公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.10.23 (月) 印刷する

政府認定者だけが拉致被害者ではない 荒木信子(韓国研究者)

21日、東京都庁前の都民広場で「『お帰り』と言うために〜拉致被害者・特定失踪者家族の集い〜」(主催=特定失踪者問題調査会、後援=東京都・特定失踪者家族会)が開かれた。

集会の主要部分は、政府認定拉致被害者と特定失踪者の家族の訴えだった。39名の被害者と失踪者の家族約50名がスピーチをした。被害者、失踪者は写真の中で時が止まったように若いが、その親の世代はもう上京が難しく、きょうだいも高齢化している。会えないまま50年、60年と時が経過しているケースも少なくない。

特定失踪者とは

特定失踪者とは、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない人々である。現在、特定失踪者問題調査会では約470人を把握している。発生時期は1948年から2000年以降にも及び、失踪場所は日本海の海辺に限らず、離島含め全国各地、中には海外のケースもある。

失踪者の性別、年齢、職業、学歴、失踪時期など様々な視点から全体を俯瞰すると、いくつかの傾向が窺え、拉致した側の何らかの意図が推測されるケースもある。

特定失踪者の中には、まれであるが自発的な失踪や、犯罪に巻き込まれていたケースが過去に確認されている。その一方で、特定失踪者のうち5名は「拉致確実」、77名は「拉致濃厚」と判断されている。これは寄せられたケースについて可能な限り情報収集をし、精査・検討した結果、判断を下したものである。加えて全国各地、海上に至るまで失踪現場へ調査会と家族、支援者たちが赴き、現地調査も行っている。

政府認定被害者との違いは、まさに日本政府が認定しているかどうかだけである。

深刻さをもっと受け止めて

確かに政府に認定されれば本人が直ちに帰国できるわけではないが、政府は特定失踪者を無視と言ったら言い過ぎなら、軽視している。NHKの報道でも拉致被害者が政府認定の17人だけのように聞こえる。

政府は「全ての拉致被害者の帰国」と言うが、全てとは誰を指しているのか定かでない。拉致被害者は何人いるのか分からない。それが実情なのである。

拉致の発生は先述したように政府認定の事案が集中する1970年代に限らない。北朝鮮に在住していることが確認されている寺越武志さんが拉致されたのは1963年であった。他にも 1970年代以前の事案が多数存在する。

また、海岸近くや海上で連れて行かれたケースばかりでなく、事前に周到な準備を行って、その人の悩みや弱み、あるいは夢などを把握した上で言葉巧みに誘い出すといった手口もある。むしろ計画性を持ったケースが多いようだ。このことは日本国内で活動する工作員や協力者の存在を意味する。

これほど長期間、広範囲にわたり北朝鮮の非合法活動を許し続けてきたことは、安全保障を軽んじてきた戦後日本の在り方に関わる深刻な問題である。拉致問題を矮小化してはならない。今回、拉致被害者や特定失踪者自身も、家族も、そして支援者までもが高齢化する中、集会を開かねばならなかった背景がまさにそこにある。

集会の動画が以下のURLに後日アップされる予定である。
https://www.youtube.com/channel/UCECjVKicFLLut5-qCvIna9A/videos