公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

国基研ろんだん

2023.07.24 (月) 印刷する

中国が狙う自衛隊の分散 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

7月20日から4日間の日程で中露統合軍事演習「北方相互作用(Northern Interaction)2023」が日本海で実施された。今回の軍事演習は、これまでのように中露の軍艦が単に並行して航行するといったものではなく、二つの点で大きく進化していることが特徴である。一つ目は、日本海に面する基地を持たない中国人民解放軍が、ロシアのウラジオストク近郊にある航空基地にY20輸送機、KJ500早期警戒機、J16戦闘機、Z20ヘリコプターなどを発着させて、日本海への展開時間を短縮していることだ。二つ目は、中国海軍の駆逐艦「チチハル」に中露の統合司令部を設けて作戦の統一指揮を図っていることである。

ロシアとしては、ウクライナ戦争で中国の事実上の支援を得ている以上、極東にある自国の航空基地を人民解放軍に使わせ、かつ人民解放軍海軍艦の統合司令部に自国の司令部要員を派遣するといった譲歩をせざるを得なかったのであろう。軍事面でも、すでにロシアは中国のジュニアパートナーになり下がっており、今回の統合演習は、中国側のイニシアチブで動いていると見て良い。それでは一方の中国の狙いは何であろうか。

南西諸島への戦力集中を阻止

台湾有事で正面に立つのは、人民解放軍の東部戦区の兵力となる。南部戦区の兵力は、対米核抑止力である南シナ海展開の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)の防護に充てなければならない。西部戦区は、インドとの国境衝突や新疆ウイグル、チベット地区の動乱に備えて兵力を張り付けておかなければならない。

唯一友好国と接している北部戦区の兵力は、ロシアと協力して日本海に展開し、自衛隊の戦力を引き付けて、全てを南西諸島方面に展開できないようにする任務を帯びることになると考えられる。今回の統合軍事演習は、そのための訓練であろう。『孫子の兵法』謀攻篇第三で説くところの「則ちこれを分かち(敵軍を分散させ)」である。

これは今回の中露統合軍事演習に参加する人民解放軍海軍の駆逐艦「チチハル」と「貴陽」、フリゲート艦「棗荘」と「日照」そして大型補給艦「太湖」が全て北部戦区隷下の北海艦隊所属であることからも伺える。

従って、何をするか分からない中露統合艦隊に対して、自衛隊は日本海をはじめとして北方に兵力を張り付けておかなければならない。しかし、中露の意図を知ってか知らずか、最近気になる報道があった。

舞鶴・大湊の総監廃止は愚策

7月1日付の産経新聞は「海自の地方総監部再編、大湊、舞鶴の廃止検討」との見出しで、昨年末の安保3文書で「速やかに創設する」とした常設統合司令部の司令官新設に伴う財源確保のため、大湊(青森県むつ市)と舞鶴(京都府舞鶴市)の両地方総監の廃止案が浮上したと報じている。

しかし、日本の存立を守るために必要なポストは、単にスクラップ・アンド・ビルドといった発想ではなく純増させるべきではないか。例えば2014年に新設された国家安全保障局長のポストは、内閣官房副長官に次ぐ高位にもかかわらず、財源が乏しい中で新設されたのである。

昨今の中露軍事協力から、日本海や北方も手を抜けないことから、舞鶴や大湊の総監を廃止するような愚策はとるべきでない。(了)
 
 

関 連
国基研チャンネル

第416回 中国の狙いは自衛隊分散

中露が日本海で共同軍事演習。これまでの演習と違う点は①中露統合司令部を中国艦に設置②露ウラジオストクの航空基地を中国軍が利用。狙いは、台湾有事の自衛隊戦力分散にある。このような時期に大湊・舞鶴両総監部再編の報道あり。日本海の備えは大丈夫か。