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2023.11.20 (月) 印刷する

対中情報戦と主権防衛で後れを取る日本 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

11月18日にオーストラリアのマールズ副首相兼国防相は、日本の排他的経済水域(EEZ)内で潜水作業をしていた豪海軍フリゲート艦に中国駆逐艦が14日にアクティブソナー(音波探知機)を作動させ、潜水員の耳を負傷させる危険な行為をしたと公表した。

これより先、フィリピン政府は9月26日、フィリピン漁船の漁を妨害するため中国の海警や海上民兵によって設置された障害物を沿岸警備隊が撤去したとして、その画像を公開した。

対照的に我が国政府は、尖閣諸島北西約80キロの日本のEEZ内に中国が設置した直径、高さ共に約10メートルもある巨大ブイを7月に発見したにもかかわらず、公表したのは2カ月後の9月であった。東シナ海の日本のEEZ内へのブイ設置は今回が初めてでなく、2013年と2018年にも行われている。豪比の上記2件の対応と比べ、明らかに対中情報戦で後れを取っている。

ブイの目的は潜水艦の動向探知か

中国が巨大ブイを設置した海域は、台湾に侵攻する中国艦船を仮に我が国潜水艦が攻撃するとすれば、その潜水艦の進路に当たる。そのためブイ設置の目的は、我が国潜水艦の動向をソナーで探知して、その情報を東部戦区司令部に送ることにあるのではなかろうか。また尖閣諸島が中国領であると主張するための既成事実を積み重ねる狙いも当然あるだろう。

12日に放映されたフジテレビの「日曜報道ザ・プライム」でレギュラーコメンテーターの橋下徹氏は「日本も中国のEEZにブイを設置したら良い」と主張していたが、明確な目的なくしてやみくもにブイを設置しても全く意味がない。

今月1日の参院予算委員会で、日本維新の会の東徹議員がブイを実力で撤去すべきだと主張したのに対し、上川陽子外相は、国際法に関連規定がないとして慎重姿勢を示した。

しかし、国連海洋法条約第246条3項では、EEZ内で外国は海洋の科学的調査しか実施できないことになっており、また同条2項は沿岸国への事前申請を制度化している。上川外相はブイの強制撤去をしない理由を探しているとしか思えない。中国は事前申請海域外での海洋調査活動、あるいは事前申請がない活動を、筆者が情報本部長の時代から年間二桁も行っている。

本年2月には米国が領空に侵入した中国の偵察気球を撃墜して調査した。同様に我が国もブイを撤収して、中国が何をしようとしていたのかを白日の下に晒すべきだ。

中小国を見習え

2012年には南太平洋の小国パラオの漁業監視船が、自国の領海内で不法操業をしていた中国漁船に警告発砲し、中国人1人を死亡させ、5人を拘束している。

2016年にはインドネシアのスシ海洋・水産相が、自国領ナトゥナ諸島沖のEEZ内での不法操業で拿捕した中国漁船を海上爆破している。

まともに戦えば勝てないにもかかわらず主権を守ろうとするこれら諸国に比較して、我が国政府は「毅然として」対処すると口では言いながら、鈍感すぎる。16日のサンフランシスコにおける日中首脳会談で、岸田文雄首相は習近平中国国家主席に日本のEEZ内に設置されたブイの即時撤去を求めたとされるが、要請されて素直に従う相手ではないことは、これまでの中国の行動パターンから明らかだ。「撤去しなければ実力で撤去する」と踏み込んだ発言をしなければ、中国は動かないであろう。(了)