6日の「原爆の日」、広島市の松井一実市長は平和記念式典で「核抑止論は破綻している」と訴えたが、ウクライナ戦争で核抑止論は逆に立証されていると言える。
米の支援小出しは露の核への恐れ
米国のジョー・バイデン大統領は、ロシアのウクライナ侵攻が迫っていた2021年12月の段階で、本来、曖昧にしておくべきであった米軍派遣を「検討していない」と述べた。これがロシアのウラジミール・プーチン大統領をしてウクライナ戦争に踏み切らせた最大の理由である。
「米軍を派遣しないのはウクライナが同盟国でないから」と言う人がいるが、1991年の湾岸戦争では、米国の同盟国でないクウェートを助けるため、米国は侵略国イラクに参戦した。ロシアとイラクの違いは、核保有国であるか否かの一点である。
ロシアのウクライナ侵攻後、米国は高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)や戦車エイブラムス、そしてF16戦闘機のウクライナへの供与を小出しに容認してきた。小出しの理由は、ロシアの核の報復を恐れているからである。すなわちロシアの核による抑止は効いていると認識しなければならない。
ウクライナに核があれば侵略されなかった
1991年のソ連崩壊後に独立したウクライナには、旧ソ連の核弾頭1240発と大陸間弾道ミサイル(ICBM)176基が残っており、ウクライナは米露に次ぐ世界第三の核保有国であった。しかし、1994年のブダペスト覚書により全ての核兵器をロシアに移転してしまった。仮にウクライナに核兵器が残っていたら、プーチン大統領もウクライナに侵攻するという判断をしなかったであろう。
すなわち、核抑止力がなかったからウクライナはロシアに侵略された。ブダペスト覚書でウクライナの安全を保証すると約束したロシアがウクライナを侵略し、覚書に署名した米国もウクライナの安全を守らなかった。覚書のような紙切れや口約束がいかに効力を持たず、抑止のための核が大切であるかを物語っている。
米知日派元軍人が戦術核配備を提唱
日本として心配なのは、北朝鮮、中国、そしてロシアが戦術核を日本に対して使用した場合、米国が戦略核ではなく、同レベルの戦術核で報復してくれるかという問題である。こうした背景から、米海軍協会の月刊誌プロシーディングスの7月号で、かつて国防総省で日本部長をしていたポール・ジアラ元海軍中佐は「米海軍は1991年にブッシュ(父)政権によって撤去された戦術核を復活すべきである」とする記事を寄稿している。
要するに核抑止論は破綻していない。却ってウクライナ戦争により立証されていると認識すべきだ。(了)