迫りくる独裁国家群の脅威は、歴史的な不和を引きずる民主国家を強力な結束へと導いた。8月18日、ワシントン郊外の米大統領別荘キャンプデービッドで開催された日米韓3カ国首脳会談は、覇権主義的な中国に対して軍事面の「抑止」と経済面の「リスク回避」で結束することで合意した。北朝鮮、ロシアと枢軸関係にある中国が、差し迫った衰退によって対外強硬策へ向かう危険性があるだけに、日米韓が「インド太平洋を越えた協力」で一致した意義は大きい。
ピークパワーの罠
中国の習近平国家主席は、台湾海峡を越えて武力による威嚇や現状変更を狙って緊張を高めている。これに対抗する日米と米韓は、それぞれ同盟関係にあるものの、日米韓が連携して抑止力と打撃力を発揮できなければ二つの同盟システムもうまく働かない。朝鮮半島有事には在韓米軍と韓国軍が前線に立って、在日米軍と自衛隊が後方から支援する。さらに、台湾有事は日本有事を引き起こし、在日米軍と自衛隊が前線に立って、在韓米軍と韓国軍が支援することが考えられる。しかし、日韓は不幸な歴史の足かせから脱却できずに時間が流れていた。
米国はこれまでも、北朝鮮、中国を抑止するために日韓間の仲介をしてきたが、歴史問題で互いが刀を抜き合った状態では、日米韓のまともな3カ国協議もままならなかった。動いたのは2022年、尹錫悦氏が韓国の大統領に就任すると、対日悪感情を棚上げして、日韓協調の土台が築かれていく。中国の傲慢な対外強硬策、北朝鮮の好戦性、ロシアのウクライナ侵略により、これに対抗する日米韓の距離がさらに狭まったのも事実だ。北の3代目が推進する核ミサイルの開発問題に加え、ロシアにとって北朝鮮が武器庫になりつつある中で、日米韓の協力体制が重要になってきた。
この間、中国経済はこの7月にデフレに陥り、工業出荷額も下落を続け、消費者物価と賃金が停滞し、経済成長が大幅に鈍化する時代に突入している。劇的な成長でピークを迎えた大国が、一転して経済減速に苦しむと、他国に攻撃的になることを「ピークパワーの罠」という。バイデン大統領は3カ国会談前の演説で、中国が経済の急激な落ち込みから「時限爆弾」を抱えた状態であるとの認識を語っていた。そのうえで「悪い人たちが問題を抱えると、悪いことをする」と述べて、ピークを過ぎた新興大国が対外強硬策に向かう危険を示唆していた。
王毅外相の焦り
日米韓の協調体制構築の動きに対して中国は、外交トップの王毅外相が7月、青島で開催されたフォーラムで、日韓に対して「どんなに髪を染めても、どんなに鼻を尖らせても、決して欧米人にはなれない」と品のない発言をした。反発を招くような人種差別的な物言いに、分別が効かぬほどの焦りを感じさせる。それは、日米韓3カ国が共同声明「キャンプデービッドの精神」で、協力領域をこれまでの北朝鮮対応からインド太平洋やそれ以遠へ広げ、対中抑止の色合いを濃くすることを予感したためではなかったか。しかも、この「精神」には、いずれの国で政権が代わっても、3カ国協力の枠組みが不可逆的に継続されることが組み込まれている。(了)