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2023.08.07 (月) 印刷する

安保3文書の進捗状況を監視する仕組みを 江崎道朗(評論家・麗澤大学客員教授)

昨年12月、岸田文雄政権は、「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定し、防衛力の抜本強化に乗り出した。

今回の国家安全保障戦略の特徴は、防衛力を抜本強化するだけでなく、防衛力以外の方策も明確に打ち出していることだ。日本を守る力は防衛力だけでない。次の五つだと同戦略は指摘している。

日本を守る五つの力

第一に外交力。ロシアによるウクライナ侵略でも明らかなように、友好国、同志国をどれだけ持っているかが戦争の動向を左右する。よって日本も「大幅に強化される外交の実施体制の下、今後も、多くの国と信頼関係を築き、我が国の立場への理解と支持を集める外交活動」を展開していく。

第二に防衛力。それも、防衛力に裏打ちされてこそ外交力は高まるとして、「抜本的に強化される防衛力は、わが国に望ましい安全保障環境を能動的に創出するための外交の地歩を固めるものとなる」。

第三に経済力。「経済力は、平和で安定した安全保障環境を実現するための政策の土台となる」。経済力があってこそ軍事力も強化できるわけだ。

第四に技術力。「官民の高い技術力を、従来の考え方にとらわれず、安全保障分野に積極的に活用していく」。

第五に情報力。「急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確な意思決定を行うには、質が高く時宜に適った情報の収集と分析が不可欠である」。

この五つの力を使って第2次安倍晋三政権は、米国以外の国、つまりオーストラリア、インド、北大西洋条約機構(NATO)、カナダ、ニュージーランドなどと防衛協力関係を強化してきた。

その実績を踏まえて岸田政権は、新たな国家安全保障戦略において、防衛だけでなく外交、経済、技術、情報(インテリジェンス)の五つの力の強化を謳った。

防衛省が把握できない他省の関連事業

よって国家安全保障戦略に基づいて外交、防衛、経済、技術、情報(インテリジェンス)の五つをいつまでにどのように強化していくのか、具体的な工程表が策定されるべきなのだが、そうした工程表が提示されているのは防衛分野だけだ(「国家防衛戦略」には「防衛目標を実現するためのアプローチ」が明示されている)。

しかし「防衛目標を実現するためのアプローチ」も、防衛省「所管」の分野だけしか明示していない。だが防衛は、防衛省・自衛隊だけでは行えない。港湾・空港などは国交省、通信・サイバーなら総務省、研究開発なら経産省や文科省、国際関係なら外務省との連携が必要だ。

そこで国家安全保障戦略では「総合的な防衛体制の強化との連携」として、防衛力の抜本的強化を補完し、それと不可分のものとして公共インフラ整備、研究開発、サイバー安全保障、国際協力の4分野が挙げられている。

よってこの4分野の進捗状況が防衛力強化にとって極めて重要なのだが、他の省庁が実施する事業の進捗管理を防衛省が担当できるわけではない。

織田邦男氏も「(防衛省以外の)関係省庁が所管する防衛関連事業まで、防衛省が把握するのは、縦割り行政上、荷が重いのかもしれない。だが、関係省庁の防衛関連事業計画、進捗状況、そしてGDP(国内総生産)比2%の防衛関連費の使われ方については、国民最大の関心事と言ってもいい。全体が把握できなければ我が国の安全保障の全容は判断し難い」と指摘している。

国家安全保障局の役割

防衛省が他の省庁が所管する防衛関係事業まで把握できないとしたら、どうすればいいのか。本来ならば、「関係省庁の防衛関連事業計画、進捗状況、そしてGDP比2%の防衛関連費の使われ方」について把握し、「我が国の安全保障の全容」を管理するのは、安保3文書を策定した官邸の国家安全保障会議及びその事務局である国家安全保障局の役割だ。

よって岸田政権は、国家安全保障局に対して、安保3文書に基づく防衛関連事業の進捗状況を定期的にチェックすると共に、課題があればその見直しを国家安全保障会議に提起するよう指示すべきなのだ。加えて国家安全保障戦略に基づいて外交、経済、技術、情報(インテリジェンス)についても、いつまでにどのように強化していくのか、具体的な工程表を策定するよう指示すべきだ。

国会の側も、特に安保3文書に基づく防衛関連事業の進捗状況について、その全容を毎年、国会に報告するよう政府に要求すべきだ。5年間で43兆円もの予算を投じたにもかかわらず、防衛力を抜本強化できませんでした、では済まされないのだ。(了)