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2025.06.02 (月) 印刷する

沖ノ鳥島めぐる中国の認知戦に屈するな 黒澤聖二(元統合幕僚監部首席法務官)

第3管区海上保安本部は5月26日、日本最南端の沖ノ鳥島周辺のわが国排他的経済水域(EEZ)内で、中国の海洋調査船がワイヤーのようなものを海中に延ばしているのを確認したと発表した。

これを受け、中国外務省の報道局長は27日、「沖ノ鳥島は島ではなく岩」であり「沖ノ鳥島周辺を日本のEEZとするのは国際法違反だ」とする従来の主張を繰り返した。

中国調査船による無許可の海洋調査があるたびに、まるで壊れたテープレコーダーのように同じ中国の主張が繰り返される。これは中国による三戦(世論戦、心理戦、法律戦)を含む認知戦の一環と思われ、その都度反論しておかなければ認知戦に屈することになりかねない。

そこで、当欄での議論を一部繰り返す形になるが、筆者の見解を改めて述べておきたい。(詳しくは『国基研紀要』第4号の拙稿「沖ノ鳥島沖の中国海洋調査船の活動とわが国の対応」を参照されたい。)

島か岩かは決着済み

国際法は「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」(海洋法121条)と定義した。その際、各国により島か岩かの扱いが一様でなく、統一解釈が困難だったため、岩については定義しなかった事情がある。よって、沖ノ鳥島は島の定義に則している限り、国際法上の島ということができる。

さらに海洋法が設置する大陸棚限界委員会の勧告を補強材料と見なすことができる。なぜなら、わが国が申請してきた沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延長が、その勧告により認められたからである。つまり、島でなければ大陸棚やEEZの基点になり得ないのであり、言い換えれば島であることが裏付けられたと言える。

しかし、だからといって島を維持する努力を惜しみ拱手傍観していると、地球温暖化で海面が上昇し、加えて波による自然の力が島を浸食していき、いつのまにか消滅してしまう危険がある。沖ノ鳥島は広大なEEZの基点でもあり、これ以上の浸食を阻止すべく防波堤で保全する意味は少なくない。

日本も海洋調査を

中国が海洋調査を繰り返すのは、レアメタルなどの海底鉱物資源獲得という経済的要求のためだけとは思えない。これまでも多くの識者が指摘してきたように、沖ノ鳥島は、第2列島線上のグアムと第1列島線上の沖縄との丁度中間に位置し、戦略上の重要性が大きい。

仮に台湾有事を考える時、中国が米軍の来援を阻止するためには、第2列島線と第1列島線の間の海域は日米と対峙する最前線となり得る。海上・海中作戦を行う上で必要な情報はいくらあっても足りないのであり、今後も当該海域を中心に、より広大な海域で中国の調査活動は継続するだろう。

逆に、わが国は来る台湾有事に備え、沖ノ鳥島周辺海域の海洋情報を整えていると言えるのか甚だ不安である。東シナ海の資源調査だけでなく、台湾海峡や台湾東方沖の国際水域で海洋調査を繰り返し、備えておくことも必要ではないだろうか。「台湾有事は日本有事」というわが国の本気度を中国に示す効果もあると考える。(了)