減反は巨額の補助金を農家に出してコメの供給を減らし、米価を上げる政策だ。水田の4割を減反して1000万トン可能な生産量を650万トン程度に抑えている。減反をやめて350万トン輸出していれば、輸出量を若干少なくするだけで国内のコメ不足は生じなかった。
1993年の平成のコメ騒動の時も、生産可能な1400万トンを減反で1000万トンに減らしていた。それが冷夏で生産量は750万トン程度に減少した。しかし、通常年に1400万トン生産して400万トン輸出していれば、冷夏でも1000万トンの生産・消費は可能だった。
平成のコメ騒動の時は260万トンのコメをタイや中国から輸入した。1500万トンしかない世界のコメ市場で日本が大量のコメを輸入したため、国際価格は2倍に高騰した。これは貧しい途上国の人々を苦しめた。その一方、日本国内では、日本人の口に合わない輸入米は大量に廃棄された。
亡国の生産抑制策
減反は生産を抑える政策なので、コメの面積当たり収量(単収)を増加させる品種改良はタブーになった。今では、減反開始時に日本と同じ水準だったカリフォルニアのコメ単収は、日本の1.6倍になっている。1960年頃は日本の半分しかなかった中国に追い抜かれた。
水田面積全てにカリフォルニア米ほどの単収のコメを作付けすれば、長期的には1700万~1900万トンのコメを生産することができる。短期でも、1000万トン程度のコメは生産できる。国内だけでこれを消費しようとすると、米価は暴落する。このため50年以上にわたる減反政策でコメ生産を減少させ、米価を維持してきた。
しかし、輸入が途絶する食料危機の時には、現在のコメ供給量では日本人は余命半年しかない。戦前の農林省の減反案を潰したのは陸軍省だ。減反は安全保障と相容れない亡国の政策だ。
減反やめれば三方よし
国内産のコメ供給を増やして米価を下げようとするなら、減反を廃止して生産量を増やせばよい。3500億円の減反補助金という納税者の負担はなくなり、消費者はコメ価格の大幅な低下というメリットを享受する。
米価が下がるので零細な農家はコメ作りをやめて農地を貸し出す。主業農家に限って直接支払いをすれば、その地代負担能力が上がって農地は主業農家に集積する。規模が拡大してコストが下がり収益が上がるので、農地の出し手に払う地代も上昇する。兼業農家はサラリーマン収入で生活しているので、直接支払いをする必要はない。直接支払いに必要な負担は1500億円で済む。農村にいる全ての関係者が利益を受ける。
輸出は平時の備蓄
日本のコメの輸出が増えている。今ではカリフォルニア米との価格差はほとんどなくなり、日本米の方が安くなる時も生じている。減反を廃止すれば価格はさらに低下し、輸出は増える。
収量の高い品種を作付けすれば、700万トンの生産は1700万トンに拡大し、1000万トンは輸出される。シーレーン(海上交通路)が破壊され輸入が途絶される時は、輸出していたコメを国内で食べれば戦中戦後のコメの配給量は確保でき、飢餓を免れる。
平時の輸出1000万トンは無償の備蓄の役割を果たす。毎年500億円かけている備蓄米の財政負担は消滅する。そもそも、現在の100万トンの備蓄では危機の際に役立たない。中国の備蓄量はコメ1億トン、小麦1億4000万トンである。
求められる政治決断
しかし、なかなか減反は廃止できない。減反はJA農協発展の基礎だからである。米価を高く支えたので、コストの高い零細な兼業農家が滞留した。彼らは農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。
規模拡大による構造改革をすれば農村は所得が向上するが、農家戸数が減少するので農協は政治的にも基盤を失う。こうしてJA農協は構造改革に反対してきた。これを、どのように突破するのか。後は政治の決断だ。
今年は輸入拡大でしのげ
しかし、減反廃止が決定されても、既に今年産のコメの作付けは終わっている。減反廃止の効果は来年の秋まで待たなければならない。今年、コメの値段を下げるために供給を増やそうとすれば、輸入の増加しかない。
そのための一つの方法は、ミニマムアクセス米77万トンのうち主食用米10万トンの輸入枠を30万トンなどと拡大することである。あるいは1キログラム当たり341円の関税を半分程度に引き下げることである。
恒久的に関税を引き下げるとすれば、JA農協や自民党農林族議員は強硬に反対するだろう。したがって、この措置は来年9月までの暫定的な措置とすればよい。輸入自体に反対するかもしれないが、平成のコメ騒動の時、JA農協や自民党農林族議員はコメ輸入に反対したのだろうか。(了)