シリアのアサド政権が崩壊した。主因は、後ろ盾となっていたロシアがウクライナ侵攻でシリアを支援できなくなったことと、ロシアがけしかけて始まった昨今の中東紛争で、レバノンのイスラム主義組織ヒズボラもイスラエルの攻撃でダメージを受け、シリアを支援できなくなったことだ。ロシアのウクライナ侵攻と中東での親イラン勢力支援がブーメランとなってロシアに帰ってきた。
ロシアの中東支援挫折
ウクライナの反撃が停滞した昨年10月は、パレスチナ自治区ガザを支配していたイスラム主義組織ハマスのイスラエル奇襲が実行された時でもある。ハマスのイスラエル攻撃がロシアに支援されたものであることは、トランプ第1期政権の国家安全保障担当大統領副補佐官であったマット・ポッティンジャー氏の著書『煮えたぎる堀(The Boiling Moat)』に、ハマスのイスラエル奇襲3週間後にロシア、イラン、ハマスの三者会談が行われたと記されていることからも窺われる。
10月24日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「ロシアはイエメンのイスラム過激派フーシ派にグローバルな攻撃目標情報を提供した」と報じた。中東に米戦力を分散させ、人道状況悪化に対する国際的批判の矛先をロシアではなくイスラエルに向ける目的は功を奏したと言える。
しかし、ロシア自身もウクライナとの戦争で弾薬や人員を大量に消耗し、シリアを支援することができなかった。逆に言えばシリアの反政府勢力は、この機会に乗じてアサド政権の転覆を狙ったと言える。
米は台湾有事に備え弾薬温存か
ウクライナ戦争は、北朝鮮がロシアに弾薬・兵員支援を行うことによって、東アジアにも広がりを見せている。最近結ばれた露朝同盟では、朝鮮半島有事の際にロシアは北朝鮮を助ける義務を負うが、ウクライナに兵員・弾薬を集中させているロシアが北朝鮮を支援できるとは考えにくい。極東ロシア軍は海軍を除いて、現在スカスカの状態だ。
11月19日に米インド太平洋軍のパパロ司令官は、ウクライナや中東への支援で米軍の弾薬、とりわけ対空ミサイルであるパトリオットの備蓄が減少していると危機感を表明した。
トランプ次期大統領がウクライナ・ロシア特使に指名したアメリカ第一政策研究所のキース・ケロッグ氏は、ベトナム戦争や湾岸戦争に従軍した元陸軍中将である。2027年に台湾有事で中国と事を構える可能性がある中、米国が弾薬温存のためにウクライナ戦争、そして中東紛争を早く終わらせたいと考えるのは自然であろう。(了)