三好範英の記事一覧
トランプ政権復活可能性に戦々恐々の欧州 三好範英(ジャーナリスト)
米大統領選挙は、トランプ前大統領が共和党大統領候補指名へ向けて大きく前進し、予想される民主党のバイデン大統領との一騎打ちでも勝って、政権に復帰する可能性が現実味を帯び始めている。ウクライナ支援の停止を示唆し、かつて北大西洋条約機構(NATO)からの脱退にも言及したトランプ氏が大統領に返り咲いたら、欧州の安全保障に甚大な影響を与えることは不可避だ。欧州各国は戦々恐々と、大統領選の行方を注視している。...
ドイツの「対中戦略」が持つ意味 三好範英(ジャーナリスト)
ドイツのオラフ・ショルツ政権は7月13日、ドイツ初の「対中国戦略」(以下「戦略」)を閣議決定した。 従来、ドイツにとって中国は、市場や投資先といったもっぱら経済的関心の対象でしかなかったが、2000年代の中ごろ、中国資本によるドイツ先端企業の買収を直接のきっかけに、政治、安全保障における負の側面も無視できなくなってきた。中国が権威主義の価値観と体制を強化し、グローバルな影響力を増大させるのに...
安保環境の変化を映した国際観艦式 三好範英(ジャーナリスト)
いささか旧聞に属するが、相模湾で11月6日に行われた海上自衛隊主催の国際観艦式を取材した。国際観艦式とは、国家的な節目となる記念日などに、外国海軍艦艇が参加して行われる海軍の行事だ。最高指揮官が観閲し、海軍軍人の士気の高揚や各国海軍間の信頼醸成、友好親善を促進することが目的である。 これとは別に日本では、自衛隊の最高指揮官である首相が自衛隊を観閲する観閲式が、陸海空3自衛隊の持ち回りで年に1...
欧州はどこまで耐えられるか 三好範英(ジャーナリスト)
パイプラインを通じて安価に供給されるロシア産天然ガスは、欧州経済を支えてきた。欧州全体のガス年間消費量は5000億立方メートル、そのうち2000億立方メートルはロシアからであり、ロシアとドイツを直接結ぶ「ノルトストリーム1」は600億立方メートルを供給してきた。欧州一の経済大国ドイツでは、ロシア産が輸入ガス量に占める割合は55.2%に達する。 そのノルトストリーム1の供給量が6月中旬から6割...
安保戦略転換で揺れるドイツ連立政権 三好範英(ジャーナリスト)
ドイツのショルツ首相(社会民主党=SPD)は、ロシアのウクライナ侵略開始から3日目の2022年2月27日、連邦議会の演説で1000億ユーロ(約13兆円)の国防予算の上積み方針を打ち出し、すでに公表していたウクライナへの武器支援方針などとともに、ドイツ安保政策の転換を画するものとなった。 それから2か月近く、いまでは対戦車砲、対空ミサイル、機関銃などを供与し、軍事的関与に消極的だったドイツの外...
ポーランドがウクライナを全面支援するわけ 三好範英(ジャーナリスト)
ウクライナ隣国ポーランドには、水色と黄色の2色に染められたウクライナ国旗があふれていた。公的な施設にはポーランド国旗と並び掲げられていたし、ワルシャワ市内のバスもウクライナ国旗をはためかせて走っていた。ロシアのウクライナ侵略以来、250万人以上のウクライナ避難民が流入したポーランドは、国を挙げてのウクライナ支援、避難民受け入れ態勢を取っていた。 避難民にはIDを付与 4月初め、避難民や...
ウクライナ危機でのドイツのジレンマ 三好範英(読売新聞編集委員)
ウクライナ情勢が緊迫の度を増している。ロシアはウクライナ周辺に侵攻を想定していると見られる10万規模の軍隊を展開させている。これに対しバイデン米大統領は1月24日、ウクライナ周辺の東欧地域に最大8500人規模の米軍を派遣することを明らかにした。 バイデン氏は「もし侵攻すればロシアにとって破滅だろう」とも述べ、ロシアを強く牽制した。米国がロシアに対して厳しい姿勢で臨む中、ヨーロッパの主要国ドイ...
ドイツ新政権の対中外交はどうなるか 三好範英(読売新聞編集委員)
9月のドイツ総選挙結果を受け、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党間で行われていた連立交渉は11月24日、合意に達し、12月上旬に新首相にSPDのオーラフ・ショルツ氏(63)が選出され、新政権が発足する。新外相には緑の党の女性共同党首、アンナレーナ・ベアボック氏(40)が就任する見通しだ。 新政権の政策がこれまでのメルケル政権とはどう変わるか。財政、環境、エネルギー、福祉...
転機迎えたドイツの政党政治 三好範英(読売新聞編集委員)
9月26日に投開票が行われたドイツ連邦議会(下院)総選挙は、戦後ドイツの下院選挙で最も混戦だった。政党支持の分散化が進み、幅広い国民各層を糾合する、突出した「国民政党」はほぼ消滅した。 選挙結果(暫定)は社会民主党(SPD)25.7%(予想獲得議席206)、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)24.1%(同196)、90年連合・緑の党14.8%(同118)、自由民主党(FDP)11.5...
「アフガンの失敗」はドイツにも衝撃 三好範英(読売新聞編集委員)
アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが全土をほぼ掌握したことは、ドイツにも大きな衝撃を与えている。ドイツは米英などに次ぐアフガン復興への主要な貢献国で、軍は大きな犠牲を払ってきたからだ。今後、国際軍事貢献の見直しが進み、内向きの傾向が強まる可能性もある。冷戦終結後、同様に貢献の拡大を進めてきた日本も、ドイツの動向を注視する必要があるだろう。 復興では主要当事者として関与 8月25日...
バイデン政権下で米独関係は修復するか 三好範英(読売新聞編集委員)
6月11日~13日、イギリス・コーンウォールで開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)は首脳宣言で、覇権主義を強める中国に「懸念」を表明し、「台湾海峡の平和と安定」の重要性に言及した。東・南シナ海に関しても、「現状を変更しようとする一方的な試みに対する強い反対」を表明した。 サミットが中国を巡る安全保障問題を主要議題に据えたのは初めてだった。バイデン米大統領の就任以来の外交姿勢からそう...
バイデン政権への欧州の期待と齟齬 三好範英(読売新聞編集委員)
「米国は帰ってきた」――バイデン米大統領はこの言葉を繰り返した。2月19日、オンラインで開催された「ミュンヘン安全保障会議」での演説でのことだ。 同会議は1962年から毎年開催されており、バイデン大統領は1980年から上院議員や副大統領として何度も出席している常連だ。安保をテーマにする国際会議としては老舗的な会議だが、現職米大統領が(ウェブ上ではあるが)参加したのは初めてだった。米欧関係改...
EU・中国の投資協定合意の背景 三好範英(読売新聞編集委員)
昨年(2020年)12月30日、交渉開始以来ほぼ7年かけて、ようやく欧州連合(EU)と中国の包括的投資協定が大筋合意に達した。安全保障や人権面で中国に対する懸念を深めている欧州だが、経済面での対中依存度はむしろ深まっており、もはや引き返せないレベルに来ているようだ。 協定の主な内容は、読売新聞によると、▽中国は電気自動車、通信機器などの分野でEU企業の参入拡大を認める▽中国に参入するEU企...
欧州の「中国離れ」をどう読むか 三好範英(読売新聞編集委員)
欧州の中国に対する見方が厳しくなっている。欧州委員会が昨年3月発表した「欧州連合(EU)-中国戦略見通し」は、中国を「別の支配モデルを宣伝する体制上のライバルの一面がある」と規定した。さらに、今年9月のドイツ政府の「インド太平洋指針」は、対アジア外交の原則として「同権に基づく多国間主義」「法規に基づく秩序」「普遍的な人権」などを列挙した。名指しこそしてはいないが、中国の近年の行動に対する牽制の意...
連立成ってもメルケルの求心力は低下 三好範英(読売新聞編集委員)
昨年(2017年)9月24日の総選挙以来、5カ月余り続いてきたドイツの政治空白に3月4日、終止符が打たれた。社会民主党(SPD)の党員投票でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との「大連立」が承認されたことから、ようやく3月14日、メルケル第4次政権が発足する運びとなった。 ただ、この間、断続的に続いた連立交渉はドイツ社会の亀裂の深さを露わにした。CDU・CSUとSPDの執行部間では、...
連立難航が示すドイツの変容見据えよ 三好範英(読売新聞編集委員)
ドイツのメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)が大連立に向けて正式交渉に入ることで合意し、SPDは1月21日、党大会でも正式交渉入りを承認した。昨年9月24日の連邦議会(下院)選挙から4か月以上が経過して、ドイツは、やっと新政権発足に向け前進し始めた。 ただ、第4次メルケル政権発足の道筋が、これで固まったと楽観出来ないところに、今のドイツ政治の危...
メルケル時代の終わりの始まりか 三好範英(読売新聞編集委員)
ドイツの連邦議会(下院)総選挙は9月24日に投開票が行われ、メルケル首相が政権継続を確実にした。選挙結果の詳細についてはすでに各種メディアで報じられているので、ここでは繰り返さない。 私は9月6日から29日までドイツに出張し、現地で取材した。投票日の前日、ベルリンのある私的なパーティーの席で会った旧知の女性(博士号を持つドイツの某文化機関の幹部)は、顔を見合わせたなり、「ひどい選挙だ」と繰り...
ドイツでも独自核武装論 米新政権に拭えぬ疑念 三好範英(読売新聞編集委員)
マティス米国防長官による北大西洋条約機構(NATO)支持の発言にもかかわらず、トランプ政権の安全保障政策への懸念から、ドイツで米国の核の傘に頼らない核抑止力を持つべきかどうかの議論が起きている。日本と同様、平和主義の傾向が強いドイツでの核論議は、トランプ政権の政策次第では欧州での安全保障環境が大きく変わる可能性を示している。 ドイツを代表する週刊誌シュピーゲル(電子版)は、昨年11月の米大統...
東欧でも高まるトランプ政権への懸念 三好範英(読売新聞編集委員)
トランプ米新大統領の一挙手一投足に世界の注目が集まる中、最も強い懸念を持って見ているのが東欧諸国(バルト3国を含む)だろう。果たして米国はこの地域の安全保障にこれまで通りの明確な関与を約束してくれるのか――。 欧州連合(EU)加盟国の政治家17人が1月10日、トランプ氏に書簡を送り、新政権スタート後も米国は「対ロシア制裁を継続し」「ウクライナの分割を受け入れてはならない」と訴えた。書簡には、...
【第384回】共有できなかった欧州統合の理念
読売新聞編集委員 三好範英 欧州連合(EU)離脱を巡る英国民投票で、他のEU加盟国はそろって英国の残留を望んでいた。離脱決定により大陸欧州に激震が走ったといっても誇張ではない。ドイツのメルケル首相は声明で、「英国民の決定はとても残念。今日は欧州統合プロセスにとっての転機」と率直に表明した。言葉に力はなく、あたかも求愛が片思いだったことが分かって途方に暮れる恋人のような趣があ...