5月20日、台湾の総統に民進党の頼清徳氏が就任しました。台湾では2000年以降、2期8年ごとに政権政党が交代しましたが、初めて同じ党が3期連続で政権の舵取りを行います。蔡英文前総統の後に続く頼政権でも、政策の継続に期待が高まっています。
頼氏とは、2016年の訪日時と、2021年に亡くなった安倍晋三元総理の弔問に見えた際にお話しさせていただきました。
特に21年の時は現職の副総統であり、1985年の李登輝副総統(当時)以来、最高位の台湾要人の訪日となった為、内外共にかなりハードルが高く、ご自身の強い希望により実現したと伺っております。私は父・岸信夫(当時防衛相)の秘書として事務的な手伝いをしていましたが、公的な訪問ではなく、私的な弔問としての整理をし、無事来訪していただく運びとなりました。
頼氏は安倍元総理への感謝と思いを述べられた後、厳しい国際環境下においても、台湾の国民の平和な暮らしを守るというお話をされ、現実に目を向けた強い決意とリーダーシップを感じました。
曽祖父・岸信介以来の縁
岸・安倍家と台湾との縁は、曾祖父・岸信介が1957年に総理外遊で訪台した時に蒋介石総統(当時)と面会したことから始まっています。以降も岸信介はたびたび台湾を訪れ、信頼関係を築いていきます。
当時、蒋介石の国民党は大陸回復を目指していて、結局は叶いませんでしたが、岸信介から蒋介石へ「台湾としての国連復帰」も打診していたと聞きます。
世代を経て、代々継続して繋がりを保ってまいりましたが、特に安倍晋三、岸信夫兄弟の世代では、兄の安倍晋三が閣内に入り台湾と直接関われない時は、弟の信夫が直接台湾に出向いてやり取りをし、信夫が閣内に入った時には、安倍晋三が台湾と直接関わりを持つというように、入れ替わって役割分担をし、二人三脚で台湾との関係を繋いでいました。私としても、今後しっかりと役割を果たしていきたいと考えております。
苦しい友人に手を差し伸べる
現在、台湾が置かれている状況は非常に厳しくなっています。
外交面では蔡英文前総統の任期中に、中国からの揺さぶりにより、2016年のサントメ・プリンシペに始まり、17年にパナマ、18年にドミニカ共和国とブルキナファソとエルサルバドル、19年にソロモン諸島とキリバス、21年にニカラグア、昨年はホンジュラス、今年はナウルの計10カ国と断交となり、国交がある国は12カ国まで減ってしまいました。
軍事面でも、中台のバランスは大きく中国側に傾きつつあり、中国は大規模な軍事演習で圧力を強めています。平和や民主主義など基本的な価値観を共有する友人・台湾が厳しい状況にある今こそ、日本は手を差し伸べるべきです。
残念ながら、日本は台湾との政府間外交が出来ない状況にあります。あらゆるチャネルを通じて連携を図っていく必要があると思います。
日華議員懇談会の活動の他、自民党としては青年局の若手が交流を担っていて、今後とも積極的に日台の交流を深めていきたいと考えています。
また地域や地方自治体の間でも交流を深めていくことは可能で、地元の山口県では台湾の台南市と観光や商業等の分野で友好交流の覚書を締結し、一層交流を盛んにしていく活動に取り組んでいて、父も積極的にこの活動に参画してきました。
さらに、台湾が直接外交の出来ない国々と日本が連携を深めていくことは、そうした国々に台湾へ目を向けていただく、台湾へ関心を持っていただくことにも繋がり、これも大切なことだと思います。
台湾有事は日本有事
台湾の有事は日本の有事です。台湾は沖縄県の与那国島から約110キロの距離に位置し、約2.5万人の多くの日本人が居住しています。有事の際には、在台湾日本人の保護を真っ先に考えなければなりません。
2022年のペロシ米下院議長の訪台時には、中国から日本の排他的経済水域へ向けてもミサイルが発射されています。台湾周辺の一時的な海上封鎖を明確に意図したものであり、世界に向けて、中国がその能力を有している脅威を知らしめました。
もともとエネルギー資源に乏しい日本は、輸入する石油の9割余りを中東に依存しており、そのほとんどがインド洋からマラッカ海峡を通り、南シナ海を経て、台湾海峡、バシー海峡を通過します。まさにこのシーレーン上で船舶の安全な航行が阻害されれば、中東からの石油の運搬に影響が出て、石油価格が一気に高騰する恐れがあり、国内各地で物資の値上げが起きる等、日本や地域経済に与えるダメージも計り知れません。
加えて、多くの農水産物も輸入に頼っていますが、食料自給率が4割を切る日本が、その供給網を寸断されれば、文字通りの「兵糧攻め」に遭うこととなり、国民が飢え、抗うことも出来ず、白旗を上げるほかありません。
台湾への関与を加速せよ
もし台湾海峡を守れなければ、日本のシーレーンも守れず、エネルギーや食糧など国の根幹を成す分野も守れず、日本は国民全員が危機的状況に陥ります。日本で暮らしていく限り、無関係な人は誰もいません。
一度有事が起きてしまえば、四方を海に囲まれた我々に逃げ場はありません。単に台湾との友好や気持ちに寄り添うという感情的な話ではなく、「台湾海峡は日本の生命線」として現実的に考えるべきなのです。
今、日本は防衛省の現役職員を台湾に常駐させる等、連携強化へ向け着実に動いていますが、こうした台湾へのコミットメントは分野を問わず加速させていかなければなりません。米軍は装備品の供給や訓練等を通じ、台湾への支援を強化していく旨の報道もあります。日本と米国は台湾海峡の情勢について、台湾の方々と同じ危機感を抱いています。台湾の方々には決して挫けることなく、日米を信じていただき、共に国際社会での歩みを進めて欲しいと考えています。(了)