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2023.07.14 (金) 印刷する

ワグネル反乱が呼び込む中露枢軸の劣化 湯浅博(国基研企画委員兼研究員)

ロシアの軍事会社ワグネルがモスクワに反旗を翻した時、ロシアの「無制限」のパートナーである中国は、控えめな反応に終始した。予測不能なロシアに対しては、過去の経験から静観する方が妥当であるとの慎重な判断からだろう。ただ言えることは、習近平中国国家主席がプーチン・ロシア大統領を支える「賭け」のリスクが、これまでよりも高くなってきたということだ。

即座の反応を控えた中国指導部

クーデターへの早すぎた支持表明が対露外交の大きなつまずきとなったのは、ソ連崩壊の遠因となる政変の時であった。1991年8月、ソ連の高官グループがゴルバチョフ大統領を軟禁し、首都でクーデターを起こした。その時、在モスクワ中国大使はいち早く首謀者のヤナーエフ副大統領を訪問して、権力の掌握を祝福した。しかし、ソ連体制を復権させようとした「8月19日の政変」は、わずか2日で終わり、反逆者たちは拘束された。

中国にとって、ワグネルを率いるプリゴジン氏の反乱に安易に反応することがいかに危険であるかを示す苦い教訓である。従って、メディア規制が厳格なだけに事件直後、中国指導部が反乱をどう見ているかを知ることは困難であった。

中国指導部の大筋の考え方は、SNS(交流サイト)で削除されるまでのわずかな時間に垣間見ることはできた。中国当局に近いタカ派の政治評論家、胡錫進氏が「武装反乱により、ロシアの政治情勢は転換点を越えた」と書き込んでいた。しかも、胡氏は「結果がどうあれ、ロシアはもう反乱以前の国に戻ることはできない」と、悲観的な見通しにまで言及した。

反乱の短期終息に安堵

中国政府が「プリゴジンの乱」で沈黙を破ったのは翌25日夜遅くで、この事件を「ロシアの内政問題」として一蹴する短い声明でロシアを支持した。中国外務省の報道官はその声明で、「ロシアの友好隣国であり、新時代の包括的な戦略的調整パートナーとして、中国はロシアが国家の安定を維持し、発展と繁栄を達成できるよう支援する」と述べた。

米CNNが引用したオーストラリア国立大学の政治学者ウェンティ・ソン氏は、中国政府はプ華ーチン大統領の弱体化を懸念している可能性が高いと述べた。同氏は「中国はおそらくドミノ効果を恐れている。ロシアが崩壊すれば、次は中国になるかもしれない」と述べている。

反乱が24時間で終息すると、秦剛外相は25日、たまたま訪中していたロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官と会談している。秦外相が表明したのは「ロシアの安定維持への支持」であった。プーチン大統領と習近平国家主席が昨年の北京会談で「制限なしの協調」を宣言している以上、ロシアの反乱終息にほっとした空気が流れたことがうかがえる。

中華共産党機関紙、人民日報の姉妹紙である環球時報もまた、欧米メディアがプーチン支持の中国の「賭け」は間違いだったと報じたことを一蹴していた。

国内の引き締め強化へ

「プリゴジンの乱」からしばらくすると、北京の御用学者たちは、中国共産党が革命の当初からトップダウンの政治統制だったとして自信を取り戻してきたようだ。独裁者、毛沢東による「鉄砲から政権は生まれる」「党が軍を指導する」の格言を引いて、ロシアこそが中国に学ぶべきであると言いたげであった。

それらは中国共産党員が信じるに足る確信なのか、あるいは強がりの表明なのか。筆者には、その内実が後者であると思えてならない。中国人民共和国そのものがソ連の軍部管理を模倣しており、軍司令官と並行して共産党の政治委員を置くシステムにしている。それこそ党の強力な指導によって、頻繁に軍幹部を入れ替え、汚職体質をあばいて未然に反党行動の芽を摘んでいる。

プリゴジン氏の反乱を経てプーチン体制の弱体化が進んでも、ロシアが米国に対抗する伴走者である限り、北京がモスクワから離れることはない。中国はむしろ、国内でプーチン批判が習近平批判に置き換わらないよう政治的引き締めを強化し、対外的には、西側諸国がウクライナへの軍事支援に疲弊し、分断されることを切望していよう。

ロシアの劣勢と中国の衝撃は、明らかに中露枢軸の弱体化につながっていく。胡錫進氏が言う「政治情勢の転換点」を、西側はどう生かせるだろうか。(了)