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2024.05.13 (月) 印刷する

ドローン侵入で露呈した国内体制の欠陥 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

海上自衛隊の護衛艦「いずも」をドローンで空撮した動画が中国のサイトに投稿されたことが問題となっている。本件に関してはドローンの「いずも」上空への侵入を許した防衛省・自衛隊に非難の声が上がっているが、見落とされている重要な我が国国防上の欠陥がある。それは、侵入したドローンに妨害電波をかけようにも、さらには自衛隊が運用するドローンを管制しようにも、自衛隊への電波割り当てが限られていることだ。

電波の割り当ては総務省が管理

日本も批准した国際電気通信連合憲章・条約では、軍事無線設備の完全な自由は担保されている。これが世界の常識だが、日本ではそれがなされていない。ロシア、中国、北朝鮮といった権威主義国家は言うに及ばず、西側諸国も電磁波帯の割り当てにあたっては軍事利用が優先され、かつ緊急時の優先利用規定があるのに対し、我が国では軍事軽視の現憲法の下、電磁波の管理は総務大臣が行っている。これがドローン問題の根幹だ。

米国防総省は2013年、電磁波スペクトラム戦略を策定し、周波数割り当ては連邦通信委員会と商務省電気通信情報局に権限があるが、軍事利用が優先されている。また、1934年に制定された通信法には連邦政府のユーザーに緊急時の優先利用を認める規定がある。

今回、仮に侵入ドローンを管制するのに使用されている周波数帯が探知でき、それに対して妨害をかけようとしても、当該電波帯が総務省から自衛隊に割り当てられている周波数帯でなければ、妨害はかけられない。

また、現在、自衛隊も多くのドローンを使用しているが、それらを管制する電波帯の許認可・監督も総務省が行っており、自衛隊に優先的な周波数の割り当てはなされていない。通常1カ月以内で認められる電波使用許可に3カ月もかかったり、新規の電波がなかなか割り当てられなかったりして、ドローンの管制訓練もままならないという不満が現役自衛官から聞こえてくる。訓練が十分にできなければ、有事に有効なドローンの管制ができないのは当たり前だ。

近代戦から取り残される自衛隊

有事に防衛省が電波を優先的に使用できる権利を持っていることは「武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律」で定められているが、具体的な手順は未だ煮詰まっていない。ましてや平時やグレーゾーンにおける自衛隊の優先的な電波の使用が認められていない中で起こったのが今回の事案だ。平素、武力攻撃事態に備える訓練ができていなければ、有事の際に効果的なドローンの運用はできない。

諸外国並みに、軍(自衛隊)に周波数の割り当てがなされなければ、近代戦に必須なドローンが有効に使用できず、自衛隊だけが近代戦から取り残されることになる。ドローンやサイバーといった現代戦の様相に、法体系を含む国内体制が追いついていないことが、今回の問題の本質だ。(了)