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2018.03.09 (金) 印刷する

連立成ってもメルケルの求心力は低下 三好範英(読売新聞編集委員)

 昨年(2017年)9月24日の総選挙以来、5カ月余り続いてきたドイツの政治空白に3月4日、終止符が打たれた。社会民主党(SPD)の党員投票でキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との「大連立」が承認されたことから、ようやく3月14日、メルケル第4次政権が発足する運びとなった。
 ただ、この間、断続的に続いた連立交渉はドイツ社会の亀裂の深さを露わにした。CDU・CSUとSPDの執行部間では、すでに連立協定が結ばれているが、メルケルの求心力の低下は否めない。
 ドイツ連邦共和国は西ドイツ時代以来、総選挙後、発足した内閣はすべて連立政権であるが、スタートまでにこれほど手間取った例はない。

 ●難民問題など対立解消せず
 その原因は、メルケル首相が第3次政権までに遂行してきたユーロ政策や寛容な難民政策が、ドイツ社会の分断を先鋭化させたことにあるだろう。他国への財政支援、難民問題は感情的な対立に発展しがちだ。これまでのような妥協による政治が難しくなっているのである。
 最初に試みられたCDU・CSU、自由民主党(FDP)、緑の党の間の連立交渉が決裂したのは、各党の間で難民問題を中心に根本の対立が解消しなかったからだ。
 総選挙で反ユーロ、反難民を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に107万票もの支持を奪われたCDU・CSUでは、メルケル路線に反発する保守派グループが勢力を強めている。
 一方、SPD内ではCDU・CSUとの連立を嫌う左派が公然と反対を唱え、党員投票直前まで承認は予断を許さない、と見られていた。
 ようやく発足に至った新政権では、SPDが外相と財務相のポストを得た。財務相にはショルツSPD党首代行(ハンブルク市長)が就くと見られている。

 ●対米関係の改善も望み薄
 フランスのマクロン大統領は就任以来、ユーロ圏財務相の創設などを含む欧州統合前進に意欲を見せているが、新政権発足でようやく、ドイツ側にもそれに応える体制が整った。
 これまでショイブレ前財務相(CDU)は強力に財政緊縮路線を推し進め、欧州政策でフランスとの政策協調は難しかった。財政出動に積極的なSPD財務相が誕生することから、独仏枢軸で欧州統合が前進するとの期待も生まれている。
 しかし、フランスの欧州統合理念をそのまま受け入れる雰囲気は今のドイツにはない。連立協定には、SPDが求めていたユーロ圏の財政移転メカニズムの導入は盛り込まれなかった。
 CDU・CSU内では、これ以上AfDに支持を奪われたくない、という雰囲気が強まっており、そうした意向が通ったものと見られている。党内の反発、AfDの支持拡大への対応を念頭に置かねばならず、メルケル氏が欧州政策で指導力を発揮することは難しくなるだろう。
 メルケル首相とトランプ米大統領との関係改善も当面、望み薄だろう。メルケル氏は対ロシア制裁堅持で妥協しない。対中関係では経済面で関係拡大が続く。世界の主要国との関係は、第3次政権からの継続だろう。