公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.11.06 (月) 印刷する

台湾軍と自衛隊の直接交流を 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

岸田文雄首相は11月3日、フィリピンのマルコス大統領との首脳会談に臨み、4日にはフィリピン議会で演説して「自由と法の支配を守り抜く」との決意を示した。5日にはマレーシアでアンワル首相と首脳会談を行い、自衛隊とマレーシア軍、海上保安機関間の共同訓練など海洋分野の協力強化で一致したと報じられている。日本から台湾、フィリピン、マレーシアに連なる第一列島線の防御を強化するための外交と評価される。また10日から20日まで米豪加海軍と共にフィリピン海軍と海上自衛隊が過去最大の共同訓練を行う。

しかし、第一列島線の要に位置する台湾とは外交関係がないため、陸上自衛隊を将補で退官した元自衛官と文官が台湾に常駐しているだけで、台湾軍と自衛隊の直接交流がなされていない。

自衛官の命が同士討ちで失われる

中国が台湾に侵攻した場合、台湾軍は中国の人民解放軍と戦うであろう。「台湾有事は日本有事」であるから、自衛隊も人民解放軍と干戈かんかを交える可能性が極めて高い。にもかかわらず台湾軍と自衛隊は、全く交流できていないので、戦場で互いに相手を敵と誤認して同士討ちに至り、貴重な戦闘機、艦船、そして自衛官の命が失われる可能性が高い。

「日本と台湾の間には外交関係がないから台湾軍と自衛隊の直接交流はできない」と日本の外交当局は答えるであろう。しかし、同じく正式な外交関係を持たない米国の軍人が多数台湾に駐在して台湾軍と直接連絡を取り合っている。「台湾と米国との間には台湾関係法があるが、日本にはそれに相当する法律が存在しない」と外交当局は答えるかもしれない。しかし台湾との外交関係も関係法もない国々が台湾に現役の軍人を駐在させている。

1965年からシンガポールの現役軍人が台湾に派遣され、台湾にあるシンガポールの交流窓口機関に常駐している。台湾の将校もシンガポールに派遣されている。シンガポールの初代海軍司令官である邱永安、また初代空軍司令官の劉景泉は台湾出身のマレーシア華僑である。

韓国軍も陸海空軍の佐官を台湾に常駐させている。また台湾軍の武官も各国に派遣されており、日本にも派遣されているが制服で勤務できていない。
 

米軍の空港・港湾使用も未決着

米国とフィリピンは本年2月の国防相会談で、米軍がフィリピンで使用できる軍事拠点を4カ所増やして9カ所とすることで合意した。台湾有事の際、米軍が台湾周辺に展開する兵力は湾岸戦争時とほぼ同じレベルであろう。湾岸戦争ではサウジアラビアが米軍の拠点となることを受け入れた。台湾有事の際、同レベルの米軍を受け入れることができるのは、オーストラリアや韓国は遠いので、フィリピンと日本以外にない。

米軍には、時間の経過に従って兵力や後方支援物資を戦場に送り込む計画(Time-Phased Force Deployment Data=TPFDD)がある。1997年の「日米防衛協力のための指針」後、統合幕僚監部で後方支援を担当する第四幕僚室長に任じた筆者は、朝鮮半島有事の際のTPFDDに接したことがあるが、おびただしい数の日本の空港・港湾を米軍が使用したいと希望していることを認識している。台湾有事では米軍の希望数は朝鮮半島有事以上になるであろう。戦場は主として南西諸島であるので、沖縄県が主体となり、担当官庁は空港・港湾を所掌する国土交通省で、その歴代の大臣は公明党出身者だ。沖縄県と国交省の両方が親中では事が進捗しない。(了)