太田文雄の記事一覧
国交相は常に公明党で良いのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
9月13日に第2次岸田再改造内閣が発足した中で、国土交通相がまた公明党から出ていることに疑問を感じる。民主党政権が終了した2012年から約10年、連続して国交相は公明党である。公明党の若手の中には、防衛大学校准教授であった人物などもおり、その主張に違和感を覚えないこともあるが、党全体としてはいわゆる「平和の党」として自民党の安全保障政策の足を引っ張る主張が目立つ。そのうちの特に2点を指摘したい。 ...
中東欧の対中脅威認識が変化 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
8月20日から1週間、チェコの首都プラハで米国防総合大学(NDU)が主催した卒業生の安全保障セミナーに参加した。当初ルーマニアの首都ブカレストで行われる予定であったが、ウクライナとの国境付近にロシアのミサイルが飛来するに及び、急遽プラハに変更された。約100名の卒業生が参加した。 8月20日はソ連軍による1968年のチェコスロバキア(当時)侵攻の55周年に当たり、開催に協力したチェコ国防省・...
核抑止論は破綻せずウクライナで立証された 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
6日の「原爆の日」、広島市の松井一実市長は平和記念式典で「核抑止論は破綻している」と訴えたが、ウクライナ戦争で核抑止論は逆に立証されていると言える。 米の支援小出しは露の核への恐れ 米国のジョー・バイデン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻が迫っていた2021年12月の段階で、本来、曖昧にしておくべきであった米軍派遣を「検討していない」と述べた。これがロシアのウラジミール・プーチン大統領を...
NATOやインドと進む軍事協力 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によってNATOの東京連絡事務所設置が「将来検討」となってしまった。 しかし7月末には、航空自衛隊の宮崎県新田原基地でフランス航空宇宙軍の主力戦闘機ラファール等と空自が共同訓練を行い、同軍参謀長ミル大将も訪日した。また6月には、沖縄東方海域で日仏米の海空軍が共同訓練を行い、日本からヘリコプター搭載母艦...
中国が狙う自衛隊の分散 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月20日から4日間の日程で中露統合軍事演習「北方相互作用(Northern Interaction)2023」が日本海で実施された。今回の軍事演習は、これまでのように中露の軍艦が単に並行して航行するといったものではなく、二つの点で大きく進化していることが特徴である。一つ目は、日本海に面する基地を持たない中国人民解放軍が、ロシアのウラジオストク近郊にある航空基地にY20輸送機、KJ500早期警戒機...
スウェーデンNATO加盟の軍事的意義 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、トルコのエルドアン大統領が容認に転じたことで実現する運びとなった。バルト海のゴットランド島がスウェーデン領であることから、ロシアの飛び地であるカリーニングラードに司令部を置くバルチック艦隊への監視能力が高まり、かつバルト海がNATOの「湖」になるとするメディアの論調が多い。しかし筆者は、こうした地理的な利点に加えて注目すべき3点を指摘したい。 ...
キューバの中国盗聴基地が日本を脅かす 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
米国で先月、中国が米フロリダ州の目と鼻の先のキューバに盗聴基地を設置していることが報じられた。この報道は日本にも伝えられたが、日本の安全保障にどのような影響があるのかについては論じられていない。筆者は五つくらいあると思う。 米戦略原潜の情報収集 中国や北朝鮮が戦術核や戦域核で日本を攻撃した場合、米国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略爆撃機で報復することは、エスカレーション・ラダー(...
長期戦が成功したためしはない 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
ロシアは、ウクライナ戦争が長期戦になれば欧米にウクライナへの「支援疲れ」が生まれ、資源が豊富なロシアに有利になると考えている節がある。 しかし『孫子の兵法』は作戦篇第二で、長期戦で国を疲弊させると「諸侯其の弊に乗じて起こる」(周辺の諸侯がその困窮に乗じて反旗を翻す)と警告し、「兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを賭みざるなり」(戦争はまずくとも素早くやるというのはあるが、うまくて長引くという...
沖縄はPAC3常時配備を歓迎せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
4月23日の沖縄タイムスによれば、玉城デニー沖縄県知事は、北朝鮮の軍事偵察衛星打ち上げに備えて防衛省が発表した地対空迎撃ミサイルPAC3の県内配備方針を疑問視し、「背景をしっかり精査するよう(担当部局に)指示した」と述べた。また、宮古島や石垣島などが配備先になるとの見方に関し「説明不足と言わざるを得ない」と指摘して「唐突に北朝鮮のミサイルを引き合いに出して配備しようとする考え方で、果たして住民の理...
【第1039回】ビジョンだけで国防や軍縮は達成できない
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 主要7カ国(G7)首脳による広島サミットは、核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」を発表した。世界最初の被爆地、広島を地元とする岸田文雄首相の願望である「核兵器のない世界の実現」を「究極の目標」として盛り込んでいる。 しかし、ロシアによる「核兵器使用の威嚇」を文書でいくら非難しても、ロシアはウクライナに対する核恫喝をやめないであろう。「...
中国海軍、オホーツク海使用に布石か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
5月8日、防衛省は中国人民解放軍海軍の艦艇5隻が宗谷海峡を抜けてオホーツク海に入ったと発表した。この事実が軍事的に何を示唆するのかについて考察してみたい。 米海軍大学が出版している海軍大学論評(Naval War College Review)2022年秋号に、同大学の中国海洋研究所に所属するアンドルー・エリクソン教授他1名が「プーチンのウクライナ侵攻―加速する中露協力 エネルギー、海洋安全...
日本もスパイ防止法の制定を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
4月26日に中国では反スパイ法が改正され、7月1日から施行される。この法律によりスパイ行為の定義が拡大して、取り締まりが一層強化される恐れがある。反スパイ法は習近平政権下の2014年に施行され、それ以降、少なくとも17名の日本人が拘束された。 多くの国にはスパイ防止法があり、自国民が中国にスパイ容疑で拘束されても、自国が拘束した中国人スパイと交換に自国民を解放してきた。しかし、日本にはスパイ...
中国気球のスパイ活動は我が国安保に直結 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
4月3日に米NBCニュースは、米政府高官2人とバイデン政権の元高官の話として「2月にアメリカを横断した中国の気球は、軍事基地における電子信号をリアルタイムで北京に送信し、時には8の字を描くように飛行していた」と報じた。 これに対して、我が国では自国の安全保障に直結する問題だという報道や識者コメントがなかったように思われる。しかし筆者は我が国の安全保障にかなり影響のある問題と認識している。 ...
日本もTikTok禁止を検討せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
8日、米国家情報長官室が情報機関による年次脅威査定報告書を公開した。日本のメディアでは「中国が最大の安全保障上の脅威」とか「2027年までに台湾有事への米国の介入を阻止できる軍事力を構築することを目指している」といった点を報じているが、筆者が注目したのは報告書に何回も出てくる「悪意ある影響(力行使)作戦」であり、それを具現化する偽情報の拡散や、中国共産党に都合の良い物語(narrative)の流布...
海保法25条に「何の穴もない」は本当か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
先月末、沖縄県石垣市の調査船が尖閣諸島の環境調査を行った。海上保安庁の巡視船は中国の海警船を近寄らせなかったようであるが、次回もうまくいくとは限らない。 先月17日のBSフジのプライムニュースで、衆議院議員の新藤義孝氏は前海上保安庁長官の奥島高弘氏、東海大学海洋学部教授の山田吉彦氏との対談で、「海上保安庁は非軍機能を規定した海上保安庁法25条の下でも尖閣をしっかり守っており、何の穴もない」と...
【第1009回】日本も気球対処の法整備が必要
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 米国上空に飛来した中国の偵察バルーン(気球)を米空軍はF22戦闘機で撃墜した。同様な領空侵犯が日本でも起きた場合の法整備は遅れている。 自衛隊法84条の領空侵犯に対する措置には、侵犯機を「着陸させる」か領空外に「退去させる」の2選択肢しかなく、撃墜する権限は明示されていない。82条の3に弾道ミサイル等に対する破壊措置規定があるが、落下に...
【第1002回】安保3文書履行に早くも暗雲
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 1月11日にワシントンで行われた日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2+2)の共同発表には「日本の南西諸島を含む地域において、日米の施設の共同使用を拡大し、共同演習・訓練を増加させることにコミットした 」とある。日本の閣僚がコミットした以上、米側はもう使えると判断したのだろう。直後の13日に米海兵隊が沖縄県の下地島空港(宮古島市...
米海兵沿岸連隊の意味合いと注目点 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11日に行われた日米外交・防衛閣僚による安全保障協議委員会(通称2+2)の共同発表で、沖縄の米第12海兵連隊が2025年までに第12海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment=MLR)に改編されることが明らかにされた。筆者は、先週の「ろんだん」で統合海洋軍(Integrated Maritime Force=IMF)構想について論述し、その中にMLRが含まれることに言及したが、...
海保の軍機能保持はやはり必要だ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
昨年末に閣議決定された安保3文書において、海上保安庁は海上法執行機関として位置付けられたので、軍としての機能を保持しないことを定めた海上保安庁法25条は改正の必要なしとする論調がメディアに散見される。しかし、海上保安庁と共に中国の海洋進出を阻止する米国の沿岸警備隊は、海上法執行機関であると同時に5軍(陸・海・空・海兵隊・沿岸警備隊)の一つであり、海上保安庁は軍としての機能を保持した方が日米同盟を強...
国防教育なき安全保障は砂上の楼閣 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
12月16日に閣議決定された安全保障3文書は多くの安保関係者に高く評価され、筆者も同意するが、敢えて不満足なところを挙げると、その一つが国防教育の強化を謳っていない点である。 国家安全保障戦略の始めの方に「国家としての力の発揮は国民の決意から始まる」(5ページ)とあるのは、まさにその通りで、現在電力施設の多くをロシアの攻撃によって破壊され極寒の中にあってもなお多くのウクライナ国民が対露戦を戦...
公明党はどこの国の政党なのか 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
12月16日に「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の、いわゆる安保3文書が閣議決定された。これに先立って政権与党である自民党と公明党が12日に3文書に合意したが、ペロシ米下院議長訪台後に中国が我が国の排他的経済水域に弾道ミサイルを着弾させたことに関する「国家防衛戦略」の記述で「わが国および地域住民に脅威と受け止められた」の自民党案に対し、公明党は「わが国および」を削除するように主...
中国の認知戦への対応策 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月末に防衛研究所が公表した報告書『中国安全保障レポート2023―認知領域とグレーゾーン事態の掌握を目指す中国』は、現状の分析と報告が中心で、中国の認知戦にどう対応すべきかの具体策が書かれていない。 認知戦とは、「敵の認知・思考・決定を形成もしくはコントロールすることを目指す作戦」(報告書42ページ)と定義される。卑近な例として、某テレビ番組のレギュラー・コメンテーターが言うような「戦争に...
海上自衛隊を海洋自衛隊に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
12月7日、政府が航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改称する方針を固めたと報じられた。これに関連して、海上自衛隊も海洋自衛隊と改称すべきではないかと思う。その理由は、海上自衛隊が海の上だけを守っているのではなく、潜水艦の運用や機雷掃海などにより海面の下も担当しているので、現在の名称では実態にそぐわないという理由が一つ。もう一つは近年、海底ケーブルや海底パイプラインといったインフラの重要性が高まっているの...
【第990回】米の中国軍事力報告書と我が国の対応
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 11月29日、米国防総省が中国の軍事力に関する年次報告書を公表した。我が国における防衛論議との関係から、特に注目すべきだと思われる核戦力の増強および海軍・海警の一体化の2点を取り上げたい。 ●核戦力の増強 内外メディアが報じたように、報告書は中国の核弾頭配備数が現在の400発強から2035年までに1500発に増えると予想している...
有識者会議報告書の問題点 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月22日に「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の最終報告書が公表された。「総合的」とうたいながら、会議の構成メンバー10人に国防の現場を知る元自衛官が1人も入っていないという人選の不健全さから、満足できる結果が出てくるようには思えなかったが、まさにその通りであった。報告書の問題点を幾つか指摘したい。 核の「か」の字も出てこない ロシアがウクライナの戦場で核兵器を使用する...
沖縄に事実上入港できない海自艦 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
11月10日から19日までの予定で、今年最大の日米共同演習キーン・ソードが実施されている。陸海空自衛隊員約2万6000人と米軍約1万人が南西諸島を舞台に大演習を行う。 10日に海上幕僚監部の幹部から「沖縄の港湾に入港できなくなるような雰囲気になっている」との話を聞いた。沖縄の港湾施設を管理する部署に入港申請を出しても「岸壁が開いていない」とか「舫もやい(岸壁に係留するためのロープ)を取る作業...
【第978回】納得できぬ海洋発射核巡航ミサイルの中止理由
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 10月27日、米国防総省は「国家防衛戦略」(NDS)、「核態勢見直し」(NPR)、「ミサイル防衛見直し」(MDR)の3文書を公表した。このうちNPRは核搭載海洋発射巡航ミサイル(SLCM-N)の開発中止理由を初めて公に説明しているが、同盟国として大きな懸念が残り、納得できない。実際には議会がSLCM-N予算を復活させたが、弾頭部の予算は未だ...
海保予算を法改正なしに防衛費に含めるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
先月、鈴木俊一財務相は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の国防費と同様に、海上保安庁予算など安全保障に関連する経費を幅広く防衛費に算入することに含みを持たせる発言をした。今月13日のBSフジのプライムニュースでも、岸田文雄首相はそれを是認するような発言を行った。 NATO加盟国が沿岸警備隊のような軍隊以外の武力組織の予算を国防費に含める際、その武装組織は「軍事訓練を受け、軍事力として装備さ...
【第976回】言葉だけの核抑止重視であってはならない
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 10月12日、米国の「国家安全保障戦略」が公表された。この中で新たに整理されて出てきたのが「統合抑止」の概念である。その内容は「ドメイン(領域)横断的な統合」「地域横断的な統合」「紛争範囲横断的な統合」「米政府横断的な統合」「同盟・パートナー国との統合」の五つである。 しかし、「統合抑止」の名に隠れて純粋な軍事力の役割を軽視することがあ...
欧州の出来事を他山の石に 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
ロシアのウクライナ侵略は、かつて自国の領土だった土地を、口実をつけて武力で奪うという現象だ。10月5日、プーチン・ロシア大統領は、ウクライナの4州をロシア領とし、ロシア語を公用語として、来年から住民に徴兵を課すとの大統領令に署名した。 2013年5月8日の中国共産党機関紙『人民日報』は「沖縄の主権は未解決」との記事を掲載した。また2016年8月12日にも、人民日報系の環球時報(電子版)は「沖...
戦力向上より政治的ショーのボストーク演習 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
予定より2日遅れの9月1日から7日まで極東で行われている4年に1度のロシア軍事演習ボストーク(東方の意)は、当初5カ国の参加とされていたが、開始直前になって14カ国に膨れ上がった。他方で、参加兵力は4年前の約30万から5万に、航空機は約1000機から140機に縮小している。 参加国は初参加のインド以外に、中国、モンゴル、ラオス、アゼルバイジャン、ベラルーシ、タジクスタン、アルメニア、キルギス...
中露軍事協力は本物か 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
8月30日から開始される4年に1度のロシアのボストーク(東方の意)軍事演習を前に、中国共産党系の環球時報英語版であるグローバル・タイムズは25日、「中国が陸海空3軍を初めて派遣」との記事を掲載した。一見、中露の軍事協力が深化しているかのように見えるが、実態は疑わしい。 ウクライナ戦線にロシア軍は東部戦区の陸空軍をも派遣しているために、東部戦区の陸空軍は極めて希薄な状態になっている。従って、演...
国の為に戦う人の率最低はGHQの所為 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
8月13日の産経新聞に「戦争になった場合、あなたは国のために戦いますか」という問いへの回答に関する国際比較が掲載された。日本は「はい」という答えが群を抜いて低く、13.2%で世界最低であった。 筆者は昭和62年(1987年)の『防衛白書』執筆担当であった際、「国民と防衛」の章で各国の現状を比較する企画を行った。その結果、諸外国は憲法に「国防の義務」を明記しており、それを記述していない日本国憲...
【第952回】中国のハイブリッド戦に備えよ
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 ペロシ米下院議長の訪台(8月2~3日)に伴い、台湾を威嚇する中国の軍事演習が実施されたが、中国が同時に行った非軍事面での「攻撃」にも注目すべきだ。軍事力と非軍事的手段を複合的に組み合わせた「ハイブリッド戦」への備えを我が国も加速させる必要がある。 まず2日夜、中国国営メディアは「人民解放軍空軍のSu35が台湾海峡を横断した」と報じた。こ...
異なる中露の戦略的意図 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月29日、ロシア国防省は8月末から9月初めにかけて極東地域で大規模な軍事演習を行うと発表した、NHKはその分析として「ウクライナへの軍事侵攻を続ける中、大規模な軍事演習を行うことで、十分な兵力があるとアピールする狙いがある」と報じている。同日の産経新聞は一面トップで「津軽海峡高まる緊張」とし、サブタイトルを「進む中露連携」とした。しかし筆者の見解は多少異なる。 高まるオホーツク海の戦略的意...
日本人は過去の歴史に誇りを 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
7月13日に東京で行われた国基研日本研究賞関連行事で、受賞者エヴァ・パワシュ=ルトコフスカ博士(ポーランド)の日本・ポーランド関係史に関する講演を拝聴した。講演では戦前におけるポーランド軍と旧日本軍の諜報協力について話があったが、2000年代初めのイラク復興支援におけるポーランド軍と自衛隊の協力関係については触れられなかったので、当時、防衛庁情報本部長であった筆者の体験を紹介したい。 「武装...
交戦せず台湾侵攻抑止できる機雷 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
ロシア海軍が黒海に敷設した機雷による海上封鎖により、ウクライナの穀物輸出ができなくなり、それによって引き起こされた世界的な食糧危機がロシア側の〝武器〟として使われている。 機雷は日露戦争の時代から使用され、日本海軍は機雷により、ロシア太平洋艦隊旗艦ペトロパブロフスクを撃沈し、座乗していた司令官で当時屈指の名将とされたマカロフ中将が死亡した。逆にロシアが敷設した機雷により、日本海軍も当時、保有...
世論から周回遅れの与党安保政策 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
6月22日公示される参議院選挙に向け、各党の公約が出揃ったが、政権与党の安全保障に関する公約を見てみると、国民世論の動向よりも周回遅れのような気がする。岸田文雄総理大臣は16日、テレビ朝日の番組で「核共有」に関して慎重な姿勢を示すとともに、先月のNHK番組でも歴代政府の防衛政策である「専守防衛」を見直す考えがないことを改めて示したが、これも国民世論の動向からはかけ離れている。 「専守防衛見直...
【第932回】メア氏の提案に賛成する
国基研評議員兼企画委員 太田文雄 ケビン・メア元米国務省日本部長が自衛隊の国産ミサイル「12式地対艦誘導弾」をロシアに侵略されたウクライナに供与するよう提案した。軍事的見地からと国際的な責務という観点から賛成したい。 6月半ば、ウクライナは英国とデンマークから供与されたばかりの米国製の対艦ミサイル、ハープーンで黒海のロシア海軍タグボートを破壊したと発表。米政府もウクライ...
敵を欺く露中の「認知戦」 太田文雄(元防衛庁情報本部長)
ロシアのウクライナ侵略や、最近の中国の海洋進出に関して「認知戦」と言う新しい概念が出回っている。認知戦とは、偽情報により相手の認知を誤った方向に導き、判断を狂わせる戦いの手法であるが、別に目新しい概念ではない。 2500年前の孫子の時代に、すでに「兵は詭道(騙す事)なり」として、その実例を「能なるもこれに不能を示し (能力があっても能力がないふりをし)」「用なるもこれに不用を示し(用いている...