公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第1185回】日米の安保感覚を一致させよ

太田文雄 / 2024.09.24 (火)


国基研企画委員・元防衛庁情報本部長 太田文雄

 

 9月19日、米海軍の制服組トップであるリサ・フランチェティ作戦部長が「米国の戦闘海軍のための航海計画」2024年版を公表した。同計画は2022年にも前作戦部長によって公表されているが、その後ロシア・ウクライナ戦争に伴う黒海での海戦や、紅海におけるイエメンの反政府武装集団フーシ派との戦いの教訓を含め、ロボットや自律システムの軍事利用といった情勢の変化を踏まえて新たに公表された。これを一読して、日米間の安保感覚に大きなギャップがあることを感じる。

 ●海底インフラへの脅威認識のずれ
 安全保障環境に関する記述の中に、海底のインフラであるパイプラインや通信ケーブルが攻撃の標的となる危険性が書かれている。しかし、日本の「防衛白書」では、7月に公表された最新の令和6年版でも、海底インフラへの脅威に関する記述は、英国が空母打撃群を北欧海域に派遣してバルト海を中心に重要な海底インフラ防衛を実施していることを紹介している部分のみである。
 空母に関しては、中国海軍の空母「遼寧」が9月18日、沖縄県の与那国島と西表島の間の日本の接続水域を航行した。中国海軍は8月31日にも鹿児島県のトカラ海峡の日本領海に測量船を侵入させ、中国外務省報道官が、領海のみで構成されて国際海峡の要件を満たしていないトカラ海峡を国際海峡と主張した。8月26日には人民解放軍の情報収集機が、長崎県男女群島沖で日本の領空を中国軍機として初めて侵犯した。一連の行動は日本の対応を試していると言える。
 接続水域の航行や領海内での無害通航自体は国際法違反ではないが、対抗策として日本も、中国以外の国が国際海峡と認めている台湾海峡を海上自衛隊の艦艇に通過させるべきだ。米国は勿論のこと英独仏加の軍艦は既に何回も台湾海峡を通過しているのだから。

 ●台湾有事の切迫感にも差
 「航海計画」には、随所にゴシック体で「2027年までに」何々を達成すべしという記述が見受けられる。しかるに自民党総裁選に立候補した9人の中に、自分の任期中に台湾有事が起こり得ることを想定して政策を打ち出している候補はほとんどいない。
 米海軍協会が出版している月刊誌プロシーディングズは、2027年より1年早い2026年の中台戦に備える特集を昨年末から連載している。今月号では海兵隊の少佐が「日本における機動展開前進兵力のアクセス改善のための外交」と題する論文を書き、現在の日米地位協定では申請してから日数を要する米軍部隊の展開を迅速に行うため、外交努力が必要だと論じて、コンテストの2位を受賞している。
 中国共産党系の環球時報によると、中国外務省報道官は9月18日、「米国の日本へのミサイルシステム展開計画は地域の緊張を高める」と日米をけん制した。一方、自民党総裁選の9人の候補による沖縄での演説会で、在沖米軍基地の負担軽減や日本に有利な地位協定見直しを主張する候補はいても、積極的に米ミサイル部隊の迅速な展開支援を主張する候補者はいなかった。ここにも日本側の緊迫感の欠如が表れている。(了)