公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2023.06.05 (月) 印刷する

沖縄はPAC3常時配備を歓迎せよ 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

4月23日の沖縄タイムスによれば、玉城デニー沖縄県知事は、北朝鮮の軍事偵察衛星打ち上げに備えて防衛省が発表した地対空迎撃ミサイルPAC3の県内配備方針を疑問視し、「背景をしっかり精査するよう(担当部局に)指示した」と述べた。また、宮古島や石垣島などが配備先になるとの見方に関し「説明不足と言わざるを得ない」と指摘して「唐突に北朝鮮のミサイルを引き合いに出して配備しようとする考え方で、果たして住民の理解や納得を得られるのか」と主張した。

しかし、将来にわたって南西諸島が北朝鮮偵察衛星打ち上げの経路となることは間違いなく、PAC3配備は今回限りではなく恒常的にならざるを得ない。

高頻度の北朝鮮衛星打ち上げに対応

偵察衛星は、早期警戒衛星のように赤道上空の静止軌道を飛ぶのではなく、北極と南極を結ぶ軌道を回る。常時、米軍等の動きを監視・偵察するためには最低4個程度の光学衛星が必要である。また常に晴天とは限らないので、雲があっても情報を収集できるレーダー衛星も同じ数だけ必要となろう。さらに受信装置がある領土から遠く離れた衛星の画像を送付するためにはデータ中継衛星が2基ほど必要になる。合計すれば約10基の衛星が必要だ。

日本の内閣衛星情報センターも、その体制に移行中であり、現在でも運用衛星数は光学3基、レーダー6基、データ中継1基の合計10基である。しかも衛星の寿命は通常5年なので、寿命が近づけばまた新たな衛星を打ち上げなければならない。

日本では内閣衛星情報センターの任務が「画像の収集・分析」と法律で定められているので、衛星は光学、レーダー、データ中継の3種に留まっているが、北朝鮮が米国の戦略核ミサイルの発射を探知するためには、早期警戒衛星が必要であり、また電子情報を収集するためには電子偵察衛星も必要となろう。

これらの衛星を5年の寿命を考慮して常に宇宙空間に配備するためには、相当な頻度で、今回のような経路での衛星打ち上げが必要となる。さらに北朝鮮は6月4日、衛星の打ち上げ計画を今後事前に通告しない可能性を示唆する国際問題評論家の談話を、国営メディアを通じて発表した。それゆえ、PAC3の南西諸島への配備は恒常的でなければならないのだ。

県民を守る迎撃ミサイル

弾道ミサイル発射と衛星打ち上げは同じ技術を使う。高度700キロの地球周回軌道なら秒速7.5キロ以上、高度200キロなら秒速7.8キロ以上で衛星となり、速度がそれ以下であれば地球を周回せずに弾道ミサイルとなる。

長距離弾道ミサイルの場合、攻撃対象が米本土やインド太平洋軍司令部のあるハワイであるため、北朝鮮から北海道方向への発射となるが、偵察衛星の場合には南北極を周回するので、今回のような南へ向けての打ち上げとなる。沖縄県は、それを認識して、むしろ県民の生命財産を守るPAC3配備を歓迎すべきではないか。(了)