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2023.12.21 (木) 印刷する

商船護衛不参加なら湾岸戦争の二の舞いに 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

イスラエルを訪れたオースチン米国防長官は12月18日、イエメンの親イラン民兵組織「フーシ派」による船舶攻撃が続いている紅海周辺で各国の商船を護衛する多国籍部隊を発足させ、護衛活動を「繁栄の守護者作戦」と命名した。米軍主導の海洋安全保障の枠組み「多国籍海洋部隊(Combined Maritime Forces=CMF)」の下で、紅海とアデン湾を活動海域とする「多国籍任務部隊(Combined Task Force=CTF)153」の参加国は米国、英国、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、バーレーン、ノルウェー、セーシェルの10カ国で、日本は日本郵船が運航する船が拿捕されたにもかかわらず、参加していない。

最近退官した日本の元外務官僚は「1991年の湾岸戦争で日本は130億ドルを拠出したのに評価されず、屈辱感を味わったが、ようやく安保3文書の改定で日本も軍事的に貢献できるようになった」と述懐したが、自国のシーレーン(海上交通路)の安全確保に自衛隊をすぐに出せない構図は30年前と変わっていない。

国益を議論しない政治家とメディア

フーシ派による度重なる船舶攻撃で、船舶運航会社は軒並み紅海を迂回してアフリカ南端の喜望峰経由に航路を変えており、それに伴うエネルギーや物資の価格高騰が予想される。ところが、日本の政治家は与野党を問わず自民党派閥の政治資金還流問題に関心を集中させ、メディアも大切な日本のシーレーンが脅かされているにもかかわらず、日本がどうすべきかについて議論しない。

19日に笹川平和財団主催のシンポジウム「信頼醸成と武力紛争抑止の柱としてのシーパワー」が実施された。会場からの最初の質問は「紅海での船舶防護について海上自衛隊の戦略は?」であったが、基調講演を行った海将の回答は「紅海は海賊対処部隊の活動範囲外」と述べるだけであった。海上幕僚長も記者会見で「紅海に部隊を派遣することは考えていない」と説明している。

海自を既に退官している筆者なら、次のように答える。

「自衛隊の成り立ちは警察予備隊であり、その法体系は諸外国の軍と異なり、やって良いことのみ記載するポジティブリストである。そのため、法律に記載されていない活動を勝手に行うことができず、臨機応変の対応を取れない。現行の海賊対処法では、2011年をピークとして海賊は減少しているにもかかわらず、紅海で船舶防護の任務に就くことはできず、新たな特別措置法が必要となる」

ソマリア沖のアデン湾で海賊が頻発した2009年、中国が現場海域に対処部隊を派遣することが分かって、当時の麻生太郎政権は、取り急ぎ自衛隊法82条の「海上保安庁の能力を超える場合の海上における警備行動」を根拠として海上自衛隊を派遣し、その後、泥縄的に海賊対処法を国会で成立させた。

同盟国を持たない中国は無力

サウジアラビアとイランの外交関係正常化を仲介した中国は、多国籍部隊を形成する同盟国を持たないし、米国が主導する部隊に参加していない。フーシ派に反撃すれば、その背後にいるイランと対立するので、船舶攻撃に有効な手を打てないのが現状だ。

ロシア・ウクライナ戦争では安価なエネルギーをロシアから購入して利益を得た中国だが、イスラエル・ハマス戦争では海上輸送路がスエズ運河を迂回することとなり、費用増加に直面している。(了)