中国とロシアの独裁政権は、米国主導の秩序解体を視野に「包括的戦略的連携パートナーシップ」の深化を掲げた。それは単に、中国がロシアのウクライナ侵略戦争を後押しするだけでなく、ウクライナ戦争が反米枢軸の強化を目指す戦争であることを意味している。
「共通の敵」へ連携
プーチン・ロシア大統領の訪中は、ウクライナ侵略後で3度目の対面による首脳会談となった。昨春のモスクワでの会談は、プーチン氏が戦争犯罪容疑で国際刑事裁判所から逮捕状を出された直後だった。今回の首脳会談では、ウクライナ侵略が3年目に入ってもなお、中露の連携が「共通の敵」と闘うために不可欠であるとの認識を持続している。
首脳会談後の共同声明は、中露関係が史上最高の状態であることを強調し、「協力」という言葉を130回以上繰り返している(環球時報社説)。ウクライナ侵略については「対話による解決が必要」と建前を書き込みながら、同時に「合同演習を含む軍事分野の協力拡大」という地政学的現実を挙げている。それは習近平国家主席が戦争犯罪者であるプーチン氏を国賓として遇することに現れており、国際規範を無視して力による秩序再編を目指すことを暗示している。
ブリンケン米国務長官が述べたように、ロシアは中国の支援なしにウクライナ侵略を続けることも経済制裁に耐えることも難しい。中国は兵器製造に欠かせない電子機器、半導体、ドローン、工作機械に至るまで、ロシアの国防産業を支える部品を提供している。米戦略国際問題研究所は、習主席による2023年3月のモスクワ訪問から対露支援を加速させたとみている。
中国が欲しい露の先端軍事技術
他方で、経済が減速している中国は、国内需要が振るわず、対米欧輸出に頼らざるを得ない事情がある。昨年のように対露貿易が急増しても、対米貿易額の半分にも満たないし、対欧州連合(EU)貿易は対露貿易の3倍以上にもなる。
習氏が全面的なプーチン支援に突っ込めば、米欧の反発を受けて対米、対EU貿易を犠牲にしてしまいかねない。従って、中国は米欧と直接的な衝突を避けて、表向きはウクライナとロシア間を取り持つ「善意の仲介者」として振る舞う。一方、裏では中国は行き先を失ったロシアのエネルギーを輸入して恩を売り、見返りに強力な軍事技術を吸い取れるだけ吸い取る腹積もりだろう。
中国は、最先端軍事技術の獲得利益は米欧から受ける経済的なペナルティーによるマイナスを上回ると判断しているようだ。ウクライナ侵略戦争が長引けば、ロシアの対中依存度が高まり、見返りとなる最先端兵器技術の獲得がしやすくなる。武力行使が剥き出しのロシアを従えれば、対米交渉力も高くなるはずだ。
しかも、米国の関心を欧州に集中させてインド太平洋に注ぐべき力を削ぐことができる。中国は間違いなく現状の国際環境を喜んでおり、北朝鮮、イランにとっても「戦略的ボーナス」になるだろう。従って、ロシアによるウクライナ侵略戦争は、結果的に反米枢軸を強化する。
中国に代償を払わせよ
これに対して自由社会が取るべき行動は明らかだ。自らが結束して抑止効果を高め、中国の腹黒い意図を声高に非難しつつ、その代償をきっちり払わせることだ。米国による先端半導体の対中輸出規制と日本、オランダの協調行動はその一つだろう。
中国はいま、台湾を外交的に孤立させ、空と海で威嚇している。これに対し米国は、台湾への弾薬供給だけでなく、エネルギーの備蓄などを検討している。さらに、同盟国の日本、オーストラリア、フィリピンから1週間以内に到達できる軍事態勢の構築を進める。今日のウクライナは、明日の東アジアであることを肝に銘じて、抜かりのない対中抑止の強化を求めたい。(了)