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2023.08.03 (木) 印刷する

「防衛白書」から「安全保障白書」に格上げすべし 織田邦男(国基研企画委員・麗澤大学特別教授・元空将)

7月28日、令和5年度版防衛白書が公表された。昨年12月の国家安全保障戦略(以下「安保戦略」)など3文書の決定後、初めて刊行される白書である。

初めて安保戦略を策定した2013年以降、約10年間における安全保障環境の変化や、我が国の防衛力強化の取り組み、3文書決定に至った経緯や概要を本文の前に特集している点、また、防衛省が主管官庁である国家防衛戦略(以下「国防戦略」)について、本文とは別に特集している点が例年の白書とは大きな違いだ。

目立つ国防戦略の詳述

我が国の安全保障環境の記述は、3文書決定から半年余りしか経っていないこともあり、各種データは更新されているものの、特に目新しい記述はない。中国に対する認識も「脅威」ではなく「戦略的挑戦」であるのは変わらない。北朝鮮が「一層重大かつ差し迫った脅威」であるのも変わらない。

3文書策定以降の変化として、ロシアによるウクライナ侵略戦争の経過、中台軍事バランスの中国側への「急速な傾斜」、中露連携の活発化、日韓関係の好転と防衛当局間の連携強化、日米韓の協力強化などがある。これらについては詳述されているが、日韓関連については、「火器管制レーダー照射事案」が未解決のせいか、2ページ弱と記述も少なく、素っ気ない印象を受ける。

今回の白書の目玉は、やはり3文書について詳しく説明しているところだろう。特に国防戦略については、主管官庁として本文で特に詳述している。国防戦略の概要説明(第II部第3章、計15ページ)に加え、国防戦略の文中にある「防衛目標を実現するためのアプローチ」を第Ⅲ部として別立てにし、144ページにわたって説明している。

物足りない安保戦略の説明

物足りないのは、安保戦略の説明である。主管官庁でないからやむを得ないとは思うが、概要説明(第II部第2章)が7ページだけであり、特に安保戦略に書かれた課題解決の事業計画や進捗についての記述がない。

昨年決定された安保戦略の特徴は、従来のような軍事と外交だけではなく、経済力、技術力、情報力を含む総合的な国力を有機的かつ効率的に用いて戦略的アプローチをとることであった。岸田内閣は2027年までに国内総生産(GDP)比2%に防衛関連経費を引き上げることを決定したが、この防衛関連経費には防衛省だけでなく、他省庁の我が国防衛に係る予算も含まれることになった。

安保戦略には「総合的な防衛体制の強化との連携」として、防衛力の抜本的強化を補完し、それと不可分のものとして公共インフラ整備、研究開発、サイバー安全保障、国際協力の4分野が挙げられている。これらの事業計画が如何なるもので、どのように進捗しているかは、国民の関心事でもある。だが、今回の防衛白書には、前述の第Ⅲ部にも、第Ⅳ部「共通基盤などの強化」にも、そして資料編にも、関係省庁が実施する防衛関連事業計画や進捗状況の記述はない。

「縦割り」白書の限界

関係省庁が所管する防衛関連事業まで、防衛省が把握するのは、縦割り行政上、荷が重いのかもしれない。だが、関係省庁の防衛関連事業計画、進捗状況、そしてGDP比2%の防衛関連費の使われ方については、国民最大の関心事と言ってもいい。全体が把握できなければ我が国の安全保障の全容は判断し難い。

今や国民の関心事は「我が国の防衛」というよりも「我が国の安全保障」である。そういう意味では、「防衛白書」は時代に追随できていない。限界が露呈し、もはや役目を終えたのかもしれない。来年以降は、「防衛白書」ではなく、防衛省のみならず他省庁を含めた「安全保障白書」を官邸が主導して策定すべきではないだろうか。(了)
 
 

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第425回 『防衛白書』から『安全保障白書』に格上げすべし

令和5年度版防衛白書で安保3文書が詳述された。しかし、他官庁の3文書関係省庁については記述不足。各省庁の予算に渡る研究開発、インフラ整備などを含め「安全保障白書」に格上げして記述すべきである。