公益財団法人 国家基本問題研究所
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国基研ろんだん

2018.02.13 (火) 印刷する

中国の情報戦に鈍感すぎる日本 太田文雄(元防衛庁情報本部長)

 前回の米大統領選挙にも出馬した共和党のマルコ・ルビオ上院議員は5日、州内の4大学1高校に対し、中国政府肝煎りの文化機関「孔子学院」を閉鎖するように呼びかける書簡を送った。
 また7日には、ルビオ議員とともに共和党のトム・コットン上院議員が連名で、人民解放軍系のIT企業である華為(Huawei=ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の通信機器を米政府が購入・リースすることを禁止する法案を提出した。本法案は先月、2人の下院議員が提出した法案と類似している。
 孔子学院は中国共産党のプロパガンダを担っており、HuaweiとZTEの通信機器は入力情報が中国当局に筒抜けになる危険性があるというのが、その理由である。

 ●世界では相次ぐ孔子学院の閉鎖
 『孫子の兵法』は最終篇の第十三篇でスパイの用法を示しているが、スパイには5種類あるとしている。第1は、その土地に根を張る「郷間」、第2は敵の内部に入り込む「内間」、第3は我が方のために働く敵のスパイである「反間」、第4が偽情報を流す「死間」、最後まで生きのびて情報を齎す「生間」である。
 孔子学院は、外国で中国に有利な情報を発信し、中国シンパを作ることを目的としているので「郷間」に相当する。
 これに気がついた米国では2014年6月に大学教授協会が、米大学に孔子学院の閉鎖を勧告、その結果、同年9月にはシカゴ大学とペンシルバニア州立大学が閉鎖に踏み切っている。カナダ・トロントの大学でも同年10月に孔子学院との関係解消を決め、スウェーデンのストックホルム大学でも翌2015年6月に閉鎖を決めた。
 しかるに日本では、約20の大学が孔子学院を開設しているが、閉鎖の動きは全く見られず、国会でも閉鎖を求めて動く議員は見当たらない。

 ●華為の日本法人は経団連の有力なメンバー
 HuaweiとZTEの製品を組み込んだ電子機器については、米下院情報特別委員会が早くも2012年10月、大量の情報を中国に送信していると非難する報告書を発表している。オーストラリア政府も同年、自国の国家事業へのHuaweiの入札を禁止した。
 また2013年の米統合歳出・暫定予算延長法でもHuaweiをはじめとする中国製通信機器には予算を使わないことなどの制約が付いている。インド内務省も2005年に中国を念頭に「外国製の通信機器にはスパイウエアが組み込まれている」と警告している。
 ところが日本では、こうした安全保障上の懸念が殆どなされないばかりか、Huaweiの日本法人は日本経団連の有力なメンバーである。衆参両院のいずれでも、これらの企業の製品が政府内の通信機器として入り込むことを制限する法案は提出されていない。
 孔子学院と同様、中国の情報発信・収集に警戒を怠らない諸外国の動向に比して、余りに鈍感ではあるまいか。