ドイツのメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)が大連立に向けて正式交渉に入ることで合意し、SPDは1月21日、党大会でも正式交渉入りを承認した。昨年9月24日の連邦議会(下院)選挙から4か月以上が経過して、ドイツは、やっと新政権発足に向け前進し始めた。
ただ、第4次メルケル政権発足の道筋が、これで固まったと楽観出来ないところに、今のドイツ政治の危機的状況がある。
●捨てきれぬ再選挙の可能性
まず、SPDは連立参加への承認を、45万人の一般党員全員にも諮るとしている。一般党員には、党勢を立て直すには一旦下野すべき、と考える者が多い。連立協定がまとまっても、投票結果、土壇場でひっくり返る可能性はなお高いと見なければならない。
党員投票のハードルをクリアできたとしても、新政権の運営は第1~3次政権と比較して格段に難しくなるだろう。特に難民受け入れの拡大に関しては、新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に票を奪われたCSUが、強硬に反対している。
欧州統合についても、SPDのシュルツ党首はほとんど原理主義的とも言える統合推進派だが、もし統合推進がドイツの財政負担の拡大につながるならば、CDU・CSUの大勢は強く反対するだろう。
ドイツは憲法の規定で、新議会の招集後も次の首相が選出されるまでの間、今の内閣が任務を継続することになっているので、「政治空白」はとりあえず生じない。ただ、メルケル首相がこれまでのように、指導力を発揮することは難しい状況が続いている。場合によっては、任期途中での連立解消や総選挙実施の可能性も捨てきれない。
●先鋭化する社会の亀裂
幸いなことに、欧州経済を含む世界経済は拡大基調にある。政治の混乱がドイツや欧州の経済や社会にまで大きな支障となる段階には来ていない。
しかし、ドイツの連立交渉がさらに長期化するようなら、欧州統合の先行きにも大きな影を落とすのは間違いない。マクロン仏大統領は昨年9月、ユーロ圏共通予算など、欧州統合を前進させる意欲的な提案を行ったが、ドイツ側からこれに対する対案はいまだに示せていない。
比例代表制を基本としたドイツの選挙制度では、CDU・CSUとSPDの大政党が幅広い国民層を糾合できた時は、国民の意思の反映と政治の安定が両立した。だが、AfDの台頭など多党化状況になると、とたんに不安定化する負の側面が露わになる。
過去10年ほどの間に起きた世界金融危機、ユーロ危機に加え、2015年以来、100万人を超える難民を受け入れたことで、ドイツ社会の亀裂は先鋭化した。経済政策にせよ、社会政策にせよ、従来ならば妥協可能だった争点が、そうではなくなっている。
こうした現状を見ていると、ドイツ政治はこれまでのあり方からは推し量れない大きな変容の過程に入ったのではないかと思う。欧州でのドイツの影響力が増す中で、ドイツ内政にこれまで以上の注視が必要だろう。