公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.07.24 (月) 印刷する

進む印仏の軍事協力 近藤正規(国際基督教大学上級准教授)

インドとフランスの軍事協力が進んでいる。インドのモディ首相は7月14日、フランスの革命記念日パレードに主賓として招待され、同日マクロン仏大統領と首脳会談を行った。今年は「印仏戦略的パートナーシップ」の25周年に当たり、共同声明では、防衛・安全保障や経済、エネルギーなどの分野で協力を進めていくことへの相互認識が示された。併せて、印仏関係の今後25年間の将来を示す「ホライズン2047:印仏戦略パートナーシップの未来を描いて」も提示された。

戦闘機・潜水艦の追加購入で合意

ロシアのウクライナ侵攻後、インドではロシアからの兵器輸入が滞っており、6月のモディ首相の訪米でも、米国との軍事協力の強化が合意されていた。今回の訪仏で最も注目されていたのは防衛分野での連携強化で、具体的には戦闘機ラファール26機とスコルペヌ級潜水艦3隻の追加購入であった。2016年にインドは、ラファール36機をフランスから購入する契約を結んでおり、2020年には中国国境に就役させている。インド国内にある合弁工場でラファールの機体部品を製造する計画も進められている。また2005年には、インド海軍がスコルペヌ級潜水艦6隻の調達契約を結んでいて、その最後となる6隻目が2024年に就役するところまで進んでいる。フランスの技術支援を受けて、スコルペヌの建造もインド国内の造船所で行われている。

ただし、今回の首脳会談において、ラファールとスコルペヌの追加購入は正式発表には至っていない。その理由として、2016年にインドがラファール36機購入の契約をした際、ラファールの輸入代理店が、戦闘機のビジネス経験が皆無の実業家アニル・アンバニ氏に与えられたことに対し、野党から汚職ではないかと批判があった経験を踏まえ、それを蒸し返すような大型契約を来年春の総選挙前に正式発表しない方が得策だと、モディ首相が考えたのではないかという見方が多い。いずれにせよ、これから詳細がさらに詰められて、正式契約の発表に至るのではないかという見方が大半である。

インドが米国のF18戦闘機ではなく、フランスのラファールを選んだ理由としては、米国と違い、フランスはラファールにインドが核兵器を積むのを許したことが大きい。その結果、中国を睨んだインドの核戦闘力は大幅にアップした。

モディ訪仏では、技術協力の話も進んだ。米国だけでなくフランスとも、インドが戦闘機エンジンを共同開発するという計画である。それだけでなく、潜水艦もフランスから技術移転が進んでいる。そもそもインドの国産潜水艦の技術は、フランスの技術を基にしているところが大きい。ロシアと米国だけでなく、フランスからも軍事技術を学び、技術のいいところ取りをしたいインドの意図がこの辺りにも窺える。

対印武器輸出で仏が露を上回った年も

近年インドにとってフランスは、重要な武器供給国となっている。2016年にインドは1兆円近いラファール36機の購入契約を結んでいる。インドは2018年にロシアとS400防空システム5基を購入する契約も行っているが、2基がまだ搬入されていない。このため、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の武器移転データベースによると、2021年にインドの武器輸入先としてフランスがロシアを抜いてトップに立った。

そもそもフランスはインドにとって、米国より遥かに信頼できる国である。米国は 1971年の第3次印パ戦争でパキスタン側につき、1998年のインドの核実験ではインドに経済制裁を加え、2019年のカシミール再編とインドの市民権法改正を人権問題であるとして批判し、2021年のアフガニスタンからの米軍撤退も事前にインドに言わなかった。それと比べてフランスは、インドの核実験で表立った批判をせず、カシミール再編と市民権法改正でも他の多くの西側諸国と違い、沈黙を守った。

見劣りする日印軍事協力

ロシアに長期的な将来性がないことを悟ったに違いないインドが、米国以外にフランスからも兵器輸入を増やして調達先の多角化を進めていることは、日本にとっても好都合である。非同盟中立外交国インドを西側に少しでも近づけさせる役割を、インドが米国より信頼するフランスが担ってくれるからである。

それに加えて、米国だけでなくフランスの技術も導入してインドが軍事力を高めることは、対中抑止力の強化にも繋がる。

フランスがインドとの軍事協力をこのような形で進めているのと比べ、日米豪印4カ国の安全保障対話の枠組み「クアッド」に頼りがちの日本はどうしても見劣りがする。日本の救難飛行艇US2のインドへの輸出が実現していない理由の一つに、現地での合弁による生産に日本が前向きになれなかったことがある。フランスはこうした点において、遥かに積極的である。日本がインドとできる軍事協力の多様化がこれまで以上に求められている。(了)