公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.08.07 (月) 印刷する

NATOやインドと進む軍事協力 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議では、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によってNATOの東京連絡事務所設置が「将来検討」となってしまった。

しかし7月末には、航空自衛隊の宮崎県新田原基地でフランス航空宇宙軍の主力戦闘機ラファール等と空自が共同訓練を行い、同軍参謀長ミル大将も訪日した。また6月には、沖縄東方海域で日仏米の海空軍が共同訓練を行い、日本からヘリコプター搭載母艦「いずも」等、仏海軍からフリゲート艦「ロレーヌ」、米海軍から「ニミッツ」「ロナルド・レーガン」の両空母が参加した。さらに4月には初めて仏陸軍と陸上自衛隊の二国間訓練が行われた。こうした共同訓練により、実質的にはフランス軍と自衛隊との連携は強化されてきている。

イタリア空軍とも初の共同訓練

フランス以外のNATO主要国とも共同訓練や軍事協力が進展している。8月4日には、石川県小松基地を拠点として空自と共同訓練を行うため、イタリア空軍が初めて訪日した。イタリアとは、空自次期戦闘機の日英伊共同開発でも協力が深まっていく。

ドイツ軍も2021年に海軍のフリゲート艦「バイエルン」を日本に派遣して海上自衛隊と共同訓練を実施し、また2022年には史上初めて空軍機ユーロファイターを茨城県百里基地に派遣、空軍総監ゲルハルツ中将も訪日して空自と共同訓練を行った。さらに今年は10年ぶりに、独陸軍トップのアルフォンズ・マイス総監が静岡県東富士演習場を訪れた。

英国は2021年、空母「クイーン・エリザベス」打撃群を東アジアに派遣し、その中にはオランダのフリゲート艦や米海軍艦・海兵隊も含まれていた。

こうしたことからNATO主要国との軍事的な距離は縮まっていると言える。NATO主要国の東アジアへの軍隊派遣が台湾有事を念頭に置いていることは、中国がNATOのアジア関与に神経を尖らせていることからも分かる。その中国に籠絡ろうらくされたのが「台湾は欧州の問題ではない」と発言して物議を醸したマクロン大統領とも言える。

インド軍とは対中戦模擬訓練

NATO加盟国以外では、今年1月、空自が百里基地を拠点にインド空軍との共同訓練を行った。この時、インド空軍が派遣したのはロシア製のSu30であった。Su30は中国も空軍が76機、海軍が24機、合計100機保有しているので、空自は中国人民解放軍のSu30を想定した戦闘訓練ができた。

また2月から3月にかけて、インド陸軍との共同訓練が滋賀県の饗庭野演習場と今津駐屯地で行われた。インド陸軍は中国との国境で人民解放軍陸軍と戦っている。

さらに海自は2017年以降、インド太平洋方面派遣訓練を毎年行っているが、インド洋でインド海軍と共同訓練を行う際、インド海軍はロシア製のキロ級潜水艦を海自艦の標的として提供してくれる。キロ級潜水艦は人民解放軍海軍も12隻保有している。

日米豪印戦略対話であるクアッドは軍事色が薄いと言われるが、二国間または多国間で軍事協力を進める母体として有意義な枠組みなのだ。(了)