11月19日、イエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」は紅海で日本郵船が運行する自動車運搬船を拿捕した。また25日には、アラビア海でマルタ船籍の貨物船がイラン製無人機による自爆攻撃を受けたとの報道もあった。イスラエル・ハマス戦争が継続する限り、こうした事案が将来とも生起する可能性がある。アデン湾に海賊対処のために海上自衛隊は護衛艦や哨戒機を派遣しているが、2011年をピークとして海賊件数が減少しているので、この部隊を幅広く船舶の安全運航保護用に転用すべきではないかという議論が巻き起こる可能性がある。
迅速・柔軟に対処できない現行法
米海軍は既に、紅海、バブエルマンデブ海峡、アデン湾を担当海域とする海洋安全保障と能力構築を任務とした多国籍任務部隊(Combined Task Force=CTF)153を昨年立ち上げ、指揮官には米海軍のみならずエジプト海軍の将官も任じている。米国は日本に対しても、海賊対処だけでなく、海洋安全保障にも関与するよう要請をしている。
今回の複数の事案は金品目的の私的な海賊行為とは言えず、反イスラエルを政治目的としてヘリコプターで戦闘員を降下させたり自爆ドローンを使用したりしていることから、「海賊」対処法では無理があろう。しかし、海賊対処部隊をCTF153に参加させるには、物理的には即可能でも、法的に「船舶安全運航保護」のような目的で新たな特別措置法が必要となってくる。
これは、諸外国の軍隊がやっていけないことを規制するネガティブリストに依拠しているのに対し、自衛隊は生い立ちが「警察」予備隊であるため、やって良いことを規定するポジティブリストの警察的法体系に基づいているからだ。このため時宜を得た柔軟な事態対応ができない。
憲法に自衛隊を明記するだけで本問題は解決されないが、自衛隊の明記はネガティブリストへの転換の一歩になるのではないか。
また特措法必要に
現在、中東の海域では、米第5艦隊が主導するCTFが五つ存在する。CTF150は2001年の米同時多発テロ事件後に開始された「不朽の自由作戦」に伴って創設され、日本も同年10月に成立した「テロ対策特別措置法」に基づいて参加したが、活動は給油のみに限られ、かつ2年間の時限立法で民主党政権が2007年に中止した。
CTF151は、それまでCTF150が担当していたソマリア沖での海賊対処に特化して編成された部隊で2009年に設立された。海上交通路を同海域に依存する日本も参加すべきだったが、根拠法規がなかったため、自衛隊法82条に基づく海上保安庁の能力を越える任務として海上における警備行動を発動して海上自衛隊を派遣した。「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」(海賊対処法)の成立後は、2015年から2020年まで連続して4名の指揮官を輩出して、現在も活動中である。
CTF152は2004年に創設されたペルシャ湾北方海域の海洋安全保障を担当する部隊で、日本は当初から参加していない。CTF154は訓練を目的とした部隊である。
憲法学者の大勢が「自衛隊違憲」
11月21日深夜に北朝鮮は軍事偵察衛星を打ち上げ、沖縄本島と宮古島間の上空を通過させた。破壊措置命令を履行するため海上自衛隊はイージス艦を、航空自衛隊はPAC3対空ミサイルを展開した。
また11月6日の読売新聞オンラインは「中露艦の航行活発化で護衛艦不足、ほぼ丸腰の補給艦や多目的支援艦も投入…監視能力の底上げ急務」と報じた。
海賊対処のためアデン湾に派遣されている海自に加え、常態化している警戒監視活動等、自衛隊の現場は火の車だが、その存在自体に対し、憲法学者の6〜7割が違憲としており、自衛隊はしかるべき社会的地位を与えられていない。こうした憲法を放置しておいて良いのか。(了)