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2022.04.18 (月) 印刷する

ポーランドがウクライナを全面支援するわけ 三好範英(ジャーナリスト)

ウクライナ隣国ポーランドには、水色と黄色の2色に染められたウクライナ国旗があふれていた。公的な施設にはポーランド国旗と並び掲げられていたし、ワルシャワ市内のバスもウクライナ国旗をはためかせて走っていた。ロシアのウクライナ侵略以来、250万人以上のウクライナ避難民が流入したポーランドは、国を挙げてのウクライナ支援、避難民受け入れ態勢を取っていた。

避難民にはIDを付与

4月初め、避難民やポーランドの安全保障政策を取材するため、ポーランドの首都ワルシャワ、南部クラクフ、国境の町プシェミシルに行って来た。

すでにロシアによるウクライナ侵略が始まって5週間が経過していた。侵略直後、クラクフ、プシェミシルとも町中が避難民であふれていたというが、すでに避難民のために設置された案内所や一時宿泊施設を除いてはその姿を見ることは少なかった。もっとも、外見からはそうであるかどうかはわからず、スーツケースを引いた子供連れの女性や老人を見ると避難民と判断するだけだが…。

250万人というと日本の人口規模でいえば830万人だが、これだけの数を受け入れ、一時的な保護を与え、さらに必要に応じて第3国への移動を組織したポーランドの努力と成果は高く評価してもいいのではないか。

すでにウクライナに帰国した避難民も多い。また、ポーランド政府が避難民にIDカードを付与し、公共サービスを受けやすくするなど様々な厚遇策を取ったため、厚遇策目当てに両国の間を頻繁に行き来する者もいるというから、実際の受け入れ数はもっと少ないかもしれない。

彼らのおかれた境遇は千差万別であり、念のため一時的に隣国に避難した人もいれば、プシェミシルの鉄道駅で会った、16歳の男子高校生を抱えた家族は、「戦争が収束しても、復興までには時間がかかり教育の水準も下がるから、もうスペインに移住しようと考えている」と言っていた。

文化的親近性も好条件

もちろん全体として甚大な人道的悲劇であることに変わりはなく、ウクライナ国境のメディカ検問所で話を聞いた避難民の中には、周りのアパートの窓ガラスはほとんど破壊された、ようやく脱出できたと語っていた北東部ハリコフ出身の一家もいたし、涙で証言もできない子連れの母親もいた。

また、住居をあっせんする非政府組織(NGO)が運営している施設には、人身売買に気を付けるように注意を喚起する張り紙もあったから、避難民は違った種類の危険にさらされることもあるのだろう。

それでも、比較的順調な受け入れを可能としたのはまず、ポーランド国民の支援の姿勢、それと国際的な支援の手厚さがある。ポーランド東部国境の町メディカではポーランドや諸外国の人道支援団体がテントを連ねていたし、支援物資は豊富で避難民が飢えに苦しむといったことはまず考えられない。

ウクライナとポーランドの文化的親近性も好条件だった。料理、習慣はほとんど同じだし、ウクライナの一部はポーランドの領土だったこともあるから、人的関係も昔から深いに違いない。また近年ポーランド経済は順調で、外国から人を受け入れるときにありがちな、雇用が奪われるという懸念もないという。

わが戦いと見るポーランド

そしてなんといっても、ウクライナがポーランドの安全保障にとって死活的重要性があると多くの国民が感じていることが、連帯感高揚の最大の要因である。

ワルシャワで以前から知っている演劇関係者に会ったのだが、その人は「ポーランド人がウクライナを支援するのは、我々のために戦ってくれていると感じているから。そして、次は我々が侵略されると懸念しているから」と話していたが、正鵠を射ているのではないか。

ワルシャワで会った安全保障問題の専門家は、「ロシアは啓蒙思想の影響を受けていない。人権思想、私的財産などの観念がない。我々とは全く異質の価値観だ」と手厳しく言っていた。

両国民ともロシア(ソ連)に支配された時の苦難の歴史を共有している。ロシアという国家の持つ野蛮さ、非人道性を骨の髄まで知っているからこそ、戦い抜くしか道がないことが分かっている。

祖国防衛のために命を懸けている人々に向かい、「降伏した方がいい」などと発言する人がいる国のことを、ポーランド人は心底軽蔑するだろう。