公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.02.05 (月) 印刷する

米国のSLCM能力即時回復を歓迎する 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 米国防総省は2日、今後5~10年の新たな核政策の指針となる「核戦略体制の見直し」(Nuclear Posture Review-NPR-)を公表した。
 2009年4月のプラハ演説で、「核なき世界を目指す」として、同年のノーベル平和賞を受賞したオバマ前米大統領は、2010年のNPRで「非核攻撃抑止における核兵器の役割を削減する」とし、「米国は海軍水上艦艇と汎用潜水艦からの核兵器を含め、太平洋地域から核兵器前方展開から撤退する」としていた。
 それが今回のNPRでは、冷戦期に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約に違反しているロシアや、条約に批准していないことを良いことにINFを増強し続ける中国に対抗するため、「この能力を回復する努力を即時開始する」とした。
 具体的には、「現存する潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の弾頭の一部について爆発力を低減させ、小型核として運用」「核弾頭を搭載した海洋発射巡航ミサイル(SLCM)の再配備」を新たに提案した。
 また今回のNPRでは、最新鋭ステルス戦闘機F-35をはじめとする核・通常両能力装備機(Dual Capable Aircraft-DCA-)を前方展開させる政策を示した。米核抑止力に依存する我が国として素直に歓迎したい。

 ●中露と北が喜ぶICANの主張
 オバマ大統領と同様、ノーベル平和賞を昨年受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)の幹部が先ごろ来日し、インタビューしたNHK記者が、彼等の主張に相槌を打って聴く映像が報じられた。
 被爆国・日本こそ核兵器禁止条約に加わるべきだと一方的に非難するICANの主張通りになって得をするのは、飽くなき核・生物・化学兵器開発を推進している北朝鮮、クリミア半島併合時に戦術核使用を検討したと公言したロシアのプーチン大統領、そして一貫して核兵器の数・能力・防御力を増強している中国である。そのことが、どうしてわからないのであろうか。
 早速、日本のメディアには、今回のNPRについて核軍拡につながると懸念する論調が目立った。しかし、NPRの8頁の表をみれば、これら上記3カ国こそが2010年以降10前後の核運搬システムを開発してきたのに対し、米国は僅か1つ(F-35)だけだ。一方的に核軍拡を推進しているのはこれら3カ国であることは明らかだ。
 また「(核出力5キロトン以下に威力を抑えた)低出力(Low-Yield)核によって核使用の敷居が下がる」とする論調もあるが、53頁の表を見れば対空・対艦核ミサイル、核爆雷、核魚雷といった戦術核を開発して核使用の敷居を下げてきたのはロシアであることが判る。

 ●中国が異議唱えてこその安保政策
 今回のNPRでは、2020年までに使用でき、DCAに搭載可能な地中貫通型核爆弾B61-12の寿命延長プロフラム(Life Extension Program-LEP-)が記されているが、昨年8月30日の人民日報英語版は、本爆弾の威力を懸念する記事を掲載している。
 今回のNPRに対しても中国国防省の任国強報道官は4日、「中国の核の脅威を誇張しており、断固反対を表明する」との談話を発表した。
 憲法改正にせよ、集団的自衛権の行使にせよ、弾道ミサイル防衛にせよ、中国が異議を唱える安全保障政策を推進していくことこそが我が国の安全保障能力を高めることに繋がる。そのことは過去の経験則からも言える。