スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟は、トルコのエルドアン大統領が容認に転じたことで実現する運びとなった。バルト海のゴットランド島がスウェーデン領であることから、ロシアの飛び地であるカリーニングラードに司令部を置くバルチック艦隊への監視能力が高まり、かつバルト海がNATOの「湖」になるとするメディアの論調が多い。しかし筆者は、こうした地理的な利点に加えて注目すべき3点を指摘したい。
断固たる国防意識
第一に、スウェーデンには断固たる国防意識がある。
筆者が防衛庁情報本部長であった2004年に、中国の原子力潜水艦が沖縄県の石垣島と宮古島の間の我が国領海を通過した際、自衛隊は現行法令下で対潜哨戒機から発音弾の投下しかできなかった。
しかし1982年にスウェーデン海軍は、ゴットランド島の北にあるムスケ島の領海で国籍不明の潜水艦を発見した際、2週間にわたって爆雷攻撃などを行って浮上させようとした。
また「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という国際調査に対し、「はい」の回答は日本が13.2%と群を抜いて最低であったのに対し、スウェーデンは65%で、調査対象の79カ国中、上から15番目であった。
世界最高レベルの軍事技術
第二に、スウェーデンは世界トップレベルの軍事技術を持つ。
スウェーデンは有数の武器輸出国である。国産戦闘機グリペンをはじめ、ステルス艦のヴィスビュー級コルベット、CV90歩兵戦闘車などを国産している。特にゴトランド級を主力とする潜水艦艦隊は世界屈指で、昨年10月に、ロシア産天然ガスを欧州に送るパイプライン「ノルドストリーム」の損傷が見つかった現場にも派遣された。
こうした軍事技術に着目して、日本からスウェーデンに派遣している防衛駐在官は、珍しく用兵(作戦・運用)職種ではなく技術職種である。
高い軍インテリジェンス能力
筆者が情報本部長の時、首都ストックホルムでスウェーデン軍のインテリジェンス機関「軍情報治安局」(MUST)と意見交換を行ったことがある。当時、MUSTのトップはシーレン海兵隊中将であったが、彼はその後、国軍司令官となる。国軍司令官になる人物を軍インテリジェンス組織のトップに据える人事は、スウェーデンが如何に軍のインテリジェンス組織を重要視しているかを物語っている。日本で、情報本部長が制服組トップの統合幕僚長になったことは過去になく、また将来もないであろう。
ウラル以西のロシア軍事情報を収集しているスウェーデンと、ロシアの東に位置する日本はインテリジェンスに関しては相互依存の関係にあり、ロシアに関する軍事情報を直接交換できればより高い分析が期待できる、とMUSTから情報本部に熱い働きかけがあった。
地理的位置に加えて、上記3点の強みを持つスウェーデンが中立国からNATO加盟国になることは、ロシアにとって極めて望ましくないことに違いないが、これもウクライナ侵略によってもたらされた結果である。
第411回 スウェーデンNATO加盟の軍事的な意味
トルコが中立国スウェーデンのNATO加盟を支持。その軍事的意味はバルト海でロシアの動きを監視するだけではない。国防意識の高さ、軍事技術の優秀性、情報能力が、西側に来るということ。