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2024.05.20 (月) 印刷する

北の核攻撃訓練への危機感が薄い 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)

5月13日の「今週の直言」(核の威嚇に動じない抑止戦略の構築を)で、織田邦男元空将は、ロシアによる新たな核の威嚇に対して米国防総省、北大西洋条約機構(NATO)、ウクライナ国防省が一斉に非難の声を上げたことを紹介した。そして、わが国も周辺国から核の脅威を受けているのだから、抑止戦略を構築せよと論じた。その意見に全面的に賛成する。

しかし筆者には、強い疑問を感じていることがある。ロシアが戦術核攻撃の訓練の準備開始を発表しただけで、攻撃を受ける側は強い反発を示した。ところが、北朝鮮は2年前からわが国を目標の一つとする戦術核攻撃訓練を実際に行っている。それなのに、日本の危機感は薄いのだ。

日本の基地や港湾も標的

北朝鮮は2022年に7回、2023年に4回、今年に入り1回、戦術核攻撃訓練を公然と実施している。

まず、2022年9月25日から10月9日にかけて弾道ミサイルを7回発射し、模擬核弾頭を搭載した「戦術核運用部隊」の軍事訓練だと公表した。これが最初の戦術核攻撃訓練であり、戦術核運用部隊はこのとき初めて存在が明らかになった。その後、繰り返し行われる戦術核攻撃訓練のほとんどを同部隊が行ってきた。

ここで注目すべきは、公開された攻撃目標だ。9月28日は「南朝鮮作戦地帯内の各飛行場」とされ、韓国の飛行場が核攻撃目標だと明示されたが、10月6日は「敵の主要軍事指揮施設」、10月9日は「敵の主要港湾」とわざわざ言い換えている。だから、核攻撃目標に日本やグアムにある米軍基地と自衛隊基地、日本の港湾も含まれると言っているのだ。

2023年には、3月18~19日に「戦術核運用部隊の核反撃仮想総合戦術訓練」、3月21〜23日に核無人水中攻撃艇「ヘイル(津波)」の実験と「各戦略巡航ミサイル部隊を戦術核攻撃任務遂行の手順と工程に熟練させるための発射訓練」、8月30日に「『大韓民国』軍事ゴロの重要指揮拠点と作戦飛行場を焦土化することを想定した戦術核打撃訓練」、9月2日に「長距離戦略巡航ミサイル2基による戦術核攻撃想定発射訓練」をそれぞれ実施した。2024年4月22日には「600ミリ超大型ロケット砲兵区分隊の核反撃想定総合戦術訓練」を行った。

国の安全への不感症

令和3(2021)年の日本の防衛白書は北朝鮮の核攻撃能力に関して「核兵器の小型化・弾頭化を実現し、これを弾道ミサイルに搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられる」と明記している。その北朝鮮がわが国を攻撃目標とする戦術核攻撃訓練を公然と繰り返しているのだ。

ところが、それに対してわが国政府、国会が強い非難の声を上げない。マスコミ、専門家も傍観者的に北朝鮮の動きを伝えるだけで、わが国が北朝鮮の核攻撃の目標とされているという恐るべき事実に触れず、核抑止力構築への議論をしない。この自国の安全への不感症に強い恐怖を感じる。(了)