11月11日の産経新聞は、先月バルト海で起きた天然ガスパイプラインと通信ケーブルの破壊に「中国船が関与か」「意図的の疑いも」と報じた。本年2月に台湾と離島の馬祖列島間を結ぶ通信用の海底ケーブルが切断されたことは10月10日の「ろんだん」で「誰が海底ケーブルを防護するのか」と題して記述したが、我が国の徳之島でも、今年1月に海底ケーブルが断線したことによりインターネット接続、電子決済ができなくなるという大規模な障害が生起している。
しかるに本年4月に閣議決定された「海洋基本計画」には海底ケーブルや陸上局の安全対策担当省庁が、警察庁、総務省、国土交通省の3省庁だけしか記載されていない(36ページ)。この3省庁のどこも水面下のセンサーを保有していない。諸外国では海底戦(Seabed Warfare)に努力を傾注しているのに、何と能天気な脅威認識だろうか。
米海大主催の机上演習に招かれず
本年、英海軍は通信ケーブルを含む重要な海底インフラを防護する任務を帯びた多目的海洋船を就役させた。米海軍では2000年から海底ケーブル防護室(Naval Sea Floor Cable Protection Office)が設けられ、米海軍大学では海底重要インフラ防護の机上演習が行われているが、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドといった機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」のメンバーに加え、フランスやシンガポールも参加しているのに、我が国は招かれていない。担当が警察庁、総務省、国土交通省という脅威認識の低さからすれば当然かもしれない。
上記のうちフランスは、通信ケーブルを含む重要海底インフラ防護を国家戦略目的と見なす「海底戦のための国家戦略」を国防省が昨年策定した。そして北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)は本年、海底通信ケーブルを含む重要インフラ復旧を専門とする合同タスクフォースを創設した。
海中無人機の開発を進める中露朝
中国人民解放軍70周年にあたる2019年には、無人潜水艇のHSU001が軍事パレードに登場した。米国防総省が先月公表した中国軍事力に関する年次報告書にも「人民解放軍の特殊作戦部隊が水中に人員を配するシステムを保有している」と記載されている。
また米海軍協会の月刊誌プロシーディングズ10月号は「ロシア海軍が最近就役させた原子力潜水艦ベルゴロドには、世界の電気通信循環や重要エネルギーパイプラインといった海底インフラを脅かす水中システム能力がある」と書いている。
さらに2021年に米国防情報局が出版した「北朝鮮の軍事力」報告書にも、北朝鮮の偵察総局が水中潜水能力を保有していることが記されている。
国土交通省は海上保安庁も所掌している。国家基本問題研究所の織田邦男企画委員(元空将)によれば、航空幕僚監部の防衛力整備担当であった際、航空自衛隊の予算で海保の巡視船に対空レーダーを装備することを提案したが、海保は軍機能不保持を定めた海保法25条を盾に承諾しなかったという(国基研「政軍関係」研究会編『「政軍関係」研究』並木書房、2023年、95~96ページ)。同様に海上自衛隊が水中センサーの提供を海保に申し出ても25条を盾に断るであろう。水中センサーを保有している海上自衛隊・防衛省を海底インフラ防護の担当省庁から外して良い理由は一つもない。(了)