公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2024.01.05 (金) 印刷する

日本は「安保ただ乗り者」になるな 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

新年早々、能登半島地震と、救済に向かう海上保安庁の航空機と日航機の衝突事故が起き、メディアは関連報道ばかりである。一方で、昨年12月23日にはインド洋で日本企業所有のタンカーが攻撃された。1月3日、米政府は日英など12カ国と共同声明を出し、各国商船への攻撃を続けるイエメンの親イラン武装勢力フーシ派に警告を発したが、声明で攻撃をやめる相手ではない。

12月23日のタンカー攻撃の後、インド海軍は、それまでのミサイル駆逐艦「コーチ」「コルカタ」とフリゲート艦「トリシューラ」の3隻に加え、ミサイル駆逐艦「モルムガオ」「チェンナイ」「ヴィシャーカパトナム」の3隻を派遣した。

自国のタンカーが攻撃されているのに、他国にその安全保障を委ねることは「安全保障ただ乗り者」(Security Free Rider)として国際社会から軽蔑される。

米は空母と巡航ミサイル潜水艦派遣

11月19日に日本郵船が運航する自動車運搬船が拿捕された紅海では、米海軍が空母「アイゼンハワー」を中心に約10隻から成る空母機動部隊を派遣するとともに、おそらくイランをにらんで、最大154発のトマホークを搭載した巡航ミサイル潜水艦「フロリダ」を近くの海域に派遣している。ちなみに日本では米軍主導の多国籍の海洋安全保障枠組みCombined Maritime Force(CMF)を連合海上部隊と訳しているが、CMFは海の上だけでなく潜水艦も保有していることから、海洋部隊と訳すべきであろう。また米国は、ペルシャ湾の海上安全保障のような脅威度が低い任務には沿岸警備隊のカッターを6隻も派遣しており、海上保安庁を「軍隊ではない」とする日本の対応とは好対照だ。

紅海には英海軍のミサイル駆逐艦「ダイヤモンド」とフランス海軍のフリゲート艦「ラングドック」もいる。米英仏3海軍は1月2日までに、フーシ派が発射した20発の対艦ミサイルのうち13発と、75機の無人機のうち63機を撃墜した。12月31日には米軍が、コンテナ船を攻撃したフーシ派の4隻の小型ボートのうち3隻を撃沈した。

なおイラン海軍は、紅海に情報収集艦「ベシャド」に加え、年明けからフリゲート艦「アルボルズ」と「ブシェル」を、インド洋には情報収集艦「サヴィズ」と「アーテノス」を派遣。中国海軍はアデン湾に駆逐艦「ウルムチ」とフルゲート艦「臨沂」、補給艦「東平湖」を展開している。

望まれる対空装備強化艦派遣と法整備

現在、ソマリア沖の海賊対処に派遣されている海上自衛隊のむらさめ型護衛艦「あけぼの」は、日本出港が昨年9月だった。パレスチナ自治区ガザのイスラム主義組織ハマスによるイスラエル攻撃前であったので、多様な任務をこなす汎用護衛艦が派遣されたが、今ほど対空脅威が増してくれば、来月に派遣される次の護衛艦は、より高度の対空能力を有するあきづき型護衛艦が望ましい。11月26日に弾道ミサイルが発射された際、最大速度で現場から離脱しなければならない艦を当海域で任務に当たらせてはなるまい。本来ならイージス艦が望ましいが、北朝鮮の金正恩総書記が2024年に偵察衛星を3基打ち上げると表明していることから、イージス艦の派遣は困難であろう。

目下の脅威は、国際法上「私的目的」と定義されている「海賊」ではなく、反イスラエルという政治目的に基づいた対艦ミサイルやドローンによる攻撃であることを踏まえれば、現行の海賊対処法では対応できず、新たに派遣の根拠となる国内法の制定が必要となってくる。(了)