公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2025.06.02 (月) 印刷する

情報は親中政治家によって歪められる 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

5月26日夕方「日本の最南端である沖ノ鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で、中国の海洋調査船が事前の同意を得ずに活動した」と報じられた。NHKは第3管区海上保安本部の発表として「中国の海洋調査船による沖ノ鳥島周辺のEEZでの事前の同意のない活動が確認されたのは2024年1月1日以来で、過去10年間で9件目」と伝えた。

しかし実際には、中国が沖ノ鳥島を「岩」だと主張し始めた今世紀初頭から中国の海洋調査船による沖ノ鳥島の排他的経済水域での調査活動は活発に行われており、それが報道されていなかっただけの話である。

首相に届かなかった中国情報

筆者が防衛庁(現防衛省)の情報本部長に任じていたのは2001年12月から2005年1月までであった。この間に中国の違反海洋調査が確認された件数は、2002年に1件、2003年に6件、そして2004年には22件に上った。2004年の22件のうち、沖の鳥島周辺が10件で、他のほとんどは南西諸島周辺であった。

違反には2通りある。中国が事前に申請した海域と異なる地点での活動と、事前申請のない活動である。2004年の沖ノ鳥島周辺10件のうち、事前申請のない活動が7件、事前申請と異なる活動が3件で、当時の中国海洋調査船は「向陽紅14号」や「東方紅2号」であった。

情報本部長は月に最低1回の首相への報告が定例化しており、筆者も当時の小泉純一郎首相に約40回報告したが、中国に関する機密情報が首相官邸に届くようになったのは2004年9月以降で、細田博之氏が官房長官になってからである。それまで中国の情報が官邸に届かなかったのは、親中派の福田康夫氏が官房長官として「北朝鮮だけ見ておけば良い」とし、それに忖度した防衛庁の飯原一樹防衛局長が中国に関する情報を官邸に報告させてくれなかったからである。

ちなみに現在の林芳正官房長官も、かつて日中友好議員連盟の会長であった親中派である。最近では、中国海警のヘリコプターが日本固有の領土である尖閣諸島上空の領空を侵犯した際、林長官、そして岩屋毅外相も、適切な対応をとったとは言い難い。

イラク派遣で不当な「文民統制」も

筆者が情報本部長時代に自衛隊のイラク派遣が始まった。当時の陸上幕僚監部は、必要な派遣隊員数を800人台と算出したが、その数字が政府の公表前にメディアに漏れたという理由で、福田官房長官は500人台にするよう防衛庁に命じた。軍事的合理性も何もあったものではない。

当時の防衛庁長官は現在の首相である石破茂氏であった。石破氏は昭和の時代に衆院議員になっており、平成になってから議員になった福田官房長官より「先輩」なので、決定を覆してくれることを期待したが、叶わなかった。(了)