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2023.08.04 (金) 印刷する

プーチン大統領が朝鮮戦争参戦を認めた意図 西岡力(モラロジー道徳教育財団教授)

7月27日の北朝鮮の朝鮮戦争「戦勝」70周年記念閲兵式にあたり、ロシアのプーチン大統領が祝辞を寄せた。訪朝したショイグ国防相が持参した。その中でプーチン氏は「数万回の戦闘飛行を遂行した飛行士を含むソ連の軍人も、朝鮮の愛国者と共に肩を組んで戦いながら、敵の撃滅に重みのある寄与をした。この過程に結ばれた戦闘的友誼の歴史的経験は、高貴な価値を有しており、政治と経済、安全分野においてロシアと朝鮮民主主義人民共和国の連携をより一層発展させるための頼もしい基礎となっている」と述べ、ソ連空軍が朝鮮戦争に参戦していたことを初めて認めた。

国連敵視の表れか

確かにソ連は、朝鮮戦争で多数のパイロットを北朝鮮に送り、中国軍服を着せて中国軍のミグ戦闘機に搭乗させ、参戦させた。これは事実だが、これまではその事実は極秘とされ、ソ連政府はもちろん、ロシア政府も参戦を認めたことはなかった。それどころか、参戦を全力で隠蔽していた。参戦の露呈を恐れて、黄海に落ちたソ連パイロットを米軍がヘリコプターで救出しようとしたとき、ミグ戦闘機が現れて銃撃したことさえあったという(R・P・ハリオン『朝鮮半島空戦記』朝日ソノラマ、1990)。

それではなぜ、このタイミングでわざわざ、それもプーチン大統領自らが秘密を公開したのか。プーチン氏は「ソ連の軍人も、朝鮮の愛国者と共に肩を組んで戦いながら、敵の撃滅に重みのある寄与をした」と言っている。ここで「敵」とは国連軍である。国連安保理は1950年6月27日、北朝鮮の奇襲南侵を侵略と断定して、国連軍を組織して「武力攻撃を撃退」することを決めた。ソ連はそのとき、欠席して拒否権を行使しなかった。朝鮮戦争は休戦中だから現在も同決議は有効で、日本には今も国連軍後方司令部がある。

世界の安全と平和に責任がある国連安保理の常任理事国であるロシアは、公然とウクライナに侵略戦争を仕掛けた。国連憲章の明確な違反だ。プーチンはそのことを自覚しているので、開き直った心情で国連軍に対してソ連軍が戦ったという過去をここで明らかにしたのではないか。

これを目撃した今、もはや、国連による秩序は崩壊したというしかない。ウクライナ戦争でロシアを敗退させ、ロシアと中国を安保理の常任理事国から追放して新しい国連をつくるしかない。

露が北特殊部隊10万人の派遣を要請

私が入手した情報によると、祝辞を北朝鮮に持参したショイグ国防相は北朝鮮の金正恩委員長や朝鮮軍最高幹部らと相次いで面会して、ウクライナ戦争への朝鮮人民軍特殊部隊10万人の派兵を求めたという。70年前にソ連が北朝鮮を助けるために派兵したのだから、今回は朝鮮軍がウクライナに来て「共に肩を組んで戦う」べきだという圧力を加える意味が祝辞にあったのかもしれない。

情報によると、ショイグ国防相が特殊部隊10万人の派兵を求めたのに対し、北朝鮮側は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載できる原子力潜水艦かその建造技術の提供を求めたという。両者にとって相手の要求は簡単に応じることが困難であり、会談の結果がどうなったかは現段階では情報がない。

ミサイル発射の見返りにジェット燃料

昨年、露朝間ではウクライナ戦争支援をめぐり次のやり取りがあった。

ショイグ国防相が昨年3月中旬、中国を訪問して中国軍関係者にミサイルなどの提供を求めて拒否されているが、そのとき訪朝を打診したものの外国人入国を禁じていた北朝鮮に拒否された。代わりに朝鮮人民軍代表団が北京を訪問してショイグ国防相と会談した。ロシア側は北朝鮮に特殊部隊参戦とミサイル提供を要請したが、北朝鮮はそれを断った。その代わり、ミサイル発射実験を続けて米国を牽制すると伝えた。

9月末か10月上旬、ロシアのウラジオストクでロシア国防省と北朝鮮総参謀部の当局者が秘密会談を持った。そこでロシア側は朝鮮半島で軍事衝突を起こしてくれるなら戦闘機用のジェット燃料を含む精製した石油や天然ガスを提供し、ウクライナ戦争終了後には最新のスホイ戦闘機を供与すると提案した。北朝鮮は砲弾提供と、軍事攻撃の代わりに極限まで軍事緊張を高めることを約束した。北朝鮮が繰り返し行った核攻撃演習名目のミサイル発射はその一環だった。見返りとしてジェット燃料をはじめとする精製石油が北朝鮮に送られ、それを使って北朝鮮空軍は戦闘機150機の演習を行った。

参考:プーチン氏祝辞の内容

平壌7月28日発朝鮮中央通信によると、朝鮮戦争勝利70周年を祝うための記念報告大会の参加者にプーチン大統領が寄せた祝辞の内容は次の通り。

尊敬する金正恩閣下、

親愛なる友人、

祖国解放戦争(朝鮮戦争)での朝鮮人民の勝利70周年に際して心からの祝賀を送る。

1950年~1953年の苛烈な戦闘で朝鮮人民軍軍人は最高司令官金日成同志の指導の下で全ての試練を克服し、集団的英雄主義を発揮して祖国の自由と独立を守り抜いた。

数万回の戦闘飛行を遂行した飛行士を含むソ連の軍人も、朝鮮の愛国者と共に肩を組んで戦いながら、敵の撃滅に重みのある寄与をした。

この過程に結ばれた戦闘的友誼の歴史的経験は、高貴な価値を有しており、政治と経済、安全分野においてロシアと朝鮮民主主義人民共和国の連携をより一層発展させるための頼もしい基礎となっている。

現時代の脅威と挑戦に直面して友好と善隣、相互援助の誇らしい伝統を重んじ、豊かにしていくのは、特別に重要である。

対ウクライナ特殊軍事作戦に対する朝鮮民主主義人民共和国の確固たる支持とかなめの国際問題におけるロシアとの連帯は、国際法の優位と安全の不可分、国家の自主権と民族的利益の尊重に基づいた真に多極化され、正義の世界秩序の確立を阻害する西側集団の政策に立ち向かっていこうとするわれわれの共通の利害関係と決心を浮き彫りにさせている。

金正恩閣下、

あなたが健康であることと、友好的な朝鮮人民の福利のための責任ある活動で成果を収めることを願う。

全ての記念報告大会の参加者に福利と平和があることを願う。

 
 

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