経済安全保障推進法が成立し、それを着実に実施することは当然だ。しかし、これで満足してはいけない。次に取り組むべきは経済安保における有事の法制度整備だ。経済安保推進法はいわば平時の法制だ。
●日本版の国防生産法を
例えば、経済安保推進法には半導体など重要物資の安定的な供給を確保するための措置が規定されている。民間企業が国内生産を強化する取り組みに対して支援する。これは民間企業が生産強化に手を挙げてくることを前提とする。平時における法制としてはこれでいいだろう。
しかし有事になれば、国が強制的に生産を命令する権限を発動する必要がある。コロナ禍においてもマスク、人工呼吸器を増産する必要に迫られたが、日本では民間企業への要請ベースで限界が露呈した。他方で、米国は民間企業の生産活動を大統領権限で命令できる国防生産法を発動して、国内自動車メーカーに人工呼吸器の生産を命じた。これは朝鮮戦争時に作られた有事法制だ。
報道によると、日本政府は医薬品や医療物資については感染症法を改正して、感染症拡大時にメーカーに緊急に生産を指示できるようにするという。問題は強制力のある命令にできるかどうかだ。
さらに、他の重要物資についても有事に生産を命令する権限は必要だ。もちろん十分なインセンティブも併せて用意する必要がある。日本も「日本版国防生産法」を作るべきだろう。
●経済的威圧への対抗措置を
もう一つ必要なのは、経済的威圧への対抗措置だ。中国は経済を「武器化」して一方的な威圧を繰り返している。2010年、中国によるレアアース(希土類)の対日輸出停止で、日本の産業界は深刻な事態に陥った。こうした事態に日本はやられるだけで、何の反撃もできない。
世界を見ると、米国、中国、欧州連合(EU)などは対抗措置を当然有している。経済的威圧が横行する時代になって、主権国家として当然保有すべき備えだ。発動は慎重にすべきだろうが、少なくとも発動できる体制にしておくことは抑止の上でも不可欠だ。
外為法はそうした対抗措置を講じる建て付けになっていない。国家安全保障局が中心になって、外務省、経産省、財務省など関係各省が協力して新たな法制度を作るべきだろう。
こうした日本版国防生産法の制定と経済的威圧への対抗措置の保有は、有事の経済安全保障法制として取り組むべき重要な項目だ。今、日本では台湾有事への備えが喫緊の課題となっている。防衛力の強化はもちろん急務だが、経済面での有事の備えも忘れてはならない。(了)
第204回 経済安保推進法が成立したがこれは平時の法
さらに必要なのは有事の体制である。第1は、日本版の米国国防生産法。米国はコロナ禍の緊急事態に人工呼吸器の生産を命じることができた。第2は、中国などによる経済の武器化への対抗措置。これを用意することが抑止力になる。