8月20日から1週間、チェコの首都プラハで米国防総合大学(NDU)が主催した卒業生の安全保障セミナーに参加した。当初ルーマニアの首都ブカレストで行われる予定であったが、ウクライナとの国境付近にロシアのミサイルが飛来するに及び、急遽プラハに変更された。約100名の卒業生が参加した。
8月20日はソ連軍による1968年のチェコスロバキア(当時)侵攻の55周年に当たり、開催に協力したチェコ国防省・軍の高官も、その点を強調していた。
新型コロナウイルス流行の為に、このセミナーには4年ぶりの参加となったが、中東欧における中国に対する脅威認識が大きく変化している事を肌で感じた。
国防セミナーで「技術窃盗」など列挙
4年前にセミナーがエストニアで行われた時、基調講演はNDU卒業生であるラトビアの外相であり、筆者が中東欧における中国の進出について質問したところ、「中国の進出を心配するくらいなら、日本も同程度、欧州に投資して貰いたい」と切り返された。
それが、今回基調講演を行ったチェコの国防副大臣は、筆者の質問に対し、中国の脅威として、①技術窃盗②サイバー攻撃③資源や貿易の戦略的威圧手段としての利用④宇宙での攻撃的な活動⑤北極海への進出⑥ドイツやギリシャで起きている通信・港湾インフラの乗っ取り⑦債務の罠、例えば北大西洋条約機構(NATO)の一員モンテネグロは国内総生産(GDP)とほぼ同額が対中債務となっている事実―の7点を挙げた。
これまで欧州の中でも特に中東欧諸国は、中国の広域経済圏構想「一帯一路」に積極的に参加し、中東欧16カ国にギリシャを加えた17カ国と中国の経済協力枠組み「17プラス1」(2021年にリトアニアの離脱で「16プラス1」になった)にも参加してきたが、ここ数年でその風向きが大きく変わった事を実感した。
驚くべきウクライナの情報発信力
驚いたことに戦時下のウクライナからは5名の大佐が参加した。このうちの2名がサイバー・情報担当、1名は国家親衛隊の電子戦(シギント)担当、1名は国際協力担当、1名はカウンターインテリジェンス(対敵情報活動)担当であった。各国がウクライナ支援について言及すると、すかさず立って謝辞を述べる等、国際社会を味方につける努力を涙ぐましいほど行っていたのが印象的であった。
国基研の松原実穂子企画委員の新刊書『ウクライナのサイバー戦争』によると、昨年10月シンガポールで開かれた国際会議には、ウクライナのビクトル・ゾラ国家特殊通信・情報保護局副局長が片道2日をかけて出席し、世界に情報を発信している。
翻って、我が国が現在のウクライナのような立場に置かれた場合、どれだけ国際会議で日本の立場を発信し、国際社会を味方にできるような活動ができるのかを考えると、英語力も含めて心許ない気がする。
プラハ旧市街での集合写真