて、共同声明に盛り込んだことだ。
●「経済的威圧」への共同対処
近年、中国は巨大な中国市場や供給力をバックに相手国の政策を変更するよう圧力をかけている。習近平国家主席は2020年4月の党の会議の講話において、中国に依存させることによって相手国への反撃力・威嚇力を高めることを指示している。
こうした経済的威圧にどう対処するか。
まず9月5日付の本欄でも指摘したように、日本も米欧と同様に経済的威圧に対する対抗措置を抑止力として持つべきだ。そして今回の会合に出席した西村康稔経済産業相が発言して共同声明に反映されたのは、個別対応は各個撃破されるのでG7で共同対処することが大事であること、さらには影響を受けた途上国に協力してG7以外の巻き込み、仲間づくりが重要であることだ。これは前稿(9月12日付)で指摘したとおりだ。インド太平洋経済枠組み(IPEF)や日米豪印4カ国安全保障対話(クアッド)と明示しなくても、共同声明にある「G7以外の国際的な場における協力」にはこれらも当然含まれている。
●新手法の「強制的技術移転」への懸念
もう一つの中国に対する懸念が「強制的な技術移転」だ。中国はこれまでとは異なる手段も繰り出して、外国企業に技術移転を迫っている。
複合機(コピー機、プリンターなど複数の機能を持つ機器)では設計・開発から生産まで全工程を中国国内で行うことを求める「国家標準」を作ろうとしている。また高度な医療機器では病院に国産品を「政府調達」するよう求めるとともに、設計開発や重要部品の調達を中国国内で行うよう求めている。これらはいずれも同根の問題で、外国企業から技術を獲得するのが狙いだ。中国は近年、こうした国産化戦略を加速化させているが、その一環だ。
会合で西村経産相はこうした「政府調達」や「国家標準」といったさまざまな手段を駆使して外国企業から技術を入手しようとする中国の動きを取り上げた。そして共同声明ではこれらを「(間接的な形を含む)あらゆる形態の強制的技術移転」として懸念の共有を盛り込んだ。
●来年の議長国・日本の役割
G7においても「経済安保を軸とした国際秩序作り」は着実に進展しようとしている。今回、G7がいわば「経済版の集団安全保障」として協力して取り組む機運は高まった。議長国ドイツもこれまでの対中ビジネス偏重への反省もあって、「中国への甘い姿勢は終わった」と記者会見で述べる一幕もあった。
日本は来年のG7議長国として、これら「経済的威圧」「強制的技術移転」という中国問題について共同対処をさらに具体化させる重要な役割を担っている。(了)